悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~

あおき りゅうま

第73話 ロザリオ、生徒会に入る。

「貴様……ここで何をしている?」 

 先日コテンパンにしてやったばかりの少年が、俺を待ち構えていた。
 改心したと思っていたが、まさかもう復讐に来たのか? 確かにいじめられっ子だったロザリオがシリウスに抱く恨みというモノは相当のものだったが……。

「何をしてるって、仕事をしてるんですよ。生徒会の書類仕事を」
「何?」

 ロザリオは棚から書類を取り出し、背表紙と中身を確認しながら戻していく。

「メチャクチャですね。全然まとまっていないじゃないですか。これじゃあ几帳面な人間は発狂してしまいますよ?」

 苦笑しながら整理していくロザリオ。

「待て。どうして貴様がそんなことをしている? 生徒会役員でもあるまいに」
「ですね。びっくりしました。前までいた役員の人が一人もいなくなって今は会長と妹のルーナだけになってるんですから。前までいた腰ぎんちゃく共は皆クビにしたんですって? 聞きましたよ」
「あ、あぁ……」

 爽やかに言うロザリオだが、言葉遣いの端々に弱いいじめられっ子だった片りんを見せている。

「……奴らは媚びを売るのみで、あまり使えなかったからな。それなら我ら兄妹だけで生徒会を運営した方がはるかに効率がいい」

 クビにする前までは生徒会役員の数が無駄に多かった。主な役職の他に庶務という雑務を担当する役員だけで五十人はいて、明らかに不必要だった。恐らくそんなに増やした要因として考えられるのが、シリウスがわかりやすく自分の忠実なしもべに印をつけたかったからだろう。オセロット家が管理するテトラ領にこの学園はあり、この学園に通うほとんどの貴族が、絶大な権力を持つオセロット家に首を垂れている。その中でも一層忠実に従う生徒を生徒会庶務として生徒会役員に迎え入れ、わかりやすい自分の私兵にしていた。よくよく思い出してみると、ゲーム本編でシリウスが登場するシーンの後ろで何人ものモブ生徒が整列しているシーンがよくあった。ああいう感じでシリウスの権威を示すような場面で、必要な人員をシリウスは確保していたのだろう。

「奴らはオレの目の届かないところでサボってばかりで、ろくに仕事もしない。そのくせオレの名前を出して権力を振りかざして好き勝手にする。それではオレの威厳まで地に落ちる。デメリットしかない。だからクビにした」
「ですが、そのせいで資料のまとめだったり、予算の配分だったり、細かな業務が滞っているんじゃないですか?」
「確かにそうだが……」

 大会や決闘の会場設営のような肉体労働は古代兵ゴーレムを使うことで何とかできていたが、頭脳労働というとそうはいかない。俺は関係各所へ打ち合わせで忙しく、ルーナは古代兵ゴーレムを操作するので忙しい。二人でも時間をかけて何とかしようと思っていたが、有能な人員がいればと内心思っていた。

「俺がやりますよ」
「貴様が? どうして?」

 ロザリオは首を傾げる。

「いや、それこそどうして疑問に思うんですか? 会長が言っていたじゃないですか。俺を奴隷にするって。決闘に負けたんですから、甘んじて受け入れますよ」
「あ……あぁ~……」
「……忘れてたんですか?」

 忘れてた。
 昨日の決闘では魔剣を破壊することにだけ頭を使っていて、ロザリオを倒した後同行というのは全く考えていなかった。それでも勝ってしまったものだから、何とか決闘の体裁を取り繕うためにあの場で考えついたものだった。

「これから俺はシリウス会長の奴隷として、馬車馬のように働きますよ。それで見極めさせてください。あなたが本当はどんな人間なのかを」
「そうか……まぁ、助かる」

 ロザリオはこの世界の主人公なのだから、無能ということはない。自分に自信を持てたら本来スペックが高い人間であるのだ。

「ん? 見極める?」

 聞き逃しそうになったが、彼は不穏なことを言っていたような気がする……。

「ええ、近くで見させていただきますよ。会長が本当はいい人なのか悪人なのか。この間の決闘で負けてから、ずっと気になってたんですよ。人間を軽んじて虐め抜く悪だと思っていたら、全然違う側面もある———そんなあなたのことが、ね」

 微笑みながらそう言うロザリオだが……、

「貴様、気持ち悪いぞロザリオ。男が男に〝気になる〟なんて言葉を使うな。そっち方面の人間ではないかと勘繰られるぞ」
「そっちってどっち方面です?」

 笑顔のまま尋ねるロザリオ、これは絶対にわかっていて聞いてきている。
 尚更気持ち悪い。
 こいつ、まだ魔剣に支配されていた後遺症が残っているんじゃないか。

「……師匠。方面ってなんだ?」

 隣のアリシアが小さく耳打ちする。
 あぁ、もう面倒くさくなってきた。

「黙れ。もう無駄口はいい。仕事があるのだ。ロザリオ、貴様には本当に言葉通り奴隷のように働いてもらうぞ? 覚悟はいいな?」
「———喜んで」

 優雅に一礼をして、ロザリオは書類の整理を始めた。
 俺も報告書作成のために生徒会長の椅子である窓際に設置されている豪華な装飾のされた椅子に座る。
 その様子をアリシアがフフと笑みを浮かべて眺め、空いている席に座りくつろぎ始めた。せめてここにいるのなら仕事をして欲しいものだが……。
 そうだ———ロザリオはもう生徒会に入ったものだし、アリシアも入れてしまおうか……。  
 そう、これからのことを考え始めていると、

 コンコンコン……。

 生徒会室の扉がノックされる。

「入れ」

 客人とは珍しいと思いながら、招き入れる。
 扉は恐る恐る開かれ、中に入ってきたのは意外な男子生徒だった。

「———  これはこれは……ミハエル王子」

 プロテスルカの王子、ミハエル・エム・リスタ・ブラックフェザーが気まずそうな表情を浮かべて立っていた。

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