ほっとけないよ?

清水レモン

レールは同じ

 「夜、すごく好きなんだけどあんまり出かけられなくて」
 なんだか夜に外へ出かけたそうな言いかただった。
 出かければいいのに、と思った瞬間『いや普通に考えて危ないよな。危なくなくてもやめたほうがいいことだよな』と困惑してしまう。
 
 「ひとりで出歩くのは絶対やめたほうがいい」

 「どうして?」

 「どうしてって」

 「わかってる。わかってるけど、どうして」

 「どうしてって言わ」

 「シュートは四年生のときから夜の街フラフラできてるんでしよ。
  むしろ子どもが夜遅くになにしてんじゃいワレって思っちゃうけどね?
  子どもが塾の帰りだからって許されていいものなのかしら?
  だいたいそれでその本人は…シュートは平気だったの」

 「平気も何も」

 「選択肢なんかない。じゃなくて?」

 「いや、本気でいやだったらやめることもできたと思うよ。
  実際、おれ何度か逃げ出したことあったし」

 「にげ」と彼女が笑う。

 「なんなら塾そのものも変えてるしさ」

 「ずっと同じトコってわけじゃなかったんだ?」

 「嫌いだったり苦手だったりムカついたりなんだかんだでね」

 「でもレールは同じだったんでしょ?
  受験そのものは決定事項。ちがう?」

 「ちがわないよ」

 「乗る車両を変えたり次のに乗ったり、なんなら路線を変えたりみたいな違いであって。根本的には選択の余地とか、なくなくない?」

 「なくなくな…?」

 「受験、いやじゃなんかった?」

 「別に」

 なにげなく答えたけれど、おれは言葉に詰まってしまった。

 沈黙が生まれると店内BGMがハッキリ聴こえてくる。

 「私、すごくいやだった」と彼女が言ったとき、遠くのウェイトレスがこちらを見ているような気がしたので右手を挙げてみた。するとメニューを持って近づいて。

 「…」言いたいことがありそうな顔のままエリカが話を中断する。

 「すみません、コーヒーと紅茶お願いします」おれは手短てみじかに言う。

 ウェイトレスはメニューを持ったまま大きくうなずいてすぐ戻っていった。

 「…あ、紅茶じゃないほうが良かった?」

 「いえ。紅茶で。ていうかこれ、持っていきませんでしたね?」

 「もう飲み終わったの?」

 「まだちょっと」

 「だからだよ」

 「…」

 「いや、だからってあわてて飲むことないって。飲みたいペースで飲めばいいんだし」

 「でも迷惑じゃ」

 「ないから」

 「…」

 「勝手に頼んじゃって悪かったよ。けどもうちょっとエリカとしゃべっていたくて」

 「…うん」
 彼女がうつむいてしまった。

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