ほっとけないよ?

清水レモン

キラキラの瞳

 「ひとついいかしら」
 聞いてもいい? って顔で…
 ん? なんか、にらまれてるような気がしないでもない。
 「なんだい」
 思わず低い声で答えてしまった。
 やっば。声、低くなった。おれが低い声で話すと、嫌がられることが多いんだよなあ。って思い出したけれど時すでに遅し。どこでどうなったのか、おれは自分の素のままの状態になりつつあった。
 「こわくないってことは、こわいこともあるってことでしょ」
 「!?」
 「シュートが一緒ならこわくない、ってことは、よ?」
 「はい?」
 「ふだん? 通勤通学時間ラッシュっていうか満員電車あれのこわいことって。具体的には?」
 「そりゃあもちろん」と言いかけて言葉がとまる。
 簡単だよ、ラッシュアワーの満員電車は危険がいっぱい。でも待てよ。
 あれだけ毎日あんな状態であるのにもかかわらず、現実に事件や被害が出るのは稀だよな。
 おれが知らないだけ、ということもある。そういう目に見えなければ耳に届いてこないこともあるだろう。
 怖いというか恐いというかコワイもの。
 よくあるだろ、よくあることだし、っていうか、よくあることらしい。
 …知ってるし聞くし、なにげない会話で自分が声に出すこともある。だが。
 
 痴漢、窃盗スリ、さらには塗りつけ切りつけ物おき仕掛け、言いがかりからの暴行凶行。

 キラキラの瞳。
 言えない。言いたくない。隠したいわけじゃないけど、必要以上にあらわにすることもないだろう。そもそも知ってるだろ、彼女エリカだって。いや、知ってるなら聞かないか。知ってても会話だから聞くことくらいある。ああ、いったい。

 「たいしたことじゃない」おれは言う「でも気をつけたほうがいい」

 「ふうん…まあ気をつけるし気をつけますけど」

 具体的事例を挙げることなく会話を終わらせる。いや、それはそれで不誠実きわまりないか。おれいったいどうしたんだ、こんなことで考えあぐねて躊躇したりするなんて。
 
 「でもさー?」
 
 「でもさ?」おれは聞き返した。すると、

 「シュートは毎日ずっと気をつけてる?」

 そりゃまあ、ね。いちおう。

 「ずっと?…いままで。何年間。毎日毎日ずっと」

 ああ…そう言われると、それは。

 「気にしてたとして疲れないかしら。いやにならないの?」

 「それはレベルの問題だ。まさかおれを同等とみなしてたりしないだろうな」

 「えっ!?」

 「わるいけど。エリカとおれではレベルが違う。満員電車でもみくちゃにされてきたおれは、すでにもう何段階もうえの階層の住人だ」

 「あはっ」

 笑われた。

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