ほっとけないよ?

清水レモン

塾

 「塾は何時までだったの?」と彼女が訊きいてきた。なんか指先で軽快にリズムをとりはじめている?
 「九時だよ」
 「小学生のときも?」
 「ああ」
 「四年生のときも!?」
 「だよ」
 「それ、ちよっと遅くない?」
 「だいたいそんなもんだよ。どこも塾は」
 「そうかもしれないけどそうじゃなくて」
 『ん?』おれは不思議に思った。
 不思議な理由を解明する余裕はない。彼女からの質問が続いた。

 「それは授業の終わる時刻でしょう。そこから家に帰ると何時?」

 「ああ…それはそうだな…電車に乗るから」

 「乗るから?」

 「まあ、それなりに」

 「それなりにって、どれくらい」

 「約30分」

 「それ電車に乗ってる時間でしょ」

 「だよ?」

 「待ち時間は。乗り換えは。そもそも駅から近いの?」

 「えーっと」
 おれはテンポよく答えたかったがリズムがずれてしまったようだ。思わず考える、その考えている時間が究極に長々とした沈黙を生み出してしまう。

 沈黙に飽きて、おれは言う。
 「おれたちの駅って、こっちからの直通が少ないじゃん」

 「そうなの?」

 「そうだよ。だから乗り継ぎが必要になることもある。なんだかんだで50分くらいかかると思ってるよ。駅から家までは20分くらいだけど、駅前の本屋に寄ってくことも多くてさ。なんだかんだで家に到着するのは11時まわったころかな」

 彼女の目が大きくなった。

 「すごい。へたしたら、すぐにもう真夜中じゃない。帰宅してからお風呂と食事? だったらすぐに零時れいじとかでしょう。何時に寝てるの、っていうか寝てたの小学生のとき」

 「2時前には」

 「うわー…それって」

 思わぬ反応にとまどってしまうが、こればっかりはしかたがない。もっと適当に言えばよかったのかもしれないが、ついつい正直に語ってしまった。

 「やっぱりいいな、塾のほうが」
 彼女がほほえんだ。

 え?

 「ね!」

 なにか思うところがあったのだろうか、エリカの目が輝いて見えた。

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