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原案:狩野英孝 著者:架神恭介 キャラクター原案:倉持由香 プロデュース:株式会社ビーグリー

4-3.逃亡

また呼び鈴が鳴った。
正直、「うるせえな」と思ってイラッとした。
俺は椅子から動く気もなかった。
さっきの宅配便の教訓からだ。
しばらく待ってれば諦めるだろう。

 ピンポーン……ピンポーン……。

 だが、呼び鈴はいつまでも鳴り止まない。
おかしい、宅配業者にしてはしつこすぎる。
例の「配信中に鳴った呼び鈴」の話を否が応でも思い出してしまう。
コメント欄でも、

「でてはいけません」

 真剣なトーンを滲ませるニラネギの書き込みを皮切りに、

「ヤバイって」
「出たらマズイ」
「これ、あの事件と同じ……」
「医者として断言する。出てはいけない」

 俺を押し留めようとするコメントが続く……。

 ピンポンピンポンピンポーン、ピンポンピンポンピンポンピンポーン。

 呼び鈴の主も諦める気配がない。
かなり偏執狂的に呼び鈴を鳴らし続ける。
そこに、

「ドンドンッ、ドンドンドンッ!」

 扉を殴りつける音が混じり始めて、俺はビクッと震えた。
呼び鈴が何度も何度も何度も鳴り続け、加えて扉が震える程に何かが叩きつけられる。
最初は手で叩く程度の音だったのが、堅いもので強く叩く音へと変わり、次第に大きなモノが扉にぶつかるような音へと変わっていく……。

「ひ……ッ!」

 ここに至り、俺は血相を変えて椅子から立ち上がっていた。
今も呼び鈴は鳴り続けている。
扉が強く叩きつけられる。
明らかに普通ではない。
ニラネギの書き込みが脳内でリフレインする――。

 "結論だけ言います。本当に呪いの可能性があります"

 探偵社からの資料が頭の中をよぎる。
死亡原因が連ねられた名簿……「変死」の二文字……。
そして、庵藤の机の引き出しに書き込まれた異常な書き込みの数々……ゲーム中に登場する寒気を伴う不可解な写真……俺の部屋に現れた黒いモヤ……。

「ほ、ほんとに……」

 呪い? 
本当にゲームの呪いなのか?? 
分からない。
けれど、扉の向こうの相手はまともではない。
人かバケモノかは分からないが、とにかくまともではない。
絶対に開けてはいけない! 
突然降って湧いた身の危険に、恐怖に、俺の心臓がドクドクと脈打ち始める。

 ちらりと窓の方を見る。
玄関からちょうど向かいの位置に庭に通じる窓がある。
ここは一階だ。
庭に塀はあるが、大人なら乗り越えられる。
何者かは今も呼び鈴を鳴らし続け、扉を叩き続けているが、もし、これに気付いて庭から襲ってきたら……。

「逃げて下さい」

 コメント欄に現れたヘルアネゴの書き込みを見た瞬間、俺は動いた。
ノートパソコンからあらゆるコードを引っこ抜きリュックに突っ込んだ。
一瞬迷ったが、探偵社から送られてきた資料も突っ込んだ。

そして、窓を開いて庭へと降り、洗濯物を干す時に庵藤が使っていたであろうサンダルに足を突っ込んで、怯えながらも必死で塀を登った。
庭も塀もびしょびしょだったが、雨は既に止んでいた。

そして飛び降りた俺は湿気に満ちた薄暗い住宅街を、後ろを振り返ることなく必死に駆け出した。

 そして、その頃――。

 *

『犯人』は叫びたくなる気持ちを必死に抑え込んでいた。

 顔中が汗まみれだ。
鼓動はドクドクと脈打っている。

 このゲームが「配信すると死ぬゲーム」とされ、呪いのゲームとして一部で扱われていたことは、『犯人』にとっては極めて不愉快だったが、好都合な面もあった。

 隠しきれないものならば、まだ怖れられた方が良い。

 配信を見ていた限り、視聴者も若色涼太もこのゲームの「呪い」を信じ始めていた。
それ自体は良い傾向だった。

 だが、『犯人』は今、軌道修正を余儀なくされていた。

 誤算の一つは、あの写真が配信されてしまったことだ。
若色涼太のいつものプレイスキルなら辿り着けるはずがないと思いこんでいた。
だが、それがそもそも『犯人』のミスだったのだ。

考えてみれば、このゲームに限って言えば、若色涼太が人より巧くプレイできたとしても何の不思議もないのだ。

『犯人』は苛立ちのあまり呼び鈴を何度も鳴らした。
持っていたバールで扉を叩き、体当たりまでしてみたが、とても冷静ではなかった。
そんなことをしたら若色涼太は閉じこもるに決まっている。
あまりにも感情が昂ぶりすぎていた。

 途中でそれに気付き、配信を確認して、「しまった」と思った。
若色涼太は慌てて配信を切断していた。
別の出口から逃げた可能性が高い。
どこへ行った? 
逃がすわけにはいかない。

『犯人』は部屋の裏手へと回った。
辺りを気にしながら苦労して塀を乗り越えて、窓越しに部屋の中を見てギョッとした。

中で人が倒れていた。
もちろん若色涼太ではない。
『犯人』の知らない何者かの死体があった。

 なぜ、こんなことに!?

『犯人』にも全く分からない。
全ては偶然なのか? 
だが、こんな偶然があるだろうか?? 
そこには『犯人』も知らない何らかの謎があるに違いなかった。

 ――若色涼太は一体どんな秘密を抱えていたのか?

『犯人』は身震いした。
身体の芯から怖気が走った。
若色涼太がとてつもなく不気味な存在に思えたし、同時に焦燥感や激しい怒りにも駆られた。

殺意を込め直して『犯人』はバールを握りしめた。
その瞳からツーッと何かが垂れた。
涙かと思い目をこすった。
違った。

 血だ。

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