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原案:狩野英孝 著者:架神恭介 キャラクター原案:倉持由香 プロデュース:株式会社ビーグリー

3-4.写真

 ヘルアネゴの一言でコメント欄がざわつき始めた。
俺としては正直、そんな細部の演出はどうでも良いのだが……。
皆があまりにも「確認しろ」とうるさい。

 仕方なく非常階段の扉の前の壁を調査する。
ここを調べると、なぜか例の布団(?)の写真が出て来るのだ。
だが、それを見た俺はやはり首を傾げた。

「血……か、これ?」

 そもそも白黒画像だし、画質も粗いのでよく分からない。
確かに血にも見えるが、単にそういう柄なのかもしれない。
仮に血だとして、仮にホラー演出の一環だとして、それならもっと分かりやすく示せばいいのに、とも思う。

コメント欄も
「血かなぁ?」
「血は考えすぎでは?」
といった意見が大勢を占めていた。

 ともあれ、結局、ゲームは進展しない。
この写真画像が何かのヒントなら良いのだが、それも怪しい。
視聴者たちも、過去のゲーム実況でこれらの写真を見たことはないようだった。
過去の配信者たちは(あまりのクソゲーっぷりに)ここまで辿り着けなかったのだろう。

 一方で、俺達がこれらの写真を見た初めてのプレイヤーというわけでもなかった。

「この写真を見た人自体はちょくちょくいますね」

 と、ニラネギ。
どうもSNSで検索を掛けたようで、過去のプレイヤーの中に何人か、この画像について呟いている人を確認できたようだ。
ただ、その人達もこの画像には単に困惑していただけで、これに何の意味があるのか、そこまで解き明かした人はいないようだった。

「あれ……? でもこれ、ちょっと、気になりますね」

 ニラネギはそんな意味深なコメントを残して、それからしばらく沈黙した。

 一方で、俺も押し黙っていた。
というか、言葉が出なかった。
その時、俺はとんでもない物を発見していたからだ。

 机だ。

 ゲームの中の机ではなく、俺の目の前のリアルな机……
その引き出しが僅かに開いていて、中に赤いものが垣間見えたのだ。

 意を決して、それを引き出した瞬間、俺は固まった。
引き出しの中の一面が赤いマジックで書き殴られていた。
筆跡は間違いなく庵藤のものだった。
震えており乱雑だが、いくつかの語句は読み取れる。これは……

「車」「写真」「償い」「契約」「間違い」「裏切り」「自殺」「社長」「呪い?」「配信?」

 なんだ……これは?

 他にも不可解な数字や誰のものかも分からない人名が乱雑に綴られていた。
俺の全身に鳥肌が立ち、背中に冷たい汗が流れた。

 これは……庵藤が書いたのか? 
一つ明らかなのは、これを書いた時の庵藤の精神状態がまともじゃなかったということだ。

 そして、もう一つ。

 間違いなく、これはゲームに関する事柄だろう。
「配信すると死ぬゲーム」の噂も知っていたように思われる。
「写真」とあるが、庵藤もこのゲームを事前にプレイしたのか? 
そして俺と同じ発見をした?? 

 今日の夕方、俺に電話を掛けてきた時から庵藤は様子がおかしかった。
その前に何があった? 
今思えば庵藤はずっと何かに怯えていたように思える。
まさか、アイツが恐れていたのは……

 ――このゲームなのか?

 庵藤は「配信すると死ぬゲーム」の噂を知って、それを真に受けた? 
実際にプレイして、あの不気味な写真を見つけて不安定になり、それで俺との関係を暴露すると言い出した?

 ……いやいやいや。
何かがおかしい。
俺の仮説は何かが繋がっていない。
何かのピースが抜け落ちている。
俺の知らない何かがあって庵藤は追い詰められたんだ。
その「何か」があるとしたら、やっぱりこのゲームしか考えられないが……。

でも、呪いだなんて考えられない。
それに何より庵藤は「配信していない」のだ。
仮に呪いが真実だとしても呪われる理由がない。
一体、アイツは何に怯えてたんだ?

「ピンポーン!」

 俺はびっくりして「ふわぁあ!」と変な悲鳴を上げてしまった。
コメント欄では「ホントにビビりすぎw」などと煽られていたが、仕方ないだろ! 
お前らも死体と謎の書き殴りを前に呼び鈴鳴らされてみろよ。
絶対にビビるから!

 ともあれ、俺は慌てて玄関に向かった。
鍵を開けて扉を開いた瞬間、ふと、あの話が俺の脳裏をよぎった。
そういえばニラネギが言っていた……。

「配信中に呼び鈴が鳴った」
「それに出た後から配信が途切れて」
「配信者は自殺……」

 そんなことを……言っていたぞ……。

「あれ? これってヤバイんじゃ?」俺がそう思った時には既に遅く、微かに開いた扉を逞しい指先がガッチリと掴んでいた。
俺は「ひッ」と悲鳴を上げて、己の軽率さを心底から悔やんだが、

「こんばんはー」

 そこに現れた光景は拍子抜けするものだった。

「庵藤さんにお届けものです! 遅くなってスイマセン!」

 ただの宅配便の兄ちゃんだ。
雨のせいで全身ビショビショに濡れたその兄ちゃんは、俺の顔を見て、きょとんとして、

「あれ? 庵藤さんの、お宅ですよね?」

 と確認してきた。
ゲッ、まさかこの兄ちゃん、庵藤と顔見知りなのか……?

「あ、ハイ。代わりに受け取っておきますんで」
「そうすか、はい!」

 とはいえ、向こうも面倒は御免なのだろう。
俺のこの一言で納得して話を進めてくれたが、俺がサインを代筆している間、彼はチラッと部屋の奥の方を見て言った。

「あっ、庵藤さん、寝てるんですね。病気ですか? 大丈夫ですか?」

 この時ほど俺の肝が冷えた瞬間はない。
どうやって言いくるめて追い返したのかも今となっては覚えていない。
そのくらい混乱して慌てふためいていた。

そんなリスクを考えもせず、扉を開けた自分の愚かさに打ちのめされそうだった。
なんとか追い返して扉を閉めた後、「もう配信終了まで誰が来ても絶対に扉を開けないぞ!」と俺は自分の胸に刻み込んだものだ。

 冷や汗でびっしょりの顔を青ざめさせながら、急ぎ足でパソコンの前に戻ろうとした矢先、俺の足が止まった。
今届いた封筒の差出人に目が止まったのだ。

「郷原探偵事務所」

 …………探偵事務所!?!

 次の瞬間、俺は封筒を開いていた。
おいおい、庵藤のやつ、何のために探偵を!? 
俺のことを何か調べていたのなら大問題だ。
探偵社の方から俺と庵藤の関係性が明らかになってしまう……!

 だが、その中身を見た俺はまた困惑を深めることになった。

 そこにあったリストには俺の全く知らない名前が列記されていたのだ。

 佐藤秀一郎
 依田翼
 前島晴海
 中西秀雄

 ……本当に誰一人知らない。
そんな名前が百以上並んでいる。
名前の横には住所情報もあったが、これもバラバラで何の共通点もない。

さらに住所の隣にはマル、バツ、サンカクのいずれかの記号が付けられており、バツの場合は数字と備考が書き加えられていた。
数字の方はおそらく日付だろうか。
備考は……これはなんだ? 
死亡原因か? 
「癌」「交通事故」「自殺」「心臓発作」などの記述が並んでいる。
中でも「変死」の表記が妙に多い。

 庵藤はこのリストにある百名程の死亡時期とその死亡原因を調べていたのか?
 さらには探偵社からの請求書と共に一枚の手紙が入っており、

「先日、電話で概要をお伝えしましたが、詳細な調査結果を同封してあります」

 そんなことが書かれていた。
なんだ? 
庵藤は何を調べていた? 
俺と関係はなさそうだが、念の為、配信の後、この探偵社とのやり取りも確認した方が良いな……。
そう思いながら、ゲーミングチェアの前に戻った。だが俺は、

「!?」

 俺は目を丸くして固まった。
コメント欄が大変なことになっていたのだ!

「アンドウ?」
「アンドウって誰」
「えっ、若色って本名じゃなかったの?」
「女? 同棲?」
「アンドウさん病気?」
「スキャンダルの予感ww」

 あ、ああああああ……。

 し、し、しまった! 
ミュートし忘れていた! 
俺と宅配便の兄ちゃんとのやり取りが全部筒抜けじゃないか!

 頭の中が真っ白になりそうだったが、俺は自分になんとか言い聞かせようとした。
だ、だ、大丈夫だ。
お、落ち着け。
落ち着いてスルーだ。
完全にこの話題に触れないことで、「えっ、皆さん。何か聞き間違えたんですかぁ?」みたいな雰囲気を出すのだ。
もうそれしか方法はない。
スルー。スルー。スルーするぞ!

 そう思って平静を装おうとしていた俺の頭が完全にフリーズしたのは、さらにコメント欄に追加された次のフレーズを見た瞬間だった。

「庵藤圭司」

 な……?
 ……待って。
あの、誰ですか。あなた、俺達の何を知ってるんですか!???

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