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原案:狩野英孝 著者:架神恭介 キャラクター原案:倉持由香 プロデュース:株式会社ビーグリー

2-3.隠蔽

 電話を切った後、俺は自分の胸にそれをしっかりと刻み込んで、マイクに向かって口を開いた。

「そ、操作性が独特すぎて……ちょっと集中しちゃってました、スイマセン! でもほら、見て下さい! だいぶヌルヌル動けるようになりました」

 画面では薄暗いオフィスの中、自キャラが並んだ机を避けながらスイスイと移動していき、扉まで到達していた。
あの回転時に掛かる妙な慣性も対処法を見つけることができた。
カメラ移動ができるのだが、どうやらカメラを逆回転させることで慣性を中和できるようだ。
繊細な操作が必要だし、物理的には全く意味が分からないが、とにかく、これを駆使すれば遊べなくはない。
「早く終わらせたい」その一心で発揮した俺の集中力の賜物だった。

 だが、そんな俺の劇的な進展に対して、なぜかコメント欄がひどくざわついている……。

「バ、バカな……」
「俺達の若色涼太が」
「地獄の三回転半(トリプルアクセル)をわずか……」
「7分で攻略……だと……」

 えっ……。
 なんだ、この反応?? なぜかコメント欄には、

「落胆した」
「残念です」
「今日一日の楽しみが終わった」

 などの辛辣なコメントが並び始める。
ちょ、ちょっと待ってくれ。
さっきまでの温かい応援はどこに行った? 
というか、そもそも自キャラが歩くことが「攻略」ってなんだ?

 俺は困惑しつつもコメント欄を注視した。
彼らのコメントを綜合するに、どうもこういうことらしい。
『S/Witch』は伝説的なクソゲーとして界隈では有名な作品だが、しかし、愛されているクソゲーなどでは断じてない。

 その悪名は第一に「地獄の三回転半」と呼ばれる自キャラの異常な回転慣性にある。
端的に言えば劣悪な操作性だ。
カメラ移動で慣性を制御するという意味不明な仕様と、それを習得するまでに必然的に発生するとんでもないカメラ揺れのせいで、プレイヤーのほとんど全員が画面酔いでゲーム続行を諦めるのだという。
強靭な三半規管の持ち主だけがこのゲームを続けることができるが、「地獄の三回転半」を攻略……つまり、自キャラを普通に歩かせる事ができるようになるまで、およそ一時間を要するという……。

「朝から楽しみにしてたのに」
「初回はオフィスから出れなくて終わると思ってた」
「画面酔いに苦しみ、トイレに駆け込む若色さんが見たかった」
「まさか、事前に練習を……?」
「だとしたら最低だな」
「UMBRELLA史上、最低回の予感……」

 次々と失望に満ちたコメントが並んでいく。
ま、待ってくれ……。
みんな、UMBRELLAに……いや、俺に何を期待してたんだ! 
おい、庵藤、お前、どういうキャラで売ってたんだよ! 
俺は恨みがましく庵藤を見下ろすが、死んでいる。

 いやしかし……。
冷静に考えれば庵藤ってスゴイんじゃないか? 
様々なエンタメ企業が人々の可処分時間を奪い合うこの現代社会において、お前はキャラがくるくる回ってるだけで大勢の視聴者を数時間楽しませることができるのか? 
一人の表現者として羨ましくなってくるな……。

「じゃ、じゃあ、オフィスから出て、非常階段を探してみます」

 ともかくゲームを進めないと。早く終わらせて死体を隠蔽しなきゃ。

 オフィスから出てみるが、廊下にはほとんど光源がなく薄暗い。
視認性も最悪だ。
どこに非常階段があるのかも分からないが、廊下を少し歩くとフロアマップが壁に架けられているのを発見した。
マップの前でボタンを押すが何も起こらない……。

「こういうのって、普通、地図が拡大表示されるものでは……?」

 コメント欄には即座に「これは、あのスウィッチだぞ」「何を期待してるんだ?」「そのまま見るに決まってるだろ」などの意見が並んでいく。

 えっ、この地図画像を? 直接見る? 解像度が低すぎて文字が読めない上、近すぎると一部しか見えないし、遠すぎても視認できない。キャラの立ち位置を微調整しようにも「地獄の三回転半」のクソ仕様のせいで凄まじいイライラ感が募っていく。

 庵藤のカンペには「本作はほとんどプレイされていない」とあったが納得だ。
地図すらまともに読めない。
確かに普通ならこの時点でギブアップだろう……。
俺だって犯罪の隠蔽のためじゃなきゃ、こんなクソゲー今すぐやめている。

 それでもなんとか非常口らしき表示を見つけて、そこへと辿り着いた。
コメント欄には、

「えっ」
「地図が、読めてる……?」
「目的地に辿り着いた、だと?」
「いつもなら逆方向へ進むのに……」
「信じられない」
「俺が見ているのは本当に若色涼太か?」
「まさか、替え玉……?」
「若色さんは既に殺されていて殺人鬼がプレイしているのでは?」

 などの文字列が流れていく。
……頼む、止めてくれ。
俺は地図通りに進んだだけなんだ。
それなのに、なんで俺の犯行の核心に迫ってくるんだ。勘弁してくれ……。

 案の定、電話も鳴った。

「若色さん、何やってるんですか! コメント欄が荒れてますよ、お願いですからいつも通りにやって下さい!」

 古賀さんも勘弁してくれ……!

「ま、まずは非常階段からの脱出を試してみます」

 俺の自キャラが非常階段への扉を開く。
コメント欄を見ると「この先は初見だ~」という書き込みが散見された。
本当に全然プレイされてないんだな、このゲーム……。

「うおっ……怖」

 非常階段はビルの外側に設置されていた。
隣のビルとの間に挟まれており閉塞感が凄まじい。
懐中電灯がなければまともに足下も見れないくらい真っ暗なのに、手すりは太腿の高さまでしかない。
リアルであれば、こんなの恐ろしくてとても利用できないだろう。
ホラーゲームとしては正解だけれど……。

「ともかく下ってみましょう」

 自キャラが非常階段を降りようとすると、上司の小太り男性と経理の女性も「一緒に行く」と言って後ろから付いてきた。
ゲームの中とは言え、人が増えるとちょっと心強い。
だが、「地獄の三回転半」をなんとか制御しながら11階から9階まで降りたところで、異変が生じ始めた。

 ――クスクス……クスクス……。

「えっ、なんで……わ、笑い声?」 

コメント

  • ノベルバユーザー622396

    ボリュームあったけど、意外とサクサク読めた。結構しっかりホラーでサスペンスなんだぁ。

    6
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