可能性のバイミー

360回転

なんだかとても子供っぽいですね?

真っ暗な部屋から光が失われると、改変女は先程と同じ台詞を口にする
「過去への干渉は終わりました、あなたの過去は書き換わり、最善の未来を引き寄せました」
「僕の未来は変わりましたか?」
質問をすると、彼女は頷いてから言った
「はい、大幅に変わりました…」
「そうですか…炎上商法に成功した僕は、有名作曲家の仲間入りを果たし、彼女とも別れずに済んだ…そんな所ですか?」
僕の台詞に、改変女は首を横に振りながら答える
「いいえ、あなたは炎上していません…」
「炎上してない?…」
「はい、SNSでグレーな炎上を狙ったあなたは周りから見事に無視され…ただの痛い人になりました…仲の良かった友人達や恋人からも無視されるようになり、孤立したあなたは現在無敵な人状態です…しかし、グレーをはみ出す度胸もないようで…今後上手く炎上出来るかは未知数です…」
炎上商法は僕には合わなかったみたいだ…
しかし、炎上の才能がない事が分かっただけでも収穫と言うモノだろう
僕は炎上が上手くいかなかった時のプランを事前に考えていたので、それを改変女に伝える
「炎上が上手くいかないのであれば、次の改変ポイントは2月5日でお願いします」
「2月5日ですか」
日付を呟くバイミーに僕は説明を始めた
「この日はミキオって言う作曲家に彼女である香織を紹介した日です…この日に干渉して、ミキオと香織を引き会わせないようにして欲しいです…」
「ミキオさんと香織さんが出会わなければ、あなたは振られずに済むと…そう言う感じでしょうか?…」
「そうです…あんまり説明もしたくないですけど、香織は多分ミキオと僕の事を比較していたんだと思います…有名になっていくミキオと有名になれない僕を…」
「それでは2月5日…香織さんとミキオさんを引き会わせないように干渉を行います…」
「待ってください!…やっぱり変えます!…おそらく二人を引き会わせないように誘導しても、僕はいずれ香織の事を紹介するはずです…それならミキオと仲良くならないように誘導した方が良いかもしれません…」
「なるほど…それではミキオさんと仲良くならないように干渉を行います…日付はどうしましょうか?」
「日付は7月…僕がとある曲を投稿して、ミキオがそれをコメントで褒めてくれた事がありました…その時のミキオはまだ作曲家ではなかったですし、僕が友好的にコメントを返さなければ仲良くなる事もないはずです…」
「分かりました、それではミキオさんと初めてコミュニケーションを取った日に干渉して、友好的なコメントを返さないようにあなたを誘導します…」
バイミーが呪文を唱え、過去への干渉を開始する
ミキオと友達になれないのは正直もったいないが、香織を取られた時点で僕達の友情は破綻している…そんな事になるなら関りを持たない方が賢明だろう…

…………………

「過去への干渉は終わりました、あなたの過去は書き換わり、最善の未来を引き寄せました」
バイミーの台詞を聞き、僕は尋ねる
「どうなりました?…」
「あなたとミキオさんが友達になる未来は無くなりました…それでもあなたは香織さんに振られます…」
「ミキオと出会わなくても別れるんですね…」
「あなたは香織さんと別れた理由をミキオさんのせいにしていましたが、そうではなかったみたいですね…」
「香織は僕の何が気に入らないんだろう?…」
知名度がない事やミキオのようなカリスマが近くに居たせいかと思ったが、そうではないらしい…
僕は香織との生活を振り返る為に、リモコンでモニターを操作した

香織と初めて喧嘩をした時の事を振り返ろう…二人で映画を見に行った帰り香織は僕に言った
『社会から受け入れられなかった主人公が悪に手を染めていくの…なんだか凄く共感しちゃったな…』
映画のタイトルは”ジョーキング”ジョークが大好きなおじさんが社会に馴染めず、最終的には悪に手を染めていくと言うダークな作品だった
『アレに共感できるなんて負け組すぎるよ…社会から爪弾きにされるような人が悪人としてはカリスマ性を発揮するってのもなんだか変な話だし…悪人として成功できるなら、普通の社会でも成功してただろって思っちゃうな…』
僕の感想に、香織は驚いたような顔をしながら言った
『え…あなたちゃんと映画見てた?…』
『見てたよ、まぁ僕と香織では見てる部分が違うのかもね…』
『なにそれ…私が馬鹿だって言いたいの?…』
『そうじゃない、僕の視点が特別すぎるだけで香織は別に普通だと思う…香織は普通に映画を見て普通の感想を抱いたいだいた…だから馬鹿にしてる訳じゃないよ…』
僕の言葉に、香織はしばらく黙り込む
『ちょっとお腹空いてきたよね?…この辺にオススメのステーキ屋があるんだけど…』
僕の提案に、彼女は俯きながら答える
『行かない…』
『え?…もしかしてお腹空いてない?…』
『お腹は空いてるけど…食べたくない…』
『ステーキの気分じゃないって事か…それならパスタにする?…オススメのパスタ屋も知って…』
『あなたとは行きたくない…』
『はぁ?…なんだよそれ…映画の感想が違う事に腹を立ててるのか?…』
『そうじゃない…』
『じゃあなんだよ…その態度は失礼じゃない?…』
『あなたには言われたくない…』
『僕が何をしたって言うんだよ?…』
僕の言葉を無視して、香織は家に帰った
この日の喧嘩は、映画の感想に僕が共感できず、香織がその事で拗ねたのが原因だろう
ただ、映画の感想なんて千差万別なのが当たり前だし、香織と僕の意見が違ったからと言ってここまで怒る事だろうか?…
香織はその辺が”まだ子供だ”と僕は感じる
感想を言い合う事で、意見のすれ違いが起きるのは仕方ない事じゃないか

他の喧嘩も確認しようと、僕はリモコンを操作する
『私が頑張って描いた絵あんまり伸びてない…』
ションボリと呟く香織に、僕は言った
『最近SNSに上げてたやつか』
『そう…結構頑張ったんだけどなー…』
『多分題材が悪いのかもねー』
『題材?』
『そう…香織は好きな絵ばっかり描いてるから、それが世間と合ってないんだと思う、もうちょっと流行りを意識して描いてみたら伸びると思うよ』
『そうかな…』
『このエリクサーって人の絵とか結構バズってるし、こう言う感じの流行りに乗ってみたら?』
『こういう感じって言われても、ジャンル全く違うし…』
『そう、だからジャンルを変えれば流行ると思うんだよ香織の絵も!僕も近々ライトな曲調からダークな方向に行こうかなって考えてるし、香織もコレを機にジャンル変えてみたら?』
僕の提案に香織は黙り込む、香織は怒ると黙る癖がある
人気な絵描きになれるように、真剣にアドバイスをしているのに、香織はやりたいジャンルじゃないからって理由で拗ねているのだ
やっぱり香織は子供っぽい…
別れ話をした時だって『もう嫌なの』とか言って、まともな説明もしてくれなかったし…
僕が画面を見つめながら、別れる事になった理由を探っていると、後ろに立っていたバイミーが突然喋り始める
「なんだかとても子供っぽいですね?…」
バイミーの言葉に頷きながら、僕は思ってる事を口にする
「そうなんですよ…真剣にアドバイスをしても全然聞く耳を持たなくて…」
「いえ、そっちではなく…」
「?…そっちじゃない?…」
「いえ…なんでもありません…」
よく分からない事を言うバイミーを無視して、僕は過去の映像を見ながら原因を探った―――



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