ほっとけないよ?

清水レモン

新年度

 「新年度の役員がまわってきたけど、思ったほどじゃない…っていうか」
 挨拶よりも早く、そう言われてしまった。

 「おはよう?…」おれは挨拶するも疑問形。
 まずは相手の話にあわせたほうがよかったのだろうか。
 「…ございます」おれは挨拶を優先した。すると、

 「おはようございます、いい天気、雲海びよりだね」
 「ですね」おれはわざと大きくうなづき、
 「役員の仕事はこれからが大変なんですよ」と付け加える。

 「ひょっとして二度目?」と質問される。
 「おしい。三度目です」
 「あらいつのまに、もうそんな?」
 「一度目は私が小学生のときでしたからね。親は忙しくて私がもっぱら」
 「その当時は今よりもっと大変だったでしょう、役員なんて無報酬だし時間ばっかかかるし」
 「そういうものだと思ったしまったから当時は大変って思ったことないです」
 「私の最初はハタチすぎの頃だったかな」と彼女は言う「いよいよサークルが忙しくなるっていうのに、まさかのまさかだよ。うちも両親どちらも無関心だったから。いつも家にいた私は、まんまと利用されてしまったなー」
 とても楽しそうに語っている。

 彼女は同じフロアで西地区のオーナーだ。
 地元商店街で玩具屋さんの娘。水商売のうちとは両親共に仲がよかったから、おさななじみのなかでもかなり親しくしているほうだった。
 「早いよねー。なんだかんだ、20年。予定より早く完成したんだっけ、これ」
 彼女が建物の壁を指差して言う。
 「商店街が取り壊され始めたのが三年生のときだったかな。あのあと学校バラバラになったんだよね」
 「うちとは交流が続いたよねー。なんだかんだいって」
 「ごひいきにしていただいていたので助かってました、ありがとうございます」
 「こちらこそ。おたがいさまだよねー。そうそう、ぬいぐるみよく買ってくれてたもんね」
 「外ではその話題はお控えいただけるとさいわいです」
 「あはは。だった、ね? ごぉーめんゴメンて。でも外でなきゃ話す機会なんてないしさ」
 「それはそうですが…清掃日とかなら顔合わせることできるでしょうに」
 「申し訳ないんだけど。私、ああいう清掃って苦手で。娘に頼むことにしてるの」
 「よくできた子だよ、親に似て。私んとこは、とっくに家を出たっきりだから」
 「カワイイ子には旅をさせるもの。自主的に旅に出たんだから、すごいよ。えらいじゃない」
 「連絡ほとんどないけどね」
 「便りがないのは、良い便り。だよ」
 「そう思うことにしてます」

 商店街で暮らしていた人たちには、オーナーとしての階層床面積が与えられている。自己所有ではないけれど区分所有者として管理管轄をしなければならない、いわば義務行為があって、そのひとつが輪番制の役員だ。
 「区長さんとは、もう会ってるの?」
 彼女の質問は具体的になりつつある。
 そういえば、
 「来てなかったよね…引き継ぎの日に。きみんとこ」
 「あれ失敗ホントまじどうかしてたわ」

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