殺人犯ですが助けてください、呪われたクソゲーがクリアできません!チャンネル登録お願いします

原案:狩野英孝 著者:架神恭介 キャラクター原案:倉持由香 プロデュース:株式会社ビーグリー

2-1.隠蔽

昭和84年9月2日20時15分 ――配信開始の7分前――

「こ、こ、ここここ、殺し、た??」

 古賀さんが素っ頓狂な声を出した。それはそうだろう。それから、古賀さんは一拍置いた後、

「ごめんなさい、ちょっとよく聞こえなくて。たぶん聞き間違いだと思」
「殺した」
「え?」
「殺した。本当に殺した」

 古賀さんが絶句している。
それはそうだろう。

 だが、対して俺は自分でも驚くほどに冷静だった。
俺はもう、その決意を固めていたからだ。

「え、えっと? 若色さんが、誰かを、殺した?」
「うん」
「い、今、どこ……?」
「配信部屋。ここで人が死んでる」
「な、なんで? えっ、なんで、死……」
「思い切り殴ったら死んだ」
「は!? な、殴……っ、死、死ぃ……??」
「…………」
「あ、ド……ドッキリ? 水曜日の……」
「違う。マジ」
本気マジ !?」

 電話口の向こうで古賀さんがメチャクチャ狼狽している。
それはそうだろう。
そんな古賀さんは何度か、

 ――スーッ、ハーッ、スーッ

 と、大きな音を出して深呼吸してから……、

「若色さん」
「うん……」
「バ、バカッ! バカ、バカ、バカ!!」

 声を震わせて叫んだ。

「バカ! バカバカ! 今から……今からだったのに! なんで、なんでこんなことに。もう全部ブチ壊し……台無しですよ!! もうおしまい、どうすればいいの……!」

 俺を責める古賀さんの声が涙ぐんでいる。
そりゃそうだ。
自分が担当する売れ線俳優が殺人事件なんてやらかしたのだから。

 古賀さんはまだ入社ニ年目だが、入社してすぐ、まだくすぶっていた俺に将来性を感じて、熱烈にマネージメントを買って出てくれたと聞いている。
それから甲斐甲斐しいまでに俺の世話を焼いてくれて、二人三脚……いや、庵藤も含めて三人四脚で俺達はここまで来たんだ。
俺の成功を古賀さんはずっと我が事のように喜んでくれていた。

 そして、さらなるステップアップを控えていた、今このタイミングでこれだ。
俺にとっても身の破滅だが、古賀さんのキャリアにも深刻な傷が残るだろう……。
だが、もう仕方がない。
全ては俺の罪なのだ。
俺はもう決意していた。

「いや、どうしょうもないよ。古賀さん、俺は自首する」
「えっ?」
「警察に電話する」
「けっ!? 警察! ……ま、待って」

 古賀さんはなおも声を震わせていた。

 だが、次の瞬間、彼女の口からは俺が想像もしなかった言葉が飛び出してきたのだ。

「ダ、ダメ……です。ゆ、許さない、です」

 え?
な、何を言ってる? 
許す許さないの話ではないだろう。
えっ、でもこれって。まさか……。

「古賀さん、まさか……それって、隠蔽しろと……」
「えええっ!?」

 なんで驚いてるんだよ! 違うのかよ!

「あの、隠蔽っていうか……。その、若色さんの犯行を、警察に知らせない方がいいんじゃないか、って……」

 それを隠蔽というんじゃないのか?? 
いやこれ、古賀さんも混乱しまくってんな……。

「えっと、若色さん。整理しますが……殺した相手は、そもそも誰?」
「友達」
「と、友達……? 部屋に、来てた?」
「うん、来てたというか、いたというか」
「その、友達、って、関係性は……他の人に知られて……?」
「いや、誰も知らないと思う」
「…………」

 その言葉を最後に古賀さんはしばらく押し黙った。
必死に何かを考えているのが伝わってくる。
この短い間にも、彼女が混乱から急速に脱して、いつも仕事中に見せるクールな強かさを取り戻していくのが電話口で伝わってきた。

 現に、次に口を開いた時、彼女は覚悟を伴う強い口調で言ったのだ。

「隠しましょう」

 と――。

「若色さん。警察はナシです。ホントにナシです。今までの頑張りが全て無駄になります。隠すしか、ないです」
「いや、でも、それは俺の良心が……」

「あんたの気持ちなんかどうでもいいんだよ!!」

 突然、古賀さんが大声で叫んだ。
び、びっくりした! 
なんてこと言いやがる、この女! 
全然クールじゃない!

「ご、ごめんなさい! でも、でも……自覚して下さい。もう若色さんは一人の体じゃないんです! 事務所の未来も私の将来だって掛かってるんですよ!」
「だ、だからって隠蔽だなんて」
「若色さん、今すぐ配信を始めて下さい」
「はあっ?」

 本当に何を言ってるんだ? 
俺は彼女の正気を疑ったが、それは俺の思い違いだった。
彼女は押し殺した声で淡々と言葉を繋いだ。

「警察の弾き出す死亡推定時刻はそれほど正確なものではありません」

 と――。

コメント

コメントを書く

「ホラー」の人気作品

書籍化作品