殺人犯ですが助けてください、呪われたクソゲーがクリアできません!チャンネル登録お願いします

原案:狩野英孝 著者:架神恭介 キャラクター原案:倉持由香 プロデュース:株式会社ビーグリー

3-2.写真

 他の視聴者たちからも次々とコメントが寄せられてきた。俺も音量を上げて聞き耳を立てると……あっ、聞こえた! 

 ――ォギャ……ォギャ……。

 経理の女性キャラの近くに立った時だけ、上階から赤ちゃんの微かな泣き声が聞こえてくる。
よく見たら経理の女性も天井をたびたび見つめているぞ。
このキャラ……赤ちゃんの声に気付いているのか?

 女性キャラに話しかけても無言の反応が返ってくる。
最初はクソゲーにありがちな手抜きかと思っていたが、違うな。
彼女は上階の泣き声が気になっているんだ。

 なら、ひょっとしてこういうことではないか? 
俺の中で一つの仮説が生まれつつあった。

 おそらく、主人公がオフィスから出て外を探索している間に、経理の女性は赤ちゃんの声が気になって確認しに行ったのだ。
声の発信源は一つ上の階の”開かずのテナント”。
女性は何とかしてテナントのカギを手に入れ、それを使って中を確認し……そこで"何か"を見てオフィスまで逃げ帰った。
女性は恐怖して主人公に確認を依頼するも、既に彼女は呪われており、カギを手渡した瞬間にあのようなことに……。

「それだ!」
「ナイス仮説」

 俺の仮説発表に対してコメント欄が湧き上がった。
だが一方で、

「若色さんとは思えない冴え方……」

 とヘルアネゴは訝しんでいる。
すると他の視聴者たちもたちまち同調して、

「確かに」
「いつもと違う」
「別人のように冴えてる」
「やはり若色さんは既に殺されて……」

 などと口々にコメントしてくる。
くっ、このヘルアネゴとやら、鋭いな……。
若色ちゃんねるの……というか、庵藤のコアなファンだろうか?

 ともあれ、今は一刻も早くクリアするのが先だ。
俺はこの仮説を試してみることにした。
オフィスの外に出た後、いつもならすぐに探索に向かうのだが、少し離れた場所からオフィスの動きを見守ってみる。
すると、程なくしてオフィスの扉が開き、経理の女性が出てきた。
……おおっ、ビンゴだ!

 これにはコメント欄も「すげえ!」「マジで!?」と大盛りあがりだ。
本作、ちゃんと考えれば解けるし、視聴者も盛り上がってるし、意外とクソゲーではないのかも!? 
そう思いつつ俺は女性を尾行してみた。

 女性は非常階段を使って一つ上の階へと登ると、パーティションで閉じられた一画――これが”開かずのテナント”だろうか――へとやってきた。
彼女はカバンの中からカギを取り出し、扉の鍵穴へ差し込もうとする。

 俺の仮説通りなら、このまま放置しておくと女性は一人で中に入って”何か”に遭遇し、その後、彼女は死んでGAME OVERとなってしまう。
ひとまず、それを止めるべく彼女に話しかけた。
彼女は主人公に声を掛けられたことに驚きながらも、こう答えた。

「中から赤ちゃんの声が聞こえて……」

 その内容は、俺の仮説を裏付けるものだった。
彼女はビル内に赤ちゃんが取り残されているのではないかと気になり、様子を見に来たのだという。

 そこから話は強制的に展開していく。
よせばいいのに、主人公も一緒に"開かずのテナント"に入って調査することになった。
テナント内に入ると明らかに怪しい封印された井戸が見つかった。

井戸!? 

なんで12階に井戸があるんだよ、おかしいだろ……。

 さらに調査していくと、赤ちゃんの泣き声は天井の方から聞こえていることが判明する。
よせばいいのに、主人公は足場を作って天井点検口を開いて、天井裏へと懐中電灯の光を当てた。

「うおおおおおおっ!!!」

 その次に流れたムービーシーンに俺はマジで絶叫してしまった。

 薄暗い天井裏の中で、黒いゴミ袋に包まれた何かが、赤ちゃんの泣き声と共にモゾモゾとすごい速さで主人公に突っ込んできたのだ。
次の瞬間には例の血飛沫とGAME OVERのロゴが現れたのだが、その力の入った恐怖演出に俺は心の底からビビってしまった。
なにせ俺の足下には本物の死体が転がっているのだ、臨場感がメチャクチャすごい! 

「びびった! びびったぁぁ!」

 心臓をバクバクさせて俺が心底から怯えている姿にコメント欄は大盛りあがりで、
「草www」
「ビビってるw」
など呑気なものだが本当に勘弁して欲しい。
こっちは人を殺してるんだぞ! 

 その時点で神経すり減っててギリギリなのに、さらに「配信すると死ぬゲーム」とか言われて脅されて、おまけにクソゲーだと思っていたゲームが意外とちゃんと怖い。
要らねえんだよ、そういうサプライズはよ! 
こっちは早く終わらせて死体を隠蔽したいんだ!

 もう泣きそうだったが、とにかく早く終わらせるべく思考を高速回転させる。
”開かずのテナント”の直前で女性キャラを止めても強制的に話が進んで死んでしまった。
ならもっと手前で、女性の動きを制限するしかない。
カギは彼女のバッグの中に入っていた。

「それなら、こうだ!」

 ゲームスタート直後、俺は決断的に行動した。
オフィスから出る前に、机の上に置かれている女性キャラのバッグを調査したのだ。
人倫にもとるが、まあ、そこはゲームだから勘弁して頂きたい。

「よし、来た!」

 俺の予想通りだ! 
バッグの中に「カギ?」が見つかった。
「入手しますか?」の選択肢も表示された。
いいぞ!

 これを確保すれば、とりあえず女性が勝手に”開かずのテナント”に突っ込んで死ぬことはない! 
ビンゴ! ドンピシャだ! 
推測が当たると流石に楽しくなってくる。
ちょっと「良いゲームなんじゃないか?」とすら思えてきた。
いや、操作性は本当にクソだけれど。

 一方、コメント欄では、俺の冴えた判断に対して、

「ウソだろ!?!?」
「今日は絶対おかしい」
「怪しい」
「別人では?」
「やはり殺人事件か!?」
「疑惑は深まった」

 などの声が溢れ返っている。
いや、イイから! 
もうそういうのイイから! 
庵藤を演じながらクリアとかもうムリだから! 
とにかく早くクリアして配信を終えたいの!

 その一心で俺は「入手しますか?」に対して「はい」を選んだ。
そして、その時に……

 ――ゾクリ。

 あの瞬間に味わったあの不可解な悪寒を俺は今でも忘れることができない。
 選択肢を選んだ瞬間にそれは現れた。

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