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原案:狩野英孝 著者:架神恭介 キャラクター原案:倉持由香 プロデュース:株式会社ビーグリー

2-2.隠蔽

昭和84年9月2日20時22分 ――配信開始――

「わかむぎ、わかごめ、わかたまご!」

 パソコンに向かった俺は、画面上に開かれたテキストファイルに従ってタイトルコールを叫んでいた。
内心の戸惑いを必死に押し殺しながら――

「若色涼太の! アン、アン……アアン! UMBRELLAのお時間です!」 

 なんなんだ、この妙なタイトルコールは。
こ、小っ恥ずかしい! 
庵藤、お前、俺が見てない間に何をやってたんだ? 
いくらなんでも、庵藤の配信をもう少し真面目に見ておくべきだった……と今さらながらに悔やまれる。

「待ってました」
「遅すぎ」
「遅刻じゃん」
「ウンコしてたんか?」

 コメント欄ではすぐに視聴者からのリアクションが流れるように書き込まれていく。
みんなブーブー言っている。
だが、俺が申し訳無さそうに機材トラブルの件を伝えると、

「それはしょうがない」
「今日も期待!」
「ガンバレ!」

 コメント欄はすぐに励ましの言葉で埋まっていった。
なんて温かい視聴者たちだ……。
庵藤、お前、メチャ人徳あったんだな……と思いながら、俺は再びテキストファイルをチラ見した。

 このテキストファイルは庵藤が作ったカンペだ。
その日の実況配信に必要な情報が最小限書き込まれている。
配信準備を進めていく過程で俺が発見したものだ。
これを参照して庵藤が行うはずだった配信内容を俺が再現し、つつがなく配信を終わらさねばならない。

「本日プレイするゲームは……視聴者投票で選ばれたホラーゲーム『S/Witch(スウィッチ)』です!」

 ちょっと早口になっているのが自分でも分かる。
「早く終わらせたい」の一心だから仕方ない。
だって、足下では今も庵藤の死体が横たわっているのだから。
こんな状況でゲーム配信なんて、普通の神経でできるはずがない。
早く終わらせて死体を隠蔽したい!

 そう、俺が今こんな無謀な挑戦に乗り出しているのは、ひとえに古賀さんの言葉に乗ったためだ……。


「警察の弾き出す死亡推定時刻はそれほど正確なものではありません」

 あの時、彼女は続けてこう言った。

「死体は後で一緒に隠しましょう。数日見つからなければ、時間経過により死亡推定時刻は数時間単位で揺らぎます。だから、今すぐ配信を始めて……」

 アリバイを作れ、と彼女は言ったのだ。
今回の事件が起こる前、最後に俺が会ったのは古賀さんだ。
ならば「配信直前まで古賀さんと一緒にいた」と二人で口裏を合わせれば、俺のアリバイに隙はなくなる――、と。

「素直に自首したって、どうせ芸能人としてはもう終わりです。それならば……賭けに出るしか……ありません」

 俺は足下に転がる変な死に顔の庵藤をチラッと見た。
庵藤……お前だって、俺の成功を本当は応援してくれるよな……? 
そんな虫の良い思いが再び俺の心中に湧き上がってきた。
せっかく自首の方向で決意したのに古賀さんのせいでグラグラだ。
いや、人のせいにするのは止めよう。
俺は結局そういう人間だったんだ。

 俺は古賀さんの言う通り「賭け」に出たのだ。古賀さんはこうも言った。

「……こんな状況での配信、難しいことは分かってます。ですが、今こそ若色さんが培ってきた役者魂を見せる時です。役者として、普段通りの自分を演じて下さい。死体の処理は後で考えましょう。今はとにかく配信に集中して下さい」

 役者魂を犯罪の隠蔽に使うことになるなんて……。
それでも俺は腹を決めた。
この配信をやり切る。
ボロが出ないようにさっさと終わらせる! 
俺は今、カンペを見ながら早口でまくしたてていた。

「『S/Witch』は六年前にROMで発売されたPCゲーム。過去作の復刻プロジェクトの一環として、先週、ダウンロード版が発売されました。発売当初の販売実績は振るわず、今となってはROM版を手に入れることは中古でも困難で……」

 今回、実況するゲームはどうやら低予算3Dホラーゲームのようだ。
主人公は零細ソフトウェア開発会社に勤務する若い男性で、このキャラを操作することになる。
他に上司に当たる太った男性と経理部の若い女性がいて、登場人物は基本的にはこの三人だけだ。

 この三人だが、納期が間近に迫っており、ビル11階のオフィスで深夜まで残業をしている。
それで、帰ろうとするが、なぜかエレベーターが動かない。
定期メンテでもないのになぜ? と疑問に思いながらも三人はビルからの脱出を図る。
だが、様々な怪異が三人を襲い、三人はこのビルに隠された恐るべき秘密を知ることになる……。
というのが大まかなストーリーだ。あらすじは可もなく不可もない、といったところか。

 しかし、全くタイトルを聞いたことのないゲームだ。
六年前なら俺もそれなりにゲームに夢中だった頃なのに全然記憶にない。
その割にコメント欄には、

「期待!」
「ワクドキ」
「待ってました」

 などの意見がドンドン流れていく。
そもそもこのゲームは視聴者投票で選ばれたらしいから、俺が知らないだけで知名度はあるようだ。
「隠れた名作」というやつなのだろうか……?

 だが、その推測を俺は直ちに否定することになる。
ニューゲームを押した後、出来の悪いオープニングムービーを挟んで、ほとんど操作説明もないまま行動可能になったのだが……

「あ、あれ……」

 主人公の男性キャラがその場でグルグルと回り始める……。
某有名ゾンビゲームのような見下ろし型かつラジコン操作方式なのだが、なぜか自キャラの回転に強烈な慣性が掛かっており、少し入力しただけで、その場で三回転半くらいする。
全然止まらない。
狙った方向を向くことすら難しい……。
えっ!? どういうことなの? このキャラ、既に呪われてない?

 一方で、この手のゲームには珍しくジャンプができるのだが、

「ピョン……ピョン……」

 その場でジャンプしても十センチくらいしか飛ばない。
いや、確かに予備動作なしなら、そんくらいだろうけど。
こんなところはリアルなのか……。

 ともあれ、もはやこの時点で「隠れた名作」などとはとても思えなかった。
操作性が劣悪すぎる。
もはやギャグの域だ。
それでもまだ可能性があるとすればストーリーがとても良いとかだろうか?

 俺は戸惑いながらも、数分間「狙った方向を向く」ことに集中して取り組んだ。
とにかく早く終わらせたい一心だった。
まずはこの難解な操作をマスターしなければ話にならない。

 だが、俺が真剣に操作に取り組んでいるとコメント欄には困惑する声が溢れ出してきた。
意味が分からない。お、俺は必死にやってるんだが!??

「テッテレーッ♪」

 その時、電話が鳴った。

「ちょっと! 若色さん、何やってるんですか!」

 古賀さんだ。俺は配信中のマイクをミュートして尋ねた。

「えっと、どういう意味……ですか?」
「なんで黙ってプレイしてるんですか!? 顔出しじゃないんだからなんか喋って! リアクションして下さいよ! あと、コメントも拾って。疑われますから、普段通りの配信をやり切って下さい!」

 ふ、普段通り……。

 そうか、かつての俺は何のリアクションもせず黙々とプレイを垂れ流していた……。
だから視聴者数があんなだったんだ。
ゲーム配信は配信者のリアクションあってこそ、ということか。
ありがとう、古賀さん。

 よし、切り替えるぞ、若色涼太! 
お前は今、人気ゲーム配信者「若色涼太」なのだ!

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