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幕間:『瑛子』②
姉のことは嫌いだったが、それでも肉親の死は流石にショックだった。
姉を追い込んだであろう職場への怒りもあった。
自分が口を滑らせたことが原因の一つかもしれない、という負い目もあっただろう。
なんだかんだで私は姉のことを愛していたのだ。
社長はすぐに特定できたが、「あんでぃろ」と名乗るプログラマーのことは最後まで分からなかった。
プログラマーは顔も名前も表に出していなかった。
唯一の手がかりは、会社の宣伝動画に社長と共に出演していた時の音声のみだ。
開発末期の動画で、プログラマーは疲れ切った声で『S/Witch』をそれでも必死に宣伝していた。
特定して、どうしたいという思いがあったわけではない。
実際、社長にも何もしていない。
後になって社長が自殺したと聞いた時は、ざまあみろという気持ちになったが、それくらいだ。
それでも私は「あんでぃろ」のことを探した。
それしか手がかりがないので、宣伝動画も何度も聞き直して声を脳みそに刻みつけた。
私が「もしや……」と思ったのは、それから四年後、たまたま再生したゲーム配信チャンネルで若色涼太の声を聞いた時だ。
あまりにも似ていた。
似過ぎていた。
本人としか思えなかった。
それでも断定はできない。
私はちょうど転職を考えていたので、ダメ元で若色の所属する芸能事務所を受けて採用された。
まだ芽の出ていなかった若色の担当を買って出たところ、これもあっさりOKが出た。
ただ、若色のマネージャーを勤めているうちに、だんだん若色の正体など、どうでも良くなってきた。
若色涼太は少しだけ気が弱くて自分に甘いが、素直で努力家でおっちょこちょいで根が優しい青年だった。
仮に若色があんでぃろだったとして、彼が社長と一緒になって姉を追い詰めたなんて、とても思えなかったのだ。
私は若色の担当マネージャーを真面目に務め続け、彼の成功を共に喜んだ。
だが、先日――。
マネージャー業務の一環として、若色の配信チャンネルの投稿アンケートを集計している時に、『S/Witch』の名前を目にしたのだ。
そう、姉が開発していたゲームだ……。
どうやら再販売されるらしい。
開発元が権利を手放したゲームを二束三文で買い叩いて再販売する会社の事業のようだ。
アンケートに寄せられた『S/Witch』の数は僅かだったが、集計担当は私一人で、この集計結果も当然私しか知らない。
だから、私は票を操作した。  
社長はもう自殺しているし、若色が悪人とも思えないから今さら復讐という話でもない。
ただ、姉の処女作を若色にプレイしてもらいたかった。
操作性がクソすぎて誰もクリアしていないようだが、最後までプレイして、姉の企画やシナリオを正当に評価するくらいのことは、世界で一人くらいしてあげても良いはずだ。
その後、若色涼太があんでぃろだと私は確信した。
配信で、若色が『S/Witch』のタイトル名を口にした時の独特のイントネーションが、過去の宣伝動画のそれと全く同じだったのだ。
……なら、やはり姉の遺作を最後までプレイして頂こう!
プログラマーなんだからそれくらいの義務はあるよね!
私は悪戯半分にそう思っていた。
ところが、だ。
私も発売日に購入してみて、その劣悪極まる操作性に愕然としたのだが……。
それどころではなかった。
まさか、あんなものが仕込まれていたなんて。
いくらなんでも弱すぎると思っていたのだ。
姉の精神が。
姉がいくら脆弱でも、作ったゲームがクソゲーになったくらいで自殺するなんて……。
そう不思議に思っていたのだ。
その謎が一気に解けた。
慣れない色仕掛けに失敗した上に、こんな恥まで晒されるなんて。
社長がまだ生きていたら、私が今すぐ殺しに行くところだった。
だが、もう一人許せない相手がいる……。
こんなものを組み込んだプログラマーだ。
社長にプログラム能力がなかったことは明らかで、これは明らかにあんでぃろ……若色涼太の仕業だ。
いくら姉が無能なカスでも、こんなことが許されるわけがない!
若色涼太も同罪だ!
しかし、どうしよう……。
若色の配信は二日後だ。
こんな写真が全世界に公開されるなんて絶対に許せない。
いや、何かしら理由をつければ若色の配信を止めること自体はできるだろうが、それでも再販売された『S/Witch』が大勢にプレイされるのは変わらない。
調べてみると『S/Witch』はクソゲーだとか呪われたゲームだとか、不名誉な方向で一定の知名度は持っているようだ。
写真の意味は肉親の私だから分かったけれど他の人には意味不明だろう。
それでも多くの人がプレイすればいつかは誰かが気付く可能性がある……。
どうしよう……どうしよう……。
*
その時に私が下した結論は今になって思えば正気ではなかった。
けど、ゲームの中であの写真を見て、そして、姉の声を聞いて……。
私はメチャクチャに動揺していたし、異様な焦燥感にも駆られていた。
胸の奥から湧き上がる怒りと恨みの念がとても抑えきれなかったのだ。
姉を追い込んだであろう職場への怒りもあった。
自分が口を滑らせたことが原因の一つかもしれない、という負い目もあっただろう。
なんだかんだで私は姉のことを愛していたのだ。
社長はすぐに特定できたが、「あんでぃろ」と名乗るプログラマーのことは最後まで分からなかった。
プログラマーは顔も名前も表に出していなかった。
唯一の手がかりは、会社の宣伝動画に社長と共に出演していた時の音声のみだ。
開発末期の動画で、プログラマーは疲れ切った声で『S/Witch』をそれでも必死に宣伝していた。
特定して、どうしたいという思いがあったわけではない。
実際、社長にも何もしていない。
後になって社長が自殺したと聞いた時は、ざまあみろという気持ちになったが、それくらいだ。
それでも私は「あんでぃろ」のことを探した。
それしか手がかりがないので、宣伝動画も何度も聞き直して声を脳みそに刻みつけた。
私が「もしや……」と思ったのは、それから四年後、たまたま再生したゲーム配信チャンネルで若色涼太の声を聞いた時だ。
あまりにも似ていた。
似過ぎていた。
本人としか思えなかった。
それでも断定はできない。
私はちょうど転職を考えていたので、ダメ元で若色の所属する芸能事務所を受けて採用された。
まだ芽の出ていなかった若色の担当を買って出たところ、これもあっさりOKが出た。
ただ、若色のマネージャーを勤めているうちに、だんだん若色の正体など、どうでも良くなってきた。
若色涼太は少しだけ気が弱くて自分に甘いが、素直で努力家でおっちょこちょいで根が優しい青年だった。
仮に若色があんでぃろだったとして、彼が社長と一緒になって姉を追い詰めたなんて、とても思えなかったのだ。
私は若色の担当マネージャーを真面目に務め続け、彼の成功を共に喜んだ。
だが、先日――。
マネージャー業務の一環として、若色の配信チャンネルの投稿アンケートを集計している時に、『S/Witch』の名前を目にしたのだ。
そう、姉が開発していたゲームだ……。
どうやら再販売されるらしい。
開発元が権利を手放したゲームを二束三文で買い叩いて再販売する会社の事業のようだ。
アンケートに寄せられた『S/Witch』の数は僅かだったが、集計担当は私一人で、この集計結果も当然私しか知らない。
だから、私は票を操作した。  
社長はもう自殺しているし、若色が悪人とも思えないから今さら復讐という話でもない。
ただ、姉の処女作を若色にプレイしてもらいたかった。
操作性がクソすぎて誰もクリアしていないようだが、最後までプレイして、姉の企画やシナリオを正当に評価するくらいのことは、世界で一人くらいしてあげても良いはずだ。
その後、若色涼太があんでぃろだと私は確信した。
配信で、若色が『S/Witch』のタイトル名を口にした時の独特のイントネーションが、過去の宣伝動画のそれと全く同じだったのだ。
……なら、やはり姉の遺作を最後までプレイして頂こう!
プログラマーなんだからそれくらいの義務はあるよね!
私は悪戯半分にそう思っていた。
ところが、だ。
私も発売日に購入してみて、その劣悪極まる操作性に愕然としたのだが……。
それどころではなかった。
まさか、あんなものが仕込まれていたなんて。
いくらなんでも弱すぎると思っていたのだ。
姉の精神が。
姉がいくら脆弱でも、作ったゲームがクソゲーになったくらいで自殺するなんて……。
そう不思議に思っていたのだ。
その謎が一気に解けた。
慣れない色仕掛けに失敗した上に、こんな恥まで晒されるなんて。
社長がまだ生きていたら、私が今すぐ殺しに行くところだった。
だが、もう一人許せない相手がいる……。
こんなものを組み込んだプログラマーだ。
社長にプログラム能力がなかったことは明らかで、これは明らかにあんでぃろ……若色涼太の仕業だ。
いくら姉が無能なカスでも、こんなことが許されるわけがない!
若色涼太も同罪だ!
しかし、どうしよう……。
若色の配信は二日後だ。
こんな写真が全世界に公開されるなんて絶対に許せない。
いや、何かしら理由をつければ若色の配信を止めること自体はできるだろうが、それでも再販売された『S/Witch』が大勢にプレイされるのは変わらない。
調べてみると『S/Witch』はクソゲーだとか呪われたゲームだとか、不名誉な方向で一定の知名度は持っているようだ。
写真の意味は肉親の私だから分かったけれど他の人には意味不明だろう。
それでも多くの人がプレイすればいつかは誰かが気付く可能性がある……。
どうしよう……どうしよう……。
*
その時に私が下した結論は今になって思えば正気ではなかった。
けど、ゲームの中であの写真を見て、そして、姉の声を聞いて……。
私はメチャクチャに動揺していたし、異様な焦燥感にも駆られていた。
胸の奥から湧き上がる怒りと恨みの念がとても抑えきれなかったのだ。
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