可能性のバイミー

360回転

これはあなたの人生なんですよ?

暗い空間で呪文を唱えるバイミーさんを見ながら、私は考えていた…
バイミーさんは何故こんな仕事をしているのだろう?
お金とかは支給されているのだろうか?
雇い主は居るのだろうか?
遠くの世界から来たと言っていたけど、それは何処にあるのだろう…考え始めると止まらなくなってしまう…
そんな事を考えて過ごしていると、ふいに地面の光が消え、バイミーさんはお決まりの台詞を言った
「過去への干渉は終わりました、あなたの未来は書き換わり、最善の未来を引き寄せました」
「私と拓海はどうなった?…」
私が尋ねると、バイミーさんは説明するように喋り始める
「あなたの考えたように、拓海さんとは27歳で別れました…そして28歳であなたに近づいて来たバンドマン…陽太ようたさんとは付き合っていません…あなたは失恋の痛みが癒えなかったのか、しばらくの間、男に近づく事はしませんでした…29歳になった時にマッチングアプリで知り合った男性と付き合う事になりましたが、32歳のあなたは彼が未だに他の人とマッチングを続けている事を知り、嫌がらせで彼にメッセージを送り付けました…その結果33歳の現在は険悪な状態が続いており、今は破局寸前のようです…」
「売れっ子バンドマンを逃して、変な男に引っかかった訳?…私って本当…」
自身の愚かさに呆れていると、バイミーさんは私の肩を叩きながら言った
「こう言う事もありますよ…残りの回数は31回です…」
私は彼女の励ましを聞いて言った
「それじゃあ次は…バンドマンの彼と付き合う為の作戦を考えましょうか…傷心中の私が、彼に興味を持つきっかけを作れないかな?」
「きっかけですか…傷心中のあなたにきっかけを作っても無駄に終わる可能性がありますよ」
「なにか良い案とかない?」
「そうですね…なにかあれば良いのですが…」
「バイミーさんも真剣にアイディア出してよ…私の人生がかかってるんだよ?…」
「なんで急に怒られてるんですか…これはあなたの人生なんですよ?…」
「私の人生だとしても、それを変える手伝いをするのが、バイミーさんのお仕事なんでしょ?…だったら今までのノウハウを使って、私を助けてくれても良いんじゃない?…」
「そ、それはそうですが…少し待ってください…今、良い方法を考えてみますから…」
考え込んだバイミーさんを見つめる…
改めて見ると、本当に綺麗だなと感心する…
バイミーさんは恋をした事はあるのだろうか?
私は興味本位で口を開く
「バイミーさん」
「なんでしょうか?…」
考え事を邪魔するなと言いたげな彼女の声音を聞き、私は耳元で囁く
「あなた恋をした事はある?」
「ど、どうしたのですか急に?…」
彼女の初心うぶな反応を見て、私は意地の悪い声で言った
「可愛い反応…バイミーさん…あなた、まだまだ子供なのね…」
「私の話はどうでも良いでしょう…それよりも、あなたの人生の話をしましょう…あなたは傷心中で、バンドマンの男性と仲良くなる事が出来なかった…」
「…そうね」
「であれば、拓海さんと付き合わないように誘導するのは如何でしょうか?…」
「拓海と付き合わないように…」
「はい、あなたが拓海さんに告白された日に干渉して、告白を断るように誘導したら、あなたと彼は付き合わず、傷心していないあなたは売れっ子バンドマンと付き合う事になるかもしれません…」
「なるほどね…確かに拓海って諦めは良い方だと思うし…私も拓海とはお試し気分で付き合い始めたから…私と彼が付き合う可能性は低くなるかも…」
「おそらく付き合わない未来になると思います…ただ…同じ日に2回干渉を行う事は出来ませんから…告白を断ってしまうと、あなたと拓海さんの未来は失われて戻ってこないと思います…」
「同じ日に干渉出来なくても、次の日に干渉できるんじゃない?…次の日の私に『びっくりして振ってしまったけど、やっぱり付き合いたい』とか言わせたら、再び結ばれる可能性もあるんじゃないの?……」
「どうでしょうか…私が告白を断るように強く働きかけて、次の日にそれを覆す選択が取れるのかは分かりません…」
「あなたさっき持続性はないって言ってなかった?」
「持続性はないのですが、持続する可能性はあるのです…」
「それじゃあ分からないって事でしょ?…あなたの憶測で混乱を招くような事を言わないで…」
「すみません…私は私の経験上から話をしています…もちろん万人に当てはまる事ではないのは承知しています…どちらにせよ、決めるのはあなたです…拓海さんに未練がないのであれば、彼との未来が失われても別に問題はないでしょう…」
私は拓海と縁が切れてしまっても問題ないかを考える…
彼は本当に良い男だ…それこそ"ダイヤのように"の件がなければ、私は今でも彼と付き合っていたと、そう感じる程には…
今ならまだ、彼との関係を繋ぎ止める方法はある…
彼に別れを切り出す前の私に干渉して、振らないように働きかけると言う方法が…
しかし、バイミーさんの話では、干渉後にその気持ちが何処まで続くかは、分からないと言う話だった…私が拓海と別れない選択をしても、小説の件を思い出し、再び破局に向かう事は避けられないだろう…
バイミーさんの力を使い小説見せないと言う方向に誘導していたのなら、私と彼の未来はまた違っていたのだろうが…
私は、とある事を思いつき、バイミーさんに話しかける
「バイミーさん、拓海に小説を読ませない為に、私が"ダイヤのように"を書かない人生に誘導すると言うのはどう思う?」
「そうですね…あなたが小説を書かないように誘導する事は可能でしょう…ただ、作りたいと言う思いは私の経験上、再燃する可能性が高いです…私の経験上です!…ただ、一度作品で消化されたモノを再び作る可能性は低いです…なので、何処かのタイミングで書いた作品を完全に削除して、2度と読めないように誘導するのが啓明かもしれません…」
「なるほど…小説を見せる前に小説を削除するって手もあるか…」
"ダイヤのように"を完全削除したら、私と拓海の関係が拗れる事はおそらくないだろう…
しかし、今の私は拓海の感想を覚えている…
私は拓海との関係が終わっている事を悟ると、バイミーさんに言った
「拓海の事はもう大丈夫…私は拓海と別れて売れっ子バンドマンと新しい人生を歩むわ…拓海が告白してくる日に干渉して、私の未来を変えて!」
私の台詞を聞いたバイミーさんは、首を傾げながら言った
「"ダイヤのように"は削除しなくても良いのですか?…この小説が存在する限り…あなたが爆弾を持っている状態は変わらないですよ…もし、売れっ子バンドマンと上手くいっても、その爆弾が爆発する可能性はあります…」
「その時は、小説を削除するのも視野に入れるわ…私がバンドマンに小説を見せて感想を貰っていたとしても、今の私はその記憶を知らない、知らないのなら、それはないモノと同じよ…」
私の台詞に、バイミーさんは少しだけ考えるような仕草をしてから言った
「…それでは、あなたの望み通りに、拓海さんが告白をしてくる25歳のあなたに干渉を行います…」
バイミーさんがお決まりの呪文を唱える始める…
光に包まれた私は、売れっ子バンドマンと結ばれ、幸せになる未来を想像していた…

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