殺人犯ですが助けてください、呪われたクソゲーがクリアできません!チャンネル登録お願いします
7-3.休憩
そう断ってから俺は皆に尋ねた。
「二週間前に投票された方、どのゲームに投票したか教えて下さい」
俺……というか庵藤が今回配信することに決まったのは『S/Witch』だったが、これは二週間前の視聴者アンケートの結果として決まったものだった。
『S/Witch』は旧作配信サービスから二日前に再発売されている。
確かに、ゲーム実況者がもし配信するのなら今がベストなタイミングではある。
だが、同時に疑問でもあった。
『S/Witch』は愛されたクソゲーではない。
一時期、オカルト界隈でのみ騒がれたが、実証実験の結果、その都市伝説も否定され、もはや話題にする人もほとんどいなかった。
そんなゲームが再発売されるからと言って、みんなの投票が集中するものだろうか?
実際、常連視聴者と思しき人達のコメントを見ても、『S/Witch』の名前はほとんど出てこなかった。
投票は選択式ではなく自由回答だったため様々なタイトルが挙がっていたが、同時期に発売された有名ゾンビゲームの続編の方が明らかに目立って多い。
皆のコメントを見ていると、『S/Witch』に関しては「名前は知っている」程度の層が最も多いようだ。
再発売はネットニュースなどで多少取り上げられたらしく、「若色がやったら面白そう」くらいの感覚は多くの人が持っていた。
それでも実際に『S/Witch』に票を投じた人はそう多くはなかったのだ。
そんなコメント欄の様子に、違和感を感じ取った視聴者ももちろんいた。
いつも鋭いあの人だ。
「ひょっとして、『S/Witch』を選んだのは若色さんなの?」
そう書いたのはヘルアネゴだ。
この疑問は当然だろう。
明らかに実際のアンケート結果が反映されていない。
他の視聴者たちも同調して疑問を呈し始めたし、俺も確信していた。
『S/Witch』は意図的に選択されたのだ。
ヘルアネゴは続けてこう書いた。
「それとも、選んだのは庵藤圭司?」
「…………」
すぐには言葉が出なかった。
俺が今、リスクを押して生配信を始めた理由。
一つは『S/Witch』の投票に関する裏取りのため。
そしてもう一つは、ヘルアネゴに伝えるためだったのだ。
これから色々あるとは思うが、まずは彼女に伝えなければならない。
それが自分の義務だと強く感じていたのだ。
胸の痛みを感じながらも、俺は大きな深呼吸を挟んでから、思い切ってそれを口にした。
「庵藤圭司は亡くなりました」
こんな形で、今、これを肉親に伝えることが正解だったのかどうかは分からない。
だが、彼女はきっと、ずっと庵藤圭司を探していたのだ。
彼女はおそらく、この世界で唯一、UMBRELLAの配信者が庵藤圭司ではないかとずっと前から疑っていた人物。
そう――。
庵藤圭司の実姉、庵藤える……。
俺と庵藤のモノマネ芸の師匠にして、怒ると地獄の鬼のように怖かった人。
庵藤から「ヘルねえちゃん」と呼ばれていた実姉だ。
える姉さんは最初から俺と庵藤には伝わるよう、あのハンドルネームで書き込んでくれてたんだ。
俺もあんな状況でテンパっていなければ、もっと早く気付いていただろう。
おそらく、庵藤はホームレスとなってから実家とも音信不通になっていたのだ。
える姉さんは弟のことを心配していた。
そして、ある時、弟の旧友であった俺のチャンネルを見つけて、ふと思ったのだろう。
「これは圭司じゃないか?」と――。
重度の蕎麦アレルギーという話が出たのも、自分の弟である確信を深めたのだと思う。
「十中八九、この若色涼太は庵藤圭司だ」。
そう思っていたえる姉さんにとって、さっきの配信中の俺の言動は極めて疑わしいものであったはずだ。
何らかのトラブルを想定したのかもしれない。
実際、俺は庵藤を殺したと思いこんでたし、死体の隠蔽まで真剣に考えていた。
「名無し」によって書き込まれた「庵藤圭司」の名前は、える姉さんが俺を揺さぶって何かを引き出そうとした苦肉の策なのだろう。
当然ながら、突然の俺の報告にコメント欄は混乱中だ……。
「何の話??」
「庵藤圭司って誰?」
「昔の友だちって言ってなかった?」
肝心のヘルアネゴこと、える姉さんからは何の反応もない……。
俺はごくりと息を飲み込み、覚悟を固めて自供した。
「今回の件は俺にも責任があります。いきなりこんな事実を突きつけて申し訳ないんですが、これ以上、事実を引き伸ばすのもダメだと思ったんです。
俺はずっと、ずるずる引き伸ばしてきたから……。
庵藤圭司は……配信の直前に死亡しました。
俺はそれを……隠そうとしていたんです」
コメント欄は混迷を一層深めていく。
みんなには状況が何も分からないのだ。
ただ、状況を唯一把握しているであろう、える姉さんからは一向に何の言葉もない。
当たり前だ。
ショックなのだろう。
俺にどんな非難の言葉を投げつけてきても仕方ない。
どんな言葉が来るのか、覚悟を固めて俺はずっと画面を見つめていた。
そして、しばらくすると、ヘルアネゴからコメントが投じられたが、それは俺が予想だにしないものだった。
書かれていたのはこれだった。
「うしろ」
俺の思考が固まった。
意味が分からなかった。
「うしろ」?
どういうことだ?
庵藤の死に関して、俺を責めるでもなく詳細を尋ねるでもなく、「うしろ」?
意味が……分からない。
俺が一瞬キョトンとした次の瞬間に、コメント欄は目まぐるしく滝のように流れていった。
「うしろ!」
「後ろだって」
「後ろ」
「若色、後ろ、後ろ」
「後ろ見ろ、うしろ!」
「うshろ!!!!」
は!?
俺はようやくその意味するところを察した。
だが、後ろを振り向いた時には棒のようなものが俺の目の前まで迫っていた。
覆面を付けた何者かが振り回す棒が俺のこめかみを襲い、目の前に火花のようなものが散ったかと思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
昭和84年9月3日1時34分 ――配信再開から17分後――
「ん……」
目を覚ました瞬間に俺を襲ってきたのは酷い頭の痛みだ。
ガンガンする。
「んん……!?」
身体は……動かない。
手も、足も。
見ると、何かに……椅子か、椅子に座らされた状態で腕と脚を縛り付けられている。
なんで?
何だっけ?
……そうだ、襲われたんだ!
覆面を付けた、何者かに!
辺りを見回す。
場所は……廃オフィスのままだ。
じゃあ、動いていない。
誰かに襲われて、そのままその場で椅子に縛り付けられたのか。
たぶん時間もそんなに経っていない。
俺の手の中に何かが握られていた。
ゲームパッドだ。
目の前には……ノートパソコン。
庵藤のパソコンだ……。
ん?
配信が、続いている……??
コメント欄には、
「目を開けた!」
「気付いた」
「ヤバイ、ヤバイって」
「通報した」
「場所を教えて」
など、俺のことを心配する書き込みで溢れている。
そして……、
そのノートパソコンの奥に人影があった。
全身に白い布のようなものをまとって、紙袋で作った覆面を付けている。
手にはスケッチブックがあり、そこにはこう書かれていた。
「60分以内にクリアしろ。さもなければ殺す。この場所を伝えれば今すぐ殺す」
人影はマウスを操作し『S/Witch』を立ち上げた。
「これをやれ」ということだろう。
俺はズキズキと痛む頭を押して、言われるがままにスタートボタンを押した。
クリアしないと命がないだなんて、まるでデスゲームのような状況だな。
俺は心の中で苦笑した。
けど、こんな状況を作ってまで俺にクリアさせようという『犯人』の気持ちも分からないでもなかった。
きっと複雑な心境なのだろう。
もはや何度見たかも分からないスキップ不可のオープニングムービーの後、俺は黙って自キャラを操作する。
そしてゲーム内のオフィスで、例の女性経理のバッグの前まで進んだ。
そこで一度止まって、
「ここでボタンを押せば写真が出ます」
覆面の人物を見た。
「進めていいんですね?」
その瞬間に相手の身体が微かに震えた。
それは僅かな戸惑いだったのかもしれない。
でも、俺にはその反応だけでもう十分だった。
だから、静かに言った。
「もうやめましょう」
瞳を閉じる。
全ての点と点が繋がり、線となって俺の脳裏に浮かび上がっていた。
「今回の事件――、そして、『S/Witch』に関わる過去……俺にはもう全てが分かっています。だから」
俺は瞳を開き、覆面の人物を見つめて真剣な声で伝えた。
「もうやめましょう。古賀さん――……」
「二週間前に投票された方、どのゲームに投票したか教えて下さい」
俺……というか庵藤が今回配信することに決まったのは『S/Witch』だったが、これは二週間前の視聴者アンケートの結果として決まったものだった。
『S/Witch』は旧作配信サービスから二日前に再発売されている。
確かに、ゲーム実況者がもし配信するのなら今がベストなタイミングではある。
だが、同時に疑問でもあった。
『S/Witch』は愛されたクソゲーではない。
一時期、オカルト界隈でのみ騒がれたが、実証実験の結果、その都市伝説も否定され、もはや話題にする人もほとんどいなかった。
そんなゲームが再発売されるからと言って、みんなの投票が集中するものだろうか?
実際、常連視聴者と思しき人達のコメントを見ても、『S/Witch』の名前はほとんど出てこなかった。
投票は選択式ではなく自由回答だったため様々なタイトルが挙がっていたが、同時期に発売された有名ゾンビゲームの続編の方が明らかに目立って多い。
皆のコメントを見ていると、『S/Witch』に関しては「名前は知っている」程度の層が最も多いようだ。
再発売はネットニュースなどで多少取り上げられたらしく、「若色がやったら面白そう」くらいの感覚は多くの人が持っていた。
それでも実際に『S/Witch』に票を投じた人はそう多くはなかったのだ。
そんなコメント欄の様子に、違和感を感じ取った視聴者ももちろんいた。
いつも鋭いあの人だ。
「ひょっとして、『S/Witch』を選んだのは若色さんなの?」
そう書いたのはヘルアネゴだ。
この疑問は当然だろう。
明らかに実際のアンケート結果が反映されていない。
他の視聴者たちも同調して疑問を呈し始めたし、俺も確信していた。
『S/Witch』は意図的に選択されたのだ。
ヘルアネゴは続けてこう書いた。
「それとも、選んだのは庵藤圭司?」
「…………」
すぐには言葉が出なかった。
俺が今、リスクを押して生配信を始めた理由。
一つは『S/Witch』の投票に関する裏取りのため。
そしてもう一つは、ヘルアネゴに伝えるためだったのだ。
これから色々あるとは思うが、まずは彼女に伝えなければならない。
それが自分の義務だと強く感じていたのだ。
胸の痛みを感じながらも、俺は大きな深呼吸を挟んでから、思い切ってそれを口にした。
「庵藤圭司は亡くなりました」
こんな形で、今、これを肉親に伝えることが正解だったのかどうかは分からない。
だが、彼女はきっと、ずっと庵藤圭司を探していたのだ。
彼女はおそらく、この世界で唯一、UMBRELLAの配信者が庵藤圭司ではないかとずっと前から疑っていた人物。
そう――。
庵藤圭司の実姉、庵藤える……。
俺と庵藤のモノマネ芸の師匠にして、怒ると地獄の鬼のように怖かった人。
庵藤から「ヘルねえちゃん」と呼ばれていた実姉だ。
える姉さんは最初から俺と庵藤には伝わるよう、あのハンドルネームで書き込んでくれてたんだ。
俺もあんな状況でテンパっていなければ、もっと早く気付いていただろう。
おそらく、庵藤はホームレスとなってから実家とも音信不通になっていたのだ。
える姉さんは弟のことを心配していた。
そして、ある時、弟の旧友であった俺のチャンネルを見つけて、ふと思ったのだろう。
「これは圭司じゃないか?」と――。
重度の蕎麦アレルギーという話が出たのも、自分の弟である確信を深めたのだと思う。
「十中八九、この若色涼太は庵藤圭司だ」。
そう思っていたえる姉さんにとって、さっきの配信中の俺の言動は極めて疑わしいものであったはずだ。
何らかのトラブルを想定したのかもしれない。
実際、俺は庵藤を殺したと思いこんでたし、死体の隠蔽まで真剣に考えていた。
「名無し」によって書き込まれた「庵藤圭司」の名前は、える姉さんが俺を揺さぶって何かを引き出そうとした苦肉の策なのだろう。
当然ながら、突然の俺の報告にコメント欄は混乱中だ……。
「何の話??」
「庵藤圭司って誰?」
「昔の友だちって言ってなかった?」
肝心のヘルアネゴこと、える姉さんからは何の反応もない……。
俺はごくりと息を飲み込み、覚悟を固めて自供した。
「今回の件は俺にも責任があります。いきなりこんな事実を突きつけて申し訳ないんですが、これ以上、事実を引き伸ばすのもダメだと思ったんです。
俺はずっと、ずるずる引き伸ばしてきたから……。
庵藤圭司は……配信の直前に死亡しました。
俺はそれを……隠そうとしていたんです」
コメント欄は混迷を一層深めていく。
みんなには状況が何も分からないのだ。
ただ、状況を唯一把握しているであろう、える姉さんからは一向に何の言葉もない。
当たり前だ。
ショックなのだろう。
俺にどんな非難の言葉を投げつけてきても仕方ない。
どんな言葉が来るのか、覚悟を固めて俺はずっと画面を見つめていた。
そして、しばらくすると、ヘルアネゴからコメントが投じられたが、それは俺が予想だにしないものだった。
書かれていたのはこれだった。
「うしろ」
俺の思考が固まった。
意味が分からなかった。
「うしろ」?
どういうことだ?
庵藤の死に関して、俺を責めるでもなく詳細を尋ねるでもなく、「うしろ」?
意味が……分からない。
俺が一瞬キョトンとした次の瞬間に、コメント欄は目まぐるしく滝のように流れていった。
「うしろ!」
「後ろだって」
「後ろ」
「若色、後ろ、後ろ」
「後ろ見ろ、うしろ!」
「うshろ!!!!」
は!?
俺はようやくその意味するところを察した。
だが、後ろを振り向いた時には棒のようなものが俺の目の前まで迫っていた。
覆面を付けた何者かが振り回す棒が俺のこめかみを襲い、目の前に火花のようなものが散ったかと思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
昭和84年9月3日1時34分 ――配信再開から17分後――
「ん……」
目を覚ました瞬間に俺を襲ってきたのは酷い頭の痛みだ。
ガンガンする。
「んん……!?」
身体は……動かない。
手も、足も。
見ると、何かに……椅子か、椅子に座らされた状態で腕と脚を縛り付けられている。
なんで?
何だっけ?
……そうだ、襲われたんだ!
覆面を付けた、何者かに!
辺りを見回す。
場所は……廃オフィスのままだ。
じゃあ、動いていない。
誰かに襲われて、そのままその場で椅子に縛り付けられたのか。
たぶん時間もそんなに経っていない。
俺の手の中に何かが握られていた。
ゲームパッドだ。
目の前には……ノートパソコン。
庵藤のパソコンだ……。
ん?
配信が、続いている……??
コメント欄には、
「目を開けた!」
「気付いた」
「ヤバイ、ヤバイって」
「通報した」
「場所を教えて」
など、俺のことを心配する書き込みで溢れている。
そして……、
そのノートパソコンの奥に人影があった。
全身に白い布のようなものをまとって、紙袋で作った覆面を付けている。
手にはスケッチブックがあり、そこにはこう書かれていた。
「60分以内にクリアしろ。さもなければ殺す。この場所を伝えれば今すぐ殺す」
人影はマウスを操作し『S/Witch』を立ち上げた。
「これをやれ」ということだろう。
俺はズキズキと痛む頭を押して、言われるがままにスタートボタンを押した。
クリアしないと命がないだなんて、まるでデスゲームのような状況だな。
俺は心の中で苦笑した。
けど、こんな状況を作ってまで俺にクリアさせようという『犯人』の気持ちも分からないでもなかった。
きっと複雑な心境なのだろう。
もはや何度見たかも分からないスキップ不可のオープニングムービーの後、俺は黙って自キャラを操作する。
そしてゲーム内のオフィスで、例の女性経理のバッグの前まで進んだ。
そこで一度止まって、
「ここでボタンを押せば写真が出ます」
覆面の人物を見た。
「進めていいんですね?」
その瞬間に相手の身体が微かに震えた。
それは僅かな戸惑いだったのかもしれない。
でも、俺にはその反応だけでもう十分だった。
だから、静かに言った。
「もうやめましょう」
瞳を閉じる。
全ての点と点が繋がり、線となって俺の脳裏に浮かび上がっていた。
「今回の事件――、そして、『S/Witch』に関わる過去……俺にはもう全てが分かっています。だから」
俺は瞳を開き、覆面の人物を見つめて真剣な声で伝えた。
「もうやめましょう。古賀さん――……」
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