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原案:狩野英孝 著者:架神恭介 キャラクター原案:倉持由香 プロデュース:株式会社ビーグリー

幕間:『瑛子』①

昭和78年6月1日23時34分  ――6年前――

 その日、私は電話口で苛立ち混じりの説教をしてしまった。
弱々しくべそをかく姉の態度が気に食わなかったからだ。

「さっきから会社が悪い、上司が悪いってばかりだけどさ。お姉ちゃんは状況を変えるためにできることは全部やったの?」

 だが、私の叱責にも姉はもじもじとした様子で、「だって……」「でも……」などと口ごもるばかりだ。
昔から奥手で弱気で他責思考な姉だったが今は輪をかけてひどい。
我が肉親ながら情けない。

「お姉ちゃんがずっと温めていたネタだったのは分かるし、それがクソゲーになりそうなのも辛いと思うし、話を聞く限り、その社長は紛れもないクソだけど、でも、社会ってそんなもんだよ」
「け、けど……私の初めての作品が……こんなの、なんて……私の、名前が、ずっとこんなもので……」
「制作物が思うようにならないのなんて当たり前だよ。その中でも全力を尽くして、最大限の物を作って、それで後は批判も非難も受け止める。それがクリエイターでしょ?」

 甘えているとしか思えなかった。
姉は自分の今後のキャリアが、今作っているクソゲーに汚染されるように感じているのだろう。
けど、そんな未来の危惧よりも、今目の前の作品に全力で向き合って、少しでもユーザーの満足度を高められるよう足掻くべきだと思った。
何を嘆いてるんだ、馬鹿馬鹿しい。

 双子の姉のことは決して好きではなかった。
顔も声もそっくりだが性格はまるで違う。
自分は高校卒業後、すぐにテレビ業界に入って、荒波の中で揉まれながらやってきた。
それなりの評価を得てきたと自負している。

 一方で姉は、私が働いていた間、女子大で文学などをやりながら、ネット怪談やホラーゲームにハマっていた。
キラキラ女子大生でもやってれば、それなりにコネも作れただろうに、それすらしない。
小説家になりたいなどと言って何度も構想を語ってきたが、結局、一作も書き上げなかった。
就活にもほとんど失敗。

 それでもゲーム開発会社に企画を持ち込んで採用を勝ち取ったガッツだけは評価していたのだが。
……姉を採用するような会社なんて、まともなはずがなかったのだ。

「で、でも……どうしようもないっていうか、社長に何を言っても、資金も、納期もないって……」

 私はゲーム開発なんて完全に門外漢だが、姉の話を聞く限り、どう考えても死んでるプロジェクトだった。

まず人員がほとんど残っていない。
姉と社長の他にはプログラマー一人しかいないようだが、姉なんてロクな戦力にならないだろうから、実質、プログラマーが一人で作ってるようなものだろう。

姉はプログラマーの力量にもブツブツ文句を言っていたが、姉にプログラムの質なんて分かるわけがない。
私はむしろプログラマーに同情していた。

 しかし、何よりも足りていないのは運転資金だろう。
資金がないから人も雇えないし、納期も伸ばせない。
姉は「社長はブラブラ出かけてばかり……」と言っていたが、これも実際はどうか分からない。

資金調達に駆けずり回っているのではないか……と思わなくもない。
まぁ、いずれにせよ、身の丈に合わない開発を始めた社長の力量不足に原因はある。

 姉は企画自体は採用されたものの、それ以外のディレクション能力が低かったのだと思う。
連日のように社長から怒鳴られまくっているようだ。
それも当たり前だ。
チームマネジメントもスケジュール管理も予算管理も姉にできるとは思えない。
姉にディレクションを一任するとか正気の沙汰ではない。

 ハッキリ言って詰んでいる。
どうにかなる気がしない。
だから、私は半ばヤケクソ気味に言ったのだ。

「あのさ……。お姉ちゃんさ、本当に何とかしたいんだったら、もう手段を選んでる場合じゃないよ」
「え……」
「お姉ちゃんの今持ってる一番の武器は若さだよ」
「え、え、それって、ど、ど、どういう……」
「だからさ、社長に色仕掛けとかさ」

 今となっては私は後悔している。
あんなことを口走ったことを。

 だが、あの時に私が言わんとしたことは、そうではない。
そうではなかったのだ。

 社長がもう少しゲームの内容面に力を入れて、資金面のリスクをもう少し被ってくれるように、少しだけ社長の懐に入り込めないか……そのくらいの意味だった。
可愛げの一つでも振り撒いて、社長をもう少し味方に付けないとムリだと思ったのだ。

 私だって時には女の武器を使って職場をコントロールすることもある。
上司や同僚、取引先へのリップサービスは怠らないし、さり気なくドジっ子を演じながら普段の仕事はキッチリこなすといった「演出」も使う。
そういう図々しさというか、ふてぶてしさのようなものが姉にも必要だと言いたかったのだ。

 それがまさか、あのクソ奥手の姉が、私の言葉をあんなに大胆に解釈するなんて思わなかったし、それを真に受けたであろう社長の軽挙妄動も信じがたいものがあった。
社長は姉のモーションを本当に本当に本気にしたようだった。
姉も姉だが、社長も社長で経験の少ない人生を送ってきたに違いない。

 結果として、姉は発売後に自殺した。
私はゲームはプレイしていないが、やはりクソゲーだったらしい。

姉の体を張った色仕掛けも功を奏さず、資金難は解決せず、クオリティも上がらず、姉の処女作は誰もが認めるクソの中のクソとしてこの世に生まれ落ちたわけだ。

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