受験生は視線そらさない

清水レモン

日曜日の午前10時46分

授業再開の時刻になっていた。
僕は席に座る、さっきと同じところに。
チラリと視線を向けると、遠くに座っていた彼女たちの姿がない。

『あれ? 帰ったのか』
と考えた次の瞬間、ぞわっと気配を感じた。
背中のあたりに、ぞわぞわぞわっとした気配。

『なにか。まさか』
と、ゆっくり振り返ってみる。

すぐ後ろの席に、さっきの彼女と、もうひとりの女の子。
つまり、遠くの席に陣取っていた二人の女の子が、すぐ後ろに座っていた。

『いつのまに。移動した? そんな気配まったくしなかったけど』
声は聞こえない。
まったく、ひそひそ話の波動もない。
けど、あきらかに波打っている。なにかがザザザーって寄せては返して周波数。

『なんだろう、この乱気流。そもそも、どういうことで、こうなってるんだ』
と僕は疑問を脳内で処理し始めたが、授業が始まったので意識を授業に集中した。

どれくらいの時間が経過しただろうか。

ふと、時計を見たくなった。いま何時何分なのか無性に確認したくなって、ペンケースのジッパーをあける、じぃぃぃぃ。じぃっ。音が出ないように注意しながら。
なかから懐中時計が顔を出し、まだあれから30分も経過していない事実が判明する。
『時計、遅れてるとか? まさかね』と脳内ひとりごとをしたとき。

「やわ」

「えっ」

「ちっ」

と断片的なこ声が耳に届いた。

『え? なに、なんか言った!? っていうか、おしゃべりすんなよ』
と僕は思ったのだが、他には聞こえなかったし、ふたたび静寂が訪れる。
先生の声と黒板チョークでカリカリ削られ刻みつけられていく音が響き渡る。
僕はノートに写していくが、まったく頭にはいらない。

声は本当に聞こえなかった、たしかに彼女の声は聞こえていないのに、まるで彼女がクスクスクスっフフフふふって笑っているような躍動感だけが背中越しに感じられる。

『ふたりで、なにかをヒソヒソ話しているのか、それとも』

意味もなく、僕は顔が熱くなる。

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