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幕間『若色涼太』
昭和62年6月某日 ――22年前――
小学五年生の時、家の都合で転校した。
昔の俺はいつもオドオドしていた。
我ながら鈍臭いヤツだった。
そんなだから前の学校ではかなりイジメられていたし、転校だってむしろ嬉しかった。
次の学校では心機一転してやり直すんだ、今までの情けない自分にサヨナラだ!
馬鹿だから明るい未来を思い描いていた。
そんな簡単にいくはずがなかった。
いきなりキャラ変なんてできないし、オドオドした性格も急に変わるわけがない。
最初こそ物珍しさからみんなが話しかけてくれたが、そのボーナスタイムの間も俺はキョドってばかり。
ロクに自分のことも喋らない俺にみんなは呆れ始め、少しずつ距離が開き始めた。
……あぁ、これじゃダメだ。
前と同じだ。この距離感がそのうちイジメに変わるんだ……。
そう思って俺の目の前はどんどん暗くなった。
そんな時だった。アイツから突然肩を叩かれたのは。
「若色ってさ、俺と声似てるよな?」
えっ、と慌てた。
声を掛けてきたのはクラスの人気者だ。
スポーツも勉強も得意で、休み時間にはいつも彼を中心として自然とグループができる……男子とも女子とも仲の良い陽キャ……アイツはそんな奴だった。
俺はしどろもどろになりながら、
「そ、そんなに似てないと思うけど……」みたいなことを言って、後はキョロキョロしながら沈黙していた。
でも、アイツはグイグイ来た。来てくれた。
「いや、これだけ似てりゃ十分だ。声質は問題ナシ、後は練習だな」
「れ、練習……?」
「ウチの姉ちゃんがこういうの得意なんだ。だから一緒に教えてもらおうぜ。俺と転校生が入れ替わってたら超面白いだろ!」
アイツが言うには、来週、アイツの誕生日パーティーが開かれるらしい。
クラスメイトのほとんど全員が参加する大規模なものだ。
そこで、ちょっとしたドッキリを仕掛けたいのだという。
俺とアイツが姿を隠して、俺がアイツの声マネをする。
みんなが信じ切ったところでアイツが真反対から現れる。
そんな他愛のない余興だ。
アイツは熱っぽい口調で語った。
「みんなをマジでビックリさせたいんだ。だからさ、放課後空いてるか? 今日からウチで秘密特訓な!」
ドンドン話を進めていくアイツに俺は流されるばかり。
内心は困惑し切っていた。
でも今なら……今なら分かる。
アイツは俺に気を遣ってくれていたのだと。
クラスに馴染めず戸惑うばかりの転校生のために、一緒に「誕生日の人気者」になれるチャンスをくれたのだと。
実際、この隠し芸は大成功だった。
アイツがいるとみんなが思っていた場所から俺が現れ、いるはずのない場所からアイツが出てきて、みんなはめちゃくちゃ混乱した。
でも、その後の種明かしで二人で声を合わせてユニゾンしたら混乱は驚きに、さらに爆笑に変わった。
それに俺とアイツがいつの間にかすごく親密になっていたことにも、みんなはもちろん驚いていた。
誕生日パーティーの後から、みんなと俺の距離は明らかに変わっていった。
それからニヶ月後――、今度は俺の誕生日がやってきた。
もちろんアイツを誘った。
「僕の誕生日パーティー、君も来てくれるだろ?」
「ああ。もう人は集まってるか? 俺からも声掛けようか?」
「いや、大丈夫、人はたくさん集まってる」
俺の誕生日パーティーにこんなにクラスメイトが来てくれるなんて初めてだった。父も母も本当に喜んでいた。
「ところでさ、君にお願いがあるんだ。もちろん嫌とは言わせないぜ?」
俺はニヤリと笑いながらアイツに計画を伝えた。それを聞いたアイツもいたずらっ子のようにケラケラ笑い出した。
「それ、知ってるぞ! テンドン……ってやつだな!」
「今回はウチの親もびっくりさせたいんだ。そのためにはもちろん……」
「練習がいるな! いいぜ、またウチで秘密特訓やろうぜ! 姉ちゃんにも話しとく!」
「ありがと。でも、君のお姉ちゃん、怒ると怖すぎだよね……」
「アイツ、地獄の鬼みたいに怖いよな!」
そういって俺たちは無邪気に笑いあった。
俺とアイツ――、若色涼太と庵藤圭司の入れ替わりモノマネ芸は中学に入ってからも俺達の鉄板ネタとして猛威を振るった。
地元の奴らならまだ何人かは覚えているかもしれない。
小学五年生の時、家の都合で転校した。
昔の俺はいつもオドオドしていた。
我ながら鈍臭いヤツだった。
そんなだから前の学校ではかなりイジメられていたし、転校だってむしろ嬉しかった。
次の学校では心機一転してやり直すんだ、今までの情けない自分にサヨナラだ!
馬鹿だから明るい未来を思い描いていた。
そんな簡単にいくはずがなかった。
いきなりキャラ変なんてできないし、オドオドした性格も急に変わるわけがない。
最初こそ物珍しさからみんなが話しかけてくれたが、そのボーナスタイムの間も俺はキョドってばかり。
ロクに自分のことも喋らない俺にみんなは呆れ始め、少しずつ距離が開き始めた。
……あぁ、これじゃダメだ。
前と同じだ。この距離感がそのうちイジメに変わるんだ……。
そう思って俺の目の前はどんどん暗くなった。
そんな時だった。アイツから突然肩を叩かれたのは。
「若色ってさ、俺と声似てるよな?」
えっ、と慌てた。
声を掛けてきたのはクラスの人気者だ。
スポーツも勉強も得意で、休み時間にはいつも彼を中心として自然とグループができる……男子とも女子とも仲の良い陽キャ……アイツはそんな奴だった。
俺はしどろもどろになりながら、
「そ、そんなに似てないと思うけど……」みたいなことを言って、後はキョロキョロしながら沈黙していた。
でも、アイツはグイグイ来た。来てくれた。
「いや、これだけ似てりゃ十分だ。声質は問題ナシ、後は練習だな」
「れ、練習……?」
「ウチの姉ちゃんがこういうの得意なんだ。だから一緒に教えてもらおうぜ。俺と転校生が入れ替わってたら超面白いだろ!」
アイツが言うには、来週、アイツの誕生日パーティーが開かれるらしい。
クラスメイトのほとんど全員が参加する大規模なものだ。
そこで、ちょっとしたドッキリを仕掛けたいのだという。
俺とアイツが姿を隠して、俺がアイツの声マネをする。
みんなが信じ切ったところでアイツが真反対から現れる。
そんな他愛のない余興だ。
アイツは熱っぽい口調で語った。
「みんなをマジでビックリさせたいんだ。だからさ、放課後空いてるか? 今日からウチで秘密特訓な!」
ドンドン話を進めていくアイツに俺は流されるばかり。
内心は困惑し切っていた。
でも今なら……今なら分かる。
アイツは俺に気を遣ってくれていたのだと。
クラスに馴染めず戸惑うばかりの転校生のために、一緒に「誕生日の人気者」になれるチャンスをくれたのだと。
実際、この隠し芸は大成功だった。
アイツがいるとみんなが思っていた場所から俺が現れ、いるはずのない場所からアイツが出てきて、みんなはめちゃくちゃ混乱した。
でも、その後の種明かしで二人で声を合わせてユニゾンしたら混乱は驚きに、さらに爆笑に変わった。
それに俺とアイツがいつの間にかすごく親密になっていたことにも、みんなはもちろん驚いていた。
誕生日パーティーの後から、みんなと俺の距離は明らかに変わっていった。
それからニヶ月後――、今度は俺の誕生日がやってきた。
もちろんアイツを誘った。
「僕の誕生日パーティー、君も来てくれるだろ?」
「ああ。もう人は集まってるか? 俺からも声掛けようか?」
「いや、大丈夫、人はたくさん集まってる」
俺の誕生日パーティーにこんなにクラスメイトが来てくれるなんて初めてだった。父も母も本当に喜んでいた。
「ところでさ、君にお願いがあるんだ。もちろん嫌とは言わせないぜ?」
俺はニヤリと笑いながらアイツに計画を伝えた。それを聞いたアイツもいたずらっ子のようにケラケラ笑い出した。
「それ、知ってるぞ! テンドン……ってやつだな!」
「今回はウチの親もびっくりさせたいんだ。そのためにはもちろん……」
「練習がいるな! いいぜ、またウチで秘密特訓やろうぜ! 姉ちゃんにも話しとく!」
「ありがと。でも、君のお姉ちゃん、怒ると怖すぎだよね……」
「アイツ、地獄の鬼みたいに怖いよな!」
そういって俺たちは無邪気に笑いあった。
俺とアイツ――、若色涼太と庵藤圭司の入れ替わりモノマネ芸は中学に入ってからも俺達の鉄板ネタとして猛威を振るった。
地元の奴らならまだ何人かは覚えているかもしれない。
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