悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~

あおき りゅうま

第74話 反省したミハエル

 ミハエルがバツが悪そうな様子で生徒会室に入って来る。

「ミハエル……どうして君が?」

 アリシアが両腕を体の前で組み、警戒心をあらわにした表情で彼を見つめる。その視線にミハエルは一瞬反応したものの、彼は俺へ視線をやり、

「シリウス……ちょっと話せるか? その、二人だけで」
「あ、ああ……」

 何だか、以前までと様子が違う。
 傲慢で人を舐めきったような表情を浮かべていたのに、今はつきものが取れたような目で俺を見つめていた。

 ◆

 アリシアとロザリオを生徒会室に残し、俺とミハエルは廊下に出る。

「ミハエル王子、婚約を破棄されたと聞きましたが?」
「あ、あぁ……あれからよく考えたんだ。あのモンスターハント大会に君に殴られてから、ずっと考えていた……」

 人通りのない廊下。ミハエルは窓枠に肘を置き、遠くを見つめ思いにふける。

「僕は父上母上の命令に従って生きてきた。父上の命令通りにアリシアと結婚し、ガルデニアと同盟を結ぶために、それが僕の幸せだと自分に言い聞かせて生きてきた。だけど、果たしてそれが本当に僕の幸せなのかどうか、父上の言葉通りに生きていくことが本当に僕に幸せをもたらしてくれるのか。君に言われて考えてみた」
「……それで?」

 俺に言われた、とは何のことか具体的によく思い出せない。確かに彼はおぼっちゃまで人の敷いたレールの上でしか生きていないのでそれで本当にいいのか、よく考えてみろ的なことは言った。だが、なんだかんだでミハエルの心に届くことはなく、彼は恨みを募らせて国に変えるとばかり思っていた。

「違うと思う……」

 ミハエルは首を横に振った。

「僕は、自分で何か物事を決めたことがなかった。全部父上の命令の上で生きてきた。だけど、どこかモヤモヤしていた。幸せであるはずなのに、全然心が満たされなかった。だから、試しに逆らってみた。アリシアとの婚約を解消し、国に戻れという父上の命令に逆らってみた……」

 そういうことか、だから彼は今、ここにいるというのか。
 ちょっと、成長した彼の様子に若干の感動がこみ上げてきた。

「それで、あなたの父上はたいそうお怒りでしょう?」
「ああ、激怒しているそうだ。父上……はね」
「?」

 彼は「父上」という言葉だけを強調して言った。その言い方にどこか含むところを感じて俺は片方の眉を上げた。
 ミハエルは苦笑し、

「母上と姉上は、父上とは逆にたいそうお喜びになったそうだ。僕が僕自身の意思でついに道を選んだ、と。ようやく自分の人生を選んで歩き始めたと。父上以外の家族は皆、僕に自由になって欲しかったそうだ……それで、僕は今までの自分が間違っていたことに気が付いた。アリシアにも悪いことをした……」

 本当に反省しているように彼は顔を伏せた。

「では、謝ってくると良い……アリシアは扉一つ隔てた先にいますよ」

 顎でクイっと生徒会室を指し示す。

「そ、それができたら苦労はしない……何度も彼女に謝りに行こうとした! だけど、何故だか怖いんだ……勇気が出ないんだ……それに、まだ僕の中で気持ちの整理がついていない。僕はアリシアのことが嫌いじゃない。いや、やっぱりまだ好きなんだ。だから、謝るのはその気持ちの整理がついてから、勇気が出てから謝りたいんだ」
「そうですか……」

 勇気が出る出ないよりも、ただ単純にまだプライドが邪魔しているだけなのだと思うが……まぁ、彼にしてはかなり成長している。以前だったら謝ろうともしなかっただろう。
 時間はかかるだろうが、良い方向に向かっているようだ。

「話はそれで終わりですか? まぁ、何はともあれ、あなたがアリシアへの妄執を捨ててくれてよかった。今後もこの学園で友好的な生徒として在籍し続けるのなら、生徒会長として全力でサポートさせていただきます。それではミハエル王子、何かがあればこの生徒会室へ。その時は私が直々に力を貸しましょう」

 良かったよかったと礼をして、生徒会室に戻ろうとする。

「待て、シリウス! いや、待ってくれ……」

 その俺をミハエルは懇願するように引き留める。

「———何ですかな? まだ話でも?」
「ああ……! その、こんなことを言うのは、初めてでなんと言ったらいいかわからないんだが……」

 もじもじと照れたように彼は体を動かし、口を開いては閉じる。何か慎重に言葉を選び、あぁでもない、こうでもない、と適切な言葉を探している様子だ。

「何ですか? 私としてもそこまで暇な人間ではないのですが」

 まだ、書類仕事が残っている。話が終わったのならとっとと解放して欲しいのだが……。

「あぁ、もう君に頼みがあるんだよ! シリウス!」
「何だ?」
「僕を生徒会に入れてくれ!」

 顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに大声でそう言った。
 ———なんだその言い方、告白か?

「…………何だと?」

 少し、引いた。

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