星泥棒
星泥棒
その昔、人類の地上を照らす手段がまだ炎だけだった頃、その男は言った、「地上に光を灯そう。」と
彼は一風変わった商売のやり手で、夜空から星を仕入れそれを人々に売り廻る商売人だった。
私達にとっては何とも変哲がない事柄だが、当時のこの地球住民にとってこれは画家的な技術進歩への第一歩だった。
だがご存知の通り、どの時代でも新しい発明とは値が張るものである。この男の商売も決して例外ではなかった。
男はある日、ある島の国王の所へ出向き、王様に向かってこう云った、
「私は星を人々に売っている者です。」
王様は言った、
「ワシはちょうどこの世の金で買える物は全て手に入れてしまったところで退屈をしていたのじゃ。だがしかし決して暇というわけではない、つまらん用事なら帰ってくれ。」
「まあまあ、そうおっしゃらなくても。貴方は今金で買える全ての物を手に入れたとおっしゃいましたが、まだ一つ手に入れられてない物があります。」
「ほう、なんじゃ貴様、このワシをおちょくっているのかね?」
「いえ、とんでもございません。貴方がまだそれを手に入れてないのも無理はありません。何故ならそれは新発明のような物なんですから。」
「ほう、お前は少しワシとまともな会話ができるじゃないか。それでその新発明とはどういったものなのだ?」
「はい、それは『星』です。私は夜空から星を仕入れそれを人々に売って周る商売人です。」
「ほう、世の中には変わった冗談を言うやつもいたもんだ。しかし丁度退屈してたとこだし、どうだね名も無き道化師よ、お前の芸を一つここで披露してみなさい。」
男は「分かりました」とその部屋にあったバルコニーに出て、右手を一つ星の上にかざした。そして指をパチンッと鳴らした。
するとどうだろう、その星は一瞬眩く輝いたかと思うと、すぐに消えた。男は駆け足で王様の所へ戻り跪くと、その右手を広げてみせた。するとたちまち宮殿はまるで昼間の様に明るくなり、周りにいた人達は怯んだ。それもそのはず、今まで夜を灯していたのはせいぜいゆらゆら揺らぐ炎だけだったのに、その [ 新しい発明品 ] は人々の眼を刺し抜けていったのだから。
その男には早速代価が支払われた。それは屈強な戦士が数人でも一度に運べる量ではとてもなかった。
彼は数匹の馬が引く馬車を数十台借りて、その財宝を持ち帰った。
次の日からその [ 星商人 ] の噂は街中とその近辺にも広まり、沢山の人達が星商人を求めて詰め寄った。
「あんた星を売るんだって?!いくらだ!?金ならいくらでもここにある!」「おい、押すんじゃない!」「今お前割り込んだだろう?!俺はお前が家を出るずっと前から先にここに居たんだ!おとなしく最後尾に行きやがれ!」
とまあこんな風に、星商人が居た街は良くも悪くも賑やかだった。
星商人は大陸一つを領することは朝飯前だろうという巨額の富を数日で築き上げた。しかし夜空の星は全く減っていなかった。
光を手に入れた市民達は早速、その星達で夜を、暗闇を照らし始めた。
ある人は六等星を寝床の横をほんのりと照らし、寝つきが良くない夜をその明かりで点した。またある人は四等星を自分の店の前に点し、ある街は一等星を街中に点し、街全体を点した。
一つ指を弾き、
一つ暗くなる。
一つ点し、
二つ明るくなった。
それに反して夜空の星は全く減っていない様に見えた。
人々は大いに喜んだ。これで夜の獣や、正体の分からない寝る前に現れては頭を支配していく謎の思考に怯える必要がなくなったからである。
「なんだかここ最近、眠りの質が変わってきた気がするんだよ。」
「そういえば、周りを彷徨いていた狼の群れもどこかへ行ってしまったみたいだね。」
「いやはや、便利な世の中になったものだ。」
便りを人の手足によって運んでいたこの時代でも、彼の噂は牧場の牛の鳴き声よりも早く広がっていった。その噂を追いかけるように、[星大商人] は世界中を駆け抜けて、大きな拠点も世界中に設けた。
やがて長い年月が経ち、世界のどこの隙間にも夜が消滅した。今までの夜空とは打って変わって、それはまるで真っ黒でだだっ広いキャンバスの様だった。後にこの時代の一日を私達は「青空の昼と、黒空の昼」と名づけた。
この世界ではいい事は決して続かないものである。人々に異変が起き始めたのも実はこの頃。
人々は寝る事、休む事を忘れたのである。
いや、人々だけではなくそれは全ての命に関して当てはまる事柄だった。植物は絶えず光合成を繰り返し、動物は常に動き回る人間に鞭を打たれ、人間は青空のうちに働き、黒い空の時に女は体を売り、売れない者は酒を運び、男はそれを飲む者に別れ、この日々が繰り返されていった。
人類以外の命もまた同じであった。
人間の身体の構造は異常なものだが、その他の清き命達の構造というのは人間に比べて単純で弱々しいものだった。だから少し前に消滅した夜を追って、夜行性の動物は死に衰え、道端や王宮、森林など場所を問わず死滅していった。
ふと一人が顔を上げた。いつもと変わらない同じ黒い空が広がっている。別に何の変哲もない。だが何か心に引っ掛かったが、最初それが何か分からなかった。
「なあなあ、何か空が少し変じゃないか?」
「えぇ?どうしたっていうんだい?」
「だから、空に何か違和感はないかと言ってんだい。」
「知ったこっちゃねぇやい、そんなことより見ろよあれ、美味そうな女子が歩いてらぁ!」
「ふん、くだらん」
男は呆れたようにそっぽを向いていると、隣にいた青年がこう話しかけてきた。
「あなたもそう思いますか。実は僕も同じような事を考えていました。」
「やはり気のせいじゃないよな、何か変だ。」
「外に出て、一緒にその違和感を観察しようじゃないか。」
二人は騒がしい酒場を後にし、本当は鈴虫が毎晩公演をしていた、草の生い茂った広場に並んで寝そべり空を見上げた。
二人は無言で空を見上げる。
虫一つ鳴いていない本当の静けさ。
この異変は何だろうか。
一体何にひかかっているのだろうか。
きっと僕らが気づけないのはこの世に物がありふれているからだろう。
二人は言葉を交わさずとも、同時に何かに気付いたのが分かった。
「あの美しい星空はどこにいったのだろう?」
そこには永遠の無が広がっていた。それはまるで底が知れない大海に独り残されたような感覚だった。なぜ星空はそこに存在しないのだろう?
二人は次の日から人々に語りかけた。
「眼を覚ましてくれ、夜空から星が消えたんだ!」
「へぇそうかい、だがしかしそれがどうかしたのかね?」
「どうというわけじゃないんだけど、、」
「そうかい、じゃあ放っといてくれないかね、私は今忙しいんだ。はぁ、忙し急がし。」
「何を失ったかより、何を得てきたかに重点を置くのが得策ではないかね?」
「私達の生活は豊かになったんだ、それでいいんじゃないかい?」
人々は最初耳を貸すことさえしなく、二言目には忙しいと言っていつ何時も何かに追われていた。
しかし中にはやることが定まらなく、無駄に放浪している者もいた。
「僕はあなたの考えに賛成だよ。」
「現代人は何かに追われ過ぎている、それもきっと発展し過ぎたせいだろう。」
やがて美しい星空がないことを嘆き始めた。一体誰の仕業だろうか?一体誰のせいにすればよいのだろうか?結論はすぐに出た。
「そうだ!あの [星泥棒] め!」
欲に溺れていた男達は起き上がり、血眼になって星泥棒を探し回った。そしてすぐに星泥棒は捕まり、高台に縛られた。
そして人々は問いた。
「やい星泥棒、なぜあんなに美しかった星空を消しやがった!?」
「どうもこうも皆さんに頼まれた事を私の親切で叶えてあげただけでございます。」
「もとの夜空を、星空を返せ!」
「私は盗る事はできても返す事はできません。」
民衆は満場一致の結果で星泥棒を火炙りにして処刑した。
月日は経った後も人々は相変わらず昼夜問わず働いた。
女は体を売り、売れない者は酒を運び、男がそれを飲む。
そして寿命がくる前に人々は絶滅した。休まず動き続けていたのだから当然のことだ。
地上を光で汚す者はいなくなり、地上に夜が再びやって来た。夜行性の動物は新たに繁殖し、植物には休息が戻った。
人という者は一人っことしていない。
これが人類が生まれる以前にあった、俗に言う「平和」というものであった。
彼は一風変わった商売のやり手で、夜空から星を仕入れそれを人々に売り廻る商売人だった。
私達にとっては何とも変哲がない事柄だが、当時のこの地球住民にとってこれは画家的な技術進歩への第一歩だった。
だがご存知の通り、どの時代でも新しい発明とは値が張るものである。この男の商売も決して例外ではなかった。
男はある日、ある島の国王の所へ出向き、王様に向かってこう云った、
「私は星を人々に売っている者です。」
王様は言った、
「ワシはちょうどこの世の金で買える物は全て手に入れてしまったところで退屈をしていたのじゃ。だがしかし決して暇というわけではない、つまらん用事なら帰ってくれ。」
「まあまあ、そうおっしゃらなくても。貴方は今金で買える全ての物を手に入れたとおっしゃいましたが、まだ一つ手に入れられてない物があります。」
「ほう、なんじゃ貴様、このワシをおちょくっているのかね?」
「いえ、とんでもございません。貴方がまだそれを手に入れてないのも無理はありません。何故ならそれは新発明のような物なんですから。」
「ほう、お前は少しワシとまともな会話ができるじゃないか。それでその新発明とはどういったものなのだ?」
「はい、それは『星』です。私は夜空から星を仕入れそれを人々に売って周る商売人です。」
「ほう、世の中には変わった冗談を言うやつもいたもんだ。しかし丁度退屈してたとこだし、どうだね名も無き道化師よ、お前の芸を一つここで披露してみなさい。」
男は「分かりました」とその部屋にあったバルコニーに出て、右手を一つ星の上にかざした。そして指をパチンッと鳴らした。
するとどうだろう、その星は一瞬眩く輝いたかと思うと、すぐに消えた。男は駆け足で王様の所へ戻り跪くと、その右手を広げてみせた。するとたちまち宮殿はまるで昼間の様に明るくなり、周りにいた人達は怯んだ。それもそのはず、今まで夜を灯していたのはせいぜいゆらゆら揺らぐ炎だけだったのに、その [ 新しい発明品 ] は人々の眼を刺し抜けていったのだから。
その男には早速代価が支払われた。それは屈強な戦士が数人でも一度に運べる量ではとてもなかった。
彼は数匹の馬が引く馬車を数十台借りて、その財宝を持ち帰った。
次の日からその [ 星商人 ] の噂は街中とその近辺にも広まり、沢山の人達が星商人を求めて詰め寄った。
「あんた星を売るんだって?!いくらだ!?金ならいくらでもここにある!」「おい、押すんじゃない!」「今お前割り込んだだろう?!俺はお前が家を出るずっと前から先にここに居たんだ!おとなしく最後尾に行きやがれ!」
とまあこんな風に、星商人が居た街は良くも悪くも賑やかだった。
星商人は大陸一つを領することは朝飯前だろうという巨額の富を数日で築き上げた。しかし夜空の星は全く減っていなかった。
光を手に入れた市民達は早速、その星達で夜を、暗闇を照らし始めた。
ある人は六等星を寝床の横をほんのりと照らし、寝つきが良くない夜をその明かりで点した。またある人は四等星を自分の店の前に点し、ある街は一等星を街中に点し、街全体を点した。
一つ指を弾き、
一つ暗くなる。
一つ点し、
二つ明るくなった。
それに反して夜空の星は全く減っていない様に見えた。
人々は大いに喜んだ。これで夜の獣や、正体の分からない寝る前に現れては頭を支配していく謎の思考に怯える必要がなくなったからである。
「なんだかここ最近、眠りの質が変わってきた気がするんだよ。」
「そういえば、周りを彷徨いていた狼の群れもどこかへ行ってしまったみたいだね。」
「いやはや、便利な世の中になったものだ。」
便りを人の手足によって運んでいたこの時代でも、彼の噂は牧場の牛の鳴き声よりも早く広がっていった。その噂を追いかけるように、[星大商人] は世界中を駆け抜けて、大きな拠点も世界中に設けた。
やがて長い年月が経ち、世界のどこの隙間にも夜が消滅した。今までの夜空とは打って変わって、それはまるで真っ黒でだだっ広いキャンバスの様だった。後にこの時代の一日を私達は「青空の昼と、黒空の昼」と名づけた。
この世界ではいい事は決して続かないものである。人々に異変が起き始めたのも実はこの頃。
人々は寝る事、休む事を忘れたのである。
いや、人々だけではなくそれは全ての命に関して当てはまる事柄だった。植物は絶えず光合成を繰り返し、動物は常に動き回る人間に鞭を打たれ、人間は青空のうちに働き、黒い空の時に女は体を売り、売れない者は酒を運び、男はそれを飲む者に別れ、この日々が繰り返されていった。
人類以外の命もまた同じであった。
人間の身体の構造は異常なものだが、その他の清き命達の構造というのは人間に比べて単純で弱々しいものだった。だから少し前に消滅した夜を追って、夜行性の動物は死に衰え、道端や王宮、森林など場所を問わず死滅していった。
ふと一人が顔を上げた。いつもと変わらない同じ黒い空が広がっている。別に何の変哲もない。だが何か心に引っ掛かったが、最初それが何か分からなかった。
「なあなあ、何か空が少し変じゃないか?」
「えぇ?どうしたっていうんだい?」
「だから、空に何か違和感はないかと言ってんだい。」
「知ったこっちゃねぇやい、そんなことより見ろよあれ、美味そうな女子が歩いてらぁ!」
「ふん、くだらん」
男は呆れたようにそっぽを向いていると、隣にいた青年がこう話しかけてきた。
「あなたもそう思いますか。実は僕も同じような事を考えていました。」
「やはり気のせいじゃないよな、何か変だ。」
「外に出て、一緒にその違和感を観察しようじゃないか。」
二人は騒がしい酒場を後にし、本当は鈴虫が毎晩公演をしていた、草の生い茂った広場に並んで寝そべり空を見上げた。
二人は無言で空を見上げる。
虫一つ鳴いていない本当の静けさ。
この異変は何だろうか。
一体何にひかかっているのだろうか。
きっと僕らが気づけないのはこの世に物がありふれているからだろう。
二人は言葉を交わさずとも、同時に何かに気付いたのが分かった。
「あの美しい星空はどこにいったのだろう?」
そこには永遠の無が広がっていた。それはまるで底が知れない大海に独り残されたような感覚だった。なぜ星空はそこに存在しないのだろう?
二人は次の日から人々に語りかけた。
「眼を覚ましてくれ、夜空から星が消えたんだ!」
「へぇそうかい、だがしかしそれがどうかしたのかね?」
「どうというわけじゃないんだけど、、」
「そうかい、じゃあ放っといてくれないかね、私は今忙しいんだ。はぁ、忙し急がし。」
「何を失ったかより、何を得てきたかに重点を置くのが得策ではないかね?」
「私達の生活は豊かになったんだ、それでいいんじゃないかい?」
人々は最初耳を貸すことさえしなく、二言目には忙しいと言っていつ何時も何かに追われていた。
しかし中にはやることが定まらなく、無駄に放浪している者もいた。
「僕はあなたの考えに賛成だよ。」
「現代人は何かに追われ過ぎている、それもきっと発展し過ぎたせいだろう。」
やがて美しい星空がないことを嘆き始めた。一体誰の仕業だろうか?一体誰のせいにすればよいのだろうか?結論はすぐに出た。
「そうだ!あの [星泥棒] め!」
欲に溺れていた男達は起き上がり、血眼になって星泥棒を探し回った。そしてすぐに星泥棒は捕まり、高台に縛られた。
そして人々は問いた。
「やい星泥棒、なぜあんなに美しかった星空を消しやがった!?」
「どうもこうも皆さんに頼まれた事を私の親切で叶えてあげただけでございます。」
「もとの夜空を、星空を返せ!」
「私は盗る事はできても返す事はできません。」
民衆は満場一致の結果で星泥棒を火炙りにして処刑した。
月日は経った後も人々は相変わらず昼夜問わず働いた。
女は体を売り、売れない者は酒を運び、男がそれを飲む。
そして寿命がくる前に人々は絶滅した。休まず動き続けていたのだから当然のことだ。
地上を光で汚す者はいなくなり、地上に夜が再びやって来た。夜行性の動物は新たに繁殖し、植物には休息が戻った。
人という者は一人っことしていない。
これが人類が生まれる以前にあった、俗に言う「平和」というものであった。

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