殺人犯ですが助けてください、呪われたクソゲーがクリアできません!チャンネル登録お願いします
5-3.スーサイドソフト
果たして、この住所の場所に庵藤はいるのだろうか?
もしくは、庵藤は俺に何かを伝えようとしているのだろうか。
今の状況を理解するために必要なのは、とにもかくにも情報だった。
電車での移動中、混み合った車内で、俺は他人の迷惑も顧みずに庵藤のノートパソコンを広げた。
探偵社への依頼からして、庵藤は明らかに何かを調べていた。
おそらくは、このゲームに関する何かだ。
「庵藤が暴露すると言い出したのも……たぶん何か関係があるな」
俺と会った時の庵藤の様子は明らかにおかしかった。
何かに追い詰められていた。
もしかすると、自分が庵藤圭司であることを示すことで何かから身を守れると考えたのだろうか?
例えば、庵藤圭司が生きていることを知れば、助けに来てくれる仲間がいるとか……。
だとすれば、その線を辿っていけば……。
「俺に掛かってる呪いも……解決できるかもしれない」
情報の痕跡を探して、俺はノートパソコンを調べ始めた。
隣に立つおばさんが迷惑そうな顔を向けてくるが、気を遣っている余裕はない。
まずはメーラーだ。
探偵社への依頼を確認する。
これはすぐに見つかった。
内容はざっくり言うと「以下のリストに挙げた人物の現在の安否(年齢・生死・死亡年月日・死亡原因など)を調べて下さい」というものだ。
リストには一五〇名程の人物名があり電話番号と住所が併記されている。
「住所は六年前のデータです。現在は移住している可能性があります」とも添えられていた。
ざっと見た感じでは、リストの人物は男女が入り混じっていたが、やや男性が多いようだ。
住所は北から南まで全国に散らばっているが、関東圏、特に東京、千葉、神奈川、埼玉が目立つ。
だが、これは単に人口比の関係かもしれない。
「このリストの人たちは一体なんなんだ??」
俺はひとりごちながら、探偵社からの封筒を開けた。
改めて調査結果を確認する。
配信中は見逃していたが、じっくり見ていくと明らかに異質な点に気付かされた。
「多いな……」
昭和78年――。
この年の死亡者がリスト中に顕著に多い。
リストのおよそ二割だ。
多くは変死……つまり自殺や交通事故、突発的な病死だ。
また、存命ではあるものの、「服役中」「入院中」といった記述も散見された。
このリストがどういう人物群なのかは分からないが、明らかに何かしらの偏りがあった。
夢中になって資料を見つめていたが、気が付くと車内が大分閑散としていた。
ターミナル駅を通過した際に乗客の多くが降りたのだろう。
だが、人は少ないのに何者かの視線を俺はずっと感じていた。
ずっと見られている気がする。
俺は隠れるように端の席へと座り、辺りを警戒しつつもノートパソコンを調べ続けた。
次にブラウザを開いてみる。
「閲覧履歴も見てみるか」
だが、履歴を開いた瞬間にギョッとした。これは薄々予感していたことではあったが……
「スタッフが自殺! 呪われたホラーゲーム『S/Witch』」
「【都市伝説】ゲーム実況が突然の停止、配信者は変わり果てた姿で……」
「検証『S/Witch』! 配信すると死ぬゲーム!?」
そんなページがわらわら出てきたのだ。
やはり、庵藤は明らかに『S/Witch』について調べていた。
「リストの人物たちの名もこれらの記事中にあるのか?」と思ったが、それはなかった。
考えてみれば当然で、住所や電話番号といった個人情報をサイト上に載せられるはずがない。
俺は首を捻った。
「庵藤はあのリストをどこで手に入れたんだ?」
閲覧履歴にあった記事を見ていくが、どれも表層的な噂話に留まっており、ニラネギが語った以上の情報は得られない。
実際にゲームを購入して検証のために配信プレイした数年前の記事があったが、そのブログの最終更新は四日前となっていた。
確かに配信プレイをしても無事だったようで、これもニラネギが言っていた通りだ。
当然のことながら庵藤の閲覧履歴には、ゲームとは直接の関係はなさそうな様々なページがあった。
中には「エロ本を回し読みした男子が全滅」などというふざけたタイトルのものまであって、あまりに気になったので開いてみたのだが、これはどうも匿名掲示板に寄せられた実話怪談のようだ。
ざっと流し読みしたが、設定は突飛でオチも何もなく、あまり出来の良いものとは思えない。
「庵藤、お前、なんでこんなの見てるんだよ」
タイトルに釣られてこれを開いた庵藤を想像すると、俺はなんだかおかしくなってクスッと笑ってしまった。
最寄り駅に着き、バス停で最終バスを待つ。
だいぶ寂れている。
駅前には辛うじてコンビニが一つあったが、大手チェーンではなく個人経営のようで店じまいの準備を始めていた。
街灯はまばらで、このコンビニが消灯すれば辺りはかなり暗くなるだろう。
それを思うだけで気分が滅入ってくる。
俺はノートパソコンを開き、液晶ディスプレイのブルーライトで健気に闇夜に対抗した。
「デスクトップがグチャグチャしてんな……」
庵藤はデスクトップ上にファイルやフォルダを雑に並べていた。
アイツは部屋はそれなりに整理整頓していたが、パソコン内はその限りではなかったようだ。
まあ、その無精のおかげで俺は配信のカンペを見つけられたのだが。
そのカンペのテキストファイルの隣に、『S/Witch』のゲームフォルダが存在する。
中には実行ファイルと、俺にはよく分からないdllだのconfigだのの拡張子が付けられたファイル群が入っているのだが、いま、改めて見ていると、一つ、気になるファイルが発見された。
「update_101 .exe」
と名付けられた実行ファイルだ。
アップデートということは修正パッチか何かなのだろうか?   
バスに乗りながらこれを見ていたのだが、すると真っ暗な窓の外から突然、強烈な光が差し込んできた。
釣られて外を見ると、
「ホテル?」
その光は古びたホテルから発されていた。
レジャーホテルだろうか?
電飾看板は損傷が激しくホテルの名前も読み取れないが、三日月のようなマークが描かれていた。
俺は再びノートパソコンに視線を戻す。
修正パッチと思しきファイル……。
配信中はテンパっていたので全然気付かなかったが、もしかして、これがあればゲーム中のバグバグな挙動が修正されたのだろうか?
いや、今となっては意味のないことだが……。
ただ、不思議なのが「S/Witch 修正パッチ」「S/Witch アップデート」などで検索しても全くヒットしない。
代わりに、
「修正パッチ出すよな? 流石に?」
「修正パッチ、はよしろや」
「流石にアップデートして欲しい、予約購入者をナメてんのか」
など、ユーザーの不平不満の声ばかりが出てくる。
仮に配布しているとすれば公式サイトだろうが、検索サイトから辿ってみても「404 not found」が示されるだけ。
とっくの昔に閉鎖済みのようだ。
「えっ。じゃあ……庵藤はどこからこのファイルを手に入れたんだ?」
俺の困惑は深まるばかりだ。
結局、重要な情報には何もアクセスできないうちにバスは現地へと着いてしまった。
そこから、地図アプリを頼りに、民家もまばらな暗い道をトボトボと進んでいく。
そして、十数分歩いた後に俺は足を止めた。
ーーツクツクオーシ、ツクツクオーシ……
晩夏の蝉が力なく鳴く中、俺がようやく辿り着いたそこにあったものは病院でもなんでもなかった。
ずいぶんと年季の入ったコンクリート製の小さなビル。三階建てで、ビルの外側には錆び切った鉄製の階段。
その上り口には有刺鉄線が幾重も巻き付けられて侵入を阻んでいる。
閉鎖され、廃墟化しているようで、ビル壁面には様々な落書きがなされていた。
道路に面した塀には「株式会社サイドソフト」の名称看板が掛けられていたが、それもいたずら書きの被害に遭っており、「株式会社」の部分はスプレーで塗りつぶされ、上から「スー」とだけ書き殴られていた。
――「スーサイドソフト」。
その字面と廃墟の異様さに呑まれ、俺の身体がぶるりと震え上がった。
庵藤……なんなんだ、ここは?
ここが近隣の小中学生たちから「自殺ビル」と呼ばれ、心霊スポット扱いされていることを知ったのはずっと後のことだ。
もしくは、庵藤は俺に何かを伝えようとしているのだろうか。
今の状況を理解するために必要なのは、とにもかくにも情報だった。
電車での移動中、混み合った車内で、俺は他人の迷惑も顧みずに庵藤のノートパソコンを広げた。
探偵社への依頼からして、庵藤は明らかに何かを調べていた。
おそらくは、このゲームに関する何かだ。
「庵藤が暴露すると言い出したのも……たぶん何か関係があるな」
俺と会った時の庵藤の様子は明らかにおかしかった。
何かに追い詰められていた。
もしかすると、自分が庵藤圭司であることを示すことで何かから身を守れると考えたのだろうか?
例えば、庵藤圭司が生きていることを知れば、助けに来てくれる仲間がいるとか……。
だとすれば、その線を辿っていけば……。
「俺に掛かってる呪いも……解決できるかもしれない」
情報の痕跡を探して、俺はノートパソコンを調べ始めた。
隣に立つおばさんが迷惑そうな顔を向けてくるが、気を遣っている余裕はない。
まずはメーラーだ。
探偵社への依頼を確認する。
これはすぐに見つかった。
内容はざっくり言うと「以下のリストに挙げた人物の現在の安否(年齢・生死・死亡年月日・死亡原因など)を調べて下さい」というものだ。
リストには一五〇名程の人物名があり電話番号と住所が併記されている。
「住所は六年前のデータです。現在は移住している可能性があります」とも添えられていた。
ざっと見た感じでは、リストの人物は男女が入り混じっていたが、やや男性が多いようだ。
住所は北から南まで全国に散らばっているが、関東圏、特に東京、千葉、神奈川、埼玉が目立つ。
だが、これは単に人口比の関係かもしれない。
「このリストの人たちは一体なんなんだ??」
俺はひとりごちながら、探偵社からの封筒を開けた。
改めて調査結果を確認する。
配信中は見逃していたが、じっくり見ていくと明らかに異質な点に気付かされた。
「多いな……」
昭和78年――。
この年の死亡者がリスト中に顕著に多い。
リストのおよそ二割だ。
多くは変死……つまり自殺や交通事故、突発的な病死だ。
また、存命ではあるものの、「服役中」「入院中」といった記述も散見された。
このリストがどういう人物群なのかは分からないが、明らかに何かしらの偏りがあった。
夢中になって資料を見つめていたが、気が付くと車内が大分閑散としていた。
ターミナル駅を通過した際に乗客の多くが降りたのだろう。
だが、人は少ないのに何者かの視線を俺はずっと感じていた。
ずっと見られている気がする。
俺は隠れるように端の席へと座り、辺りを警戒しつつもノートパソコンを調べ続けた。
次にブラウザを開いてみる。
「閲覧履歴も見てみるか」
だが、履歴を開いた瞬間にギョッとした。これは薄々予感していたことではあったが……
「スタッフが自殺! 呪われたホラーゲーム『S/Witch』」
「【都市伝説】ゲーム実況が突然の停止、配信者は変わり果てた姿で……」
「検証『S/Witch』! 配信すると死ぬゲーム!?」
そんなページがわらわら出てきたのだ。
やはり、庵藤は明らかに『S/Witch』について調べていた。
「リストの人物たちの名もこれらの記事中にあるのか?」と思ったが、それはなかった。
考えてみれば当然で、住所や電話番号といった個人情報をサイト上に載せられるはずがない。
俺は首を捻った。
「庵藤はあのリストをどこで手に入れたんだ?」
閲覧履歴にあった記事を見ていくが、どれも表層的な噂話に留まっており、ニラネギが語った以上の情報は得られない。
実際にゲームを購入して検証のために配信プレイした数年前の記事があったが、そのブログの最終更新は四日前となっていた。
確かに配信プレイをしても無事だったようで、これもニラネギが言っていた通りだ。
当然のことながら庵藤の閲覧履歴には、ゲームとは直接の関係はなさそうな様々なページがあった。
中には「エロ本を回し読みした男子が全滅」などというふざけたタイトルのものまであって、あまりに気になったので開いてみたのだが、これはどうも匿名掲示板に寄せられた実話怪談のようだ。
ざっと流し読みしたが、設定は突飛でオチも何もなく、あまり出来の良いものとは思えない。
「庵藤、お前、なんでこんなの見てるんだよ」
タイトルに釣られてこれを開いた庵藤を想像すると、俺はなんだかおかしくなってクスッと笑ってしまった。
最寄り駅に着き、バス停で最終バスを待つ。
だいぶ寂れている。
駅前には辛うじてコンビニが一つあったが、大手チェーンではなく個人経営のようで店じまいの準備を始めていた。
街灯はまばらで、このコンビニが消灯すれば辺りはかなり暗くなるだろう。
それを思うだけで気分が滅入ってくる。
俺はノートパソコンを開き、液晶ディスプレイのブルーライトで健気に闇夜に対抗した。
「デスクトップがグチャグチャしてんな……」
庵藤はデスクトップ上にファイルやフォルダを雑に並べていた。
アイツは部屋はそれなりに整理整頓していたが、パソコン内はその限りではなかったようだ。
まあ、その無精のおかげで俺は配信のカンペを見つけられたのだが。
そのカンペのテキストファイルの隣に、『S/Witch』のゲームフォルダが存在する。
中には実行ファイルと、俺にはよく分からないdllだのconfigだのの拡張子が付けられたファイル群が入っているのだが、いま、改めて見ていると、一つ、気になるファイルが発見された。
「update_101 .exe」
と名付けられた実行ファイルだ。
アップデートということは修正パッチか何かなのだろうか?   
バスに乗りながらこれを見ていたのだが、すると真っ暗な窓の外から突然、強烈な光が差し込んできた。
釣られて外を見ると、
「ホテル?」
その光は古びたホテルから発されていた。
レジャーホテルだろうか?
電飾看板は損傷が激しくホテルの名前も読み取れないが、三日月のようなマークが描かれていた。
俺は再びノートパソコンに視線を戻す。
修正パッチと思しきファイル……。
配信中はテンパっていたので全然気付かなかったが、もしかして、これがあればゲーム中のバグバグな挙動が修正されたのだろうか?
いや、今となっては意味のないことだが……。
ただ、不思議なのが「S/Witch 修正パッチ」「S/Witch アップデート」などで検索しても全くヒットしない。
代わりに、
「修正パッチ出すよな? 流石に?」
「修正パッチ、はよしろや」
「流石にアップデートして欲しい、予約購入者をナメてんのか」
など、ユーザーの不平不満の声ばかりが出てくる。
仮に配布しているとすれば公式サイトだろうが、検索サイトから辿ってみても「404 not found」が示されるだけ。
とっくの昔に閉鎖済みのようだ。
「えっ。じゃあ……庵藤はどこからこのファイルを手に入れたんだ?」
俺の困惑は深まるばかりだ。
結局、重要な情報には何もアクセスできないうちにバスは現地へと着いてしまった。
そこから、地図アプリを頼りに、民家もまばらな暗い道をトボトボと進んでいく。
そして、十数分歩いた後に俺は足を止めた。
ーーツクツクオーシ、ツクツクオーシ……
晩夏の蝉が力なく鳴く中、俺がようやく辿り着いたそこにあったものは病院でもなんでもなかった。
ずいぶんと年季の入ったコンクリート製の小さなビル。三階建てで、ビルの外側には錆び切った鉄製の階段。
その上り口には有刺鉄線が幾重も巻き付けられて侵入を阻んでいる。
閉鎖され、廃墟化しているようで、ビル壁面には様々な落書きがなされていた。
道路に面した塀には「株式会社サイドソフト」の名称看板が掛けられていたが、それもいたずら書きの被害に遭っており、「株式会社」の部分はスプレーで塗りつぶされ、上から「スー」とだけ書き殴られていた。
――「スーサイドソフト」。
その字面と廃墟の異様さに呑まれ、俺の身体がぶるりと震え上がった。
庵藤……なんなんだ、ここは?
ここが近隣の小中学生たちから「自殺ビル」と呼ばれ、心霊スポット扱いされていることを知ったのはずっと後のことだ。

コメント
コメントを書く