可能性のバイミー

360回転

それでも炎上商法を選択するのですか?

バイミーから細かい説明を聞いた僕は、過去改変のメリットやデメリットを把握した
これは使い方次第ではとんでもない恩恵を受けられるかもしれない…

カチッ…

僕はリモコンを使い、モニターに映る人生からターニングポイントを探っていた
正直言って僕の人生は完璧だ…
改変するポイントなんてほとんど無いと言って良いだろう…
小中高のテストでは毎回高い得点を取る事が出来たし、大学に関して言えば偏差値が一番高いと言われている有名な場所に入る事も出来た…
世間から評判の良い大手の会社に入社し、同年代達のブラック労働話をつまみにしながらホワイトな生活を送っている…
完璧な人生を更に完璧にする為に、僕はアーティストのような活動もしていた
自身の作ったオリジナル曲を動画サイトにアップロードして有名になろうと言う作戦だ…
動画の伸びはそこそこで歴から考えれば伸びてる方だと思う、続けていればいつかは爆発的に伸びるに違いない…
僕自身が作った曲を良いモノだと認識出来ているのだから、何かきっかけさえあれば世間から認められるはずだ…

…………………

やはり僕の人生は完璧じゃないか…もし完璧じゃない点があるとしたらそれは、恋人に振られた事ぐらいだろうか?…
何故振られてしまったのか?…正直分からない…
彼女はマイナス思考な人間で、僕との関係にもマイナスな感情を抱えていたのかもしれない…
僕を振った女…田代香織たしろかおりは音楽が好きだった…
彼女と知り合ったのは、僕の作ったオリジナル曲を香織が褒めてくれた事が始まりだ…
知り合った当初、僕は音楽を投稿する事に慣れていなかった…
再生数も二桁で止まりコメントも全く付かない…そんな時に、僕の曲を絶賛してくれたのが香織だった…
僕の動画も少しずつだけど伸びていて、今では再生数4桁を確保できるぐらいの知名度にはなっている…
しかし、そこまでだ…僕の知名度はそこから全く上がっていない…香織もそんな僕に失望したのかもしれない…
彼女は僕と別れ、有名な作曲家”ミキオ”と付き合う事になった…
ミキオは僕より音楽歴の浅い作曲家だが、知名度は僕より遥に高い…
学生時代…野球少年だった彼は高校を卒業し専門学校に入学、社会に出てからは専門学校とは全く関係のないホストクラブで働き始めたと言う、よく分からない経歴の人物だ…
彼はホスト界隈で凄く有名で、若くしてかなりの額を稼いでいるらしい
ホストクラブで働きながら曲を作っていた彼は”二つの穴”と言う曲をきっかけに人気になり、今ではカラオケのランキングに乗るようなアーティストになっている
彼の曲は少しだけダークな雰囲気があり、歌詞が物凄くメンヘラな感じで僕はあまり好きではない
しかし、曲自体はしっかりしているモノも多く、僕の曲には劣るが完成度も高い
世間から評価されるのは当然…と言って良いレベルのモノをミキオは作っている…そして、それは僕の曲も同じだ…
僕の曲は聞く人が聞いたら、絶対に良いモノだって分かってもらえるような工夫が様々な所に散りばめられている
それなのにミキオと僕には物凄い差が生まれている…もしかしたら方向性が悪いのかもしれないと思い、最近はミキオに倣って、メンヘラ風な歌詞で曲作りもしている
『超えられない壁はない~』と言うような熱血な歌詞を書いていた過去の僕とは正反対に『超えられなくても大丈夫~君の才能はそこにはないから~』と言うような、寄り添う系の歌詞にシフトチェンジしているのだ
一貫性の無さが伸びの悪さの原因なら、それを取り除く必要もあるだろう…

……………

僕は改変ポイントを決めると、目の前に居る改変女…バイミーにそれを伝えた
「改変ポイントは僕が25歳の時の6月1日でお願いします、この日の僕に干渉してメンヘラ路線の曲を作らないように誘導してほしいです…」
「メンヘラ路線ですか…この改変はあなたの作った曲が消える事を意味しますが…それでもよろしいのですか?…」
彼女の問いかけに、僕は無言で頷いた……
メンヘラ路線に変えたのは人気なジャンルだと判断したからであって、作った曲自体にそこまでの愛着はない
メンヘラ路線で人気が出ていないのだから、そこは切り捨てて初期の熱血路線で突き進んだ方がまだ伸びる可能性はあるかもしれない
完璧な僕の事だ…メンヘラ路線に費やした時間を有効活用して素晴らしい曲を作ってくれるだろう…
「先程も説明した通り…人の意志を変えるのは容易ではありません…この干渉だと無駄に終わる可能性もありますが、それでもよろしいのですか?」
改変女の最終確認に、僕は無言で頷く…
説明を聞いた限りだと、過去改変の影響度合いは人によって全く異なるらしい…
簡単に流されてしまう人間なら、彼女の作ったきっかけ一つで、その後の人生を大きく変えることも出来るが、意志が固い者…つまり僕のような人間には干渉をおこなって軌道を逸らそうとしても、すぐに元の軌道に戻る可能性が高い…それでも、やってみる価値はあるだろう…
「それでは過去への干渉を行います…しばらくの間じっとしていてください…」
穏やかな口調でそう告げた改変女は、持っていた鎌を床に強く打ち付け、ヘンテコな言葉を口にする

「ほんにゃらほにゃほにゃほにゃにゃにゃにゃ」

ガン!

「ほんにゃらほにゃほにゃほにゃにゃにゃにゃ」

ガン!ガン!

演舞のように洗練された動きで、大きな鎌を左右に振ると、僕の足元が白く光り始めた――
シリアスな空気とは対照的に彼女の唱える言葉は何処か幼稚で、おままごとにでも付き合わされているような気分になってくる…
見ているこちら側がむず痒くなってくるその光景を遮るように、瞼を閉じて思考する…
メンヘラ路線に進まない僕はどんな曲を作るのだろうか?…世間は僕の作った曲を認めてくれるだろうか?…香織が『よりを戻そう』と言ってきてるかもしれない…
香織と別れたのはメンヘラ路線に移行した後だから、別れていない可能性もある…
ソーシャルゲームのガチャを回しているような気分だなと、そんな事を考えていると、足元の光が姿を消した…
ゆっくりと目を開けた僕に、改変女…バイミーが話かけてくる
「過去への干渉は終わりました、あなたの過去は書き換わり、最善の未来を引き寄せました」
「最善の未来…」
僕の呟きに頷くと、バイミーは丁寧に説明を始めた
「あなたの過去…6月1日に干渉を行い、メンヘラ路線の曲を作らないように誘導しました…しかし、あなたは3か月後に再びメンヘラ曲を書き始めます…」
バイミーの説明を聞き、やっぱりそうかと僕は思った
僕の性格は他ならぬ僕自身が理解している…
どれだけ過去の僕を誘導しようとも、流行っているジャンルを見逃すと言う選択は取らないのだろう…
つまり、僕が僕である限り、僕の人生を変える事は難しいと言う事だ…
「あなたは寿命を1年使いました…しかし、得られたモノはなにもありません…どうされますか?…続けるのであれば力をお貸ししますが…」
バイミーの問いかけに、僕は目を閉じ言った
「ちょっとだけ考えさせてほしいです…」

………………

この力を上手く使う事が出来たら、僕は有名な作曲家になれるかもしれない…
有名な作曲家になれるのなら、老後の寿命が少し減るぐらいは許容しても良いだろう…
”有名なアーティストが早くに亡くなるのは悪魔と契約を交わしたから”なんて話をどこかで聞いた事がある…
あの話は真実だったのかもしれない…と僕はそんな事を思った…

しかし、なにを改変したら良いのだろうか…改変する事で劇的に知名度が上がりそうな方法……
しばらく考えていると、とある考えが僕の頭に浮かんできた…

―――”炎上商法”―――

この方法を使えば一気に知名度を上げる事が出来るだろう…
ただ、これは諸刃の剣だ…使い方を間違えれば、僕のエリート人生に大きな汚点として残り続ける…
しかし、今のこの状況を考えるとそれはありかもしれない…
もし悪い未来に繋がっていたとしても、過去改変を行えば、それも無かった事にできる
賛否両論になるようなグレーゾーンを狙う事が出来たのなら、アンチと擁護派の争いによって僕の知名度は自動的に上がっていくだろう
しかし、炎上内容はとても重要だ…
これを間違えると、這い上がる事すらままならない…そんな状況に追い込まれかねない…
僕は炎上商法について考えを巡らせる…

……………………

今ここで考えても仕方がない気がする…ここで考えた案を過去の僕に直接伝えられる訳ではないからだ
炎上の仕方については、過去の僕に一任するしかない
完璧な僕の事だ、自分の頭で考えて、良い塩梅の炎上を導き出す事ぐらい出来るだろう
僕は改変するポイントを伝える為に口を開く
「改変ポイントを思いつきました」
「続けるのですね、何処でしょうか?」
首を傾げるバイミーに僕は告げる
「メンヘラ路線に走る前…3月頃にしよう…炎上商法を行うように干渉して欲しいです…」
「3月ですか…それでは3月1日に干渉して、炎上商法に興味を持ってもらうように働きかける…そんな感じで大丈夫でしょうか?…」
「それでお願いします」
「炎上商法にはそれなりのリスクがあります…今後のあなたの人生に悪い影響を及ぼすかもしれません、それでも炎上商法を選択するのですか?…」
「心配する必要はないです…僕なら完璧にグレーな炎上をするはずですから…」
「分かりました…それでは3月1日のあなたに干渉を行います」
バイミーが再び呪文を唱えると、僕の足元が光り出す…
これからの明るい未来を祝福するような、そんな光だった―――



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