悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~

あおき りゅうま

第67話 ———我を殺してみろ


「あああああああああああああああああ  魔王の力がああああああああああああ 」

 魔剣は破壊された———俺の力ととアリシアの創王気そうおうきの力で———。

「……あぁ、あぁ……ああああああああああ 」

 魔剣の欠片を情けなく拾い集めるロザリオを見下ろし、何とか彼を解放できたと心の中で一息つく。

「———そのようなくだらん力にこだわっていないで、前を見ろ」

 ロザリオに声をかける。すると彼は涙を流している情けない顔を上げた。

「貴様は自分で強くなろうとした。それは良い。今いる環境を変えようとした。それも良い。だが———貴様は最後の最後で力に頼った。魔剣という自分以外の力に依存し、正義という対面のいい理由を張り付けて、自分の仕返しを正当化した。そんなことではオレには勝てん。来るのなら何の言い訳もせずに正面から挑んで来い。オレはいつでも相手をしてやる———今からでもな」
「今から……でも……?」

 俺はリング外にいる古代兵ゴーレムを手で制した。
 今にもゴングを鳴らそうとしていたその古代兵ゴーレムを。
 ロザリオの魔剣は破壊された。決闘のルール上、武器を破壊されたこの時点でロザリオは敗北という結果になり、古代兵ゴーレムが試合終了を宣言しようとしていたのだ。
 だが———まだ、終われない。まだ———終わらせることはできない。

「アリシア、剣を借りるぞ」
「え?」

 全てが終わったと気を抜いて立ち尽くしているアリシアの手から鉄の剣を取り上げる。

「おい……何の、」
「ここからはお互いに小細工なしの勝負だ。これまでの協力感謝をするぞ。我が弟子———アリシア・フォン・ドナ・スターダストよ」

 ポンと彼女の肩にねぎらいの意味で手を置くと、アリシアは顔を赤くした。

「で、弟子と初めて認めてくれたな……」
「ああ、最初で最後だ」
「え?」
「すまないが、リングから降りてもらおう……オレは気が変わった。ロザリオと一対一で勝負をしたくなったのだ」
「……おい、何か隠し事してないか? 最初で最後ってどういう意味だよ? 師匠……やっぱり剣を……!」
「———分身7号!」

 何か感づいた様子のアリシアがすがるように俺の服の袖を掴んできたが、ルーナに声をかけてリング外にいた古代兵ゴーレムを呼び出し、アリシアを連れ出すように指示する。

「おい  師匠……おい 」

 何か言いたげなアリシアを、シリウスの顔を晒した古代兵ゴーレムが両脇をがしりと掴み、そのままリングの外へと連行していく。

「———さぁ、ロザリオ。まだ勝負は終わっていないぞ」
「…………」

 ロザリオは四つん這いの状態でがっくりと首を垂れてうなだれている。

「おい、いつまで休んでいる? 魔剣が破壊されたところで何だと言うのだ? まだ貴様の腰には、剣があるだろう。なんの変哲もない何処にでもある、この学園で支給された———ただの剣が。貴様らしい何処にでもある平凡な剣が」

 ピクリと彼の頭が動き、自分の腰に目をやる。
 ロザリオは、先日のモンスターハント大会と同じように腰に魔剣と普通の剣を帯剣していた。決闘に関するルールはあいまいで、複数の武器を使ってはいけないというルールはない。だが、彼としては使うつもりはなかったのだろう。

「こんなもので……僕がシリウス・オセロットに勝てるわけが……」

 だが、彼としてはいつもの癖で持ってきていただけで、使うつもりはなかったのだろう。あくまで魔剣で俺を殺すつもりで、忘れていたかのように、その柄に手を触れた。

「やってみなければわからんだろう! いつまで弱いままでいるつもりだ! オレを殺すために強くなったのなら! それを証明して見せろ!」

「————ッ!」

 その言葉にカチンときたのか、ロザリオはまだ握り締めていた、折れた魔剣の柄を投げ捨て……俺に向かって駆け出した。

「うわあああああああああああああああああああああっっっ 」

 そして、鉄の剣を抜いて、力を込めて斬りかかって来るのを———、

「フッ……それでいい」

 俺はアリシアの剣で受け止めた。

「偉そうにっっ  お前は一体何様なんだ  シリウス・オセロット!」

 悔し涙を浮かべながら、ロザリオは俺に向かって剣を打ち込んでくる。
 それを俺は受け止める。 

「フ……ッ、生徒会長様に決まっているだろう?」

 ロザリオの剣筋は鋭い。怒りの感情に任せて滅茶苦茶に振っているつもりなのだろうが、やはり元々の才能、そして、一週間とはいえ『スコルポス』で鍛えられた結果が花を咲かせている。
 俺はただ、ロザリオの攻撃をガードすることしかできない。

「僕は……お前を殺すために! 今までの自分を変えるために強くなったんだ! 何もできずに奪われるだけだった僕を変えて! 今まで僕を虐めていた奴から全てを奪う俺に変わったんだ! もう、誰にも俺から何かを奪わせない 」
「なら、堂々としていろ。貴様が本当に強くなったのなら、誰も貴様から何かを奪おうとは思わない。恐れるな。奪われるのではないかと恐れるから、人を簡単に傷つけるのだ」
「———ッ」

 ピタリとロザリオの剣が止まった。

「……恐れない……ですか?」

 ハッとした表情で俺をロザリオは見つめている。

「ああ、結局お前は自分のために強くなった。そのことをオレは否定はしない。だが貴様自身がそのことを〝正義〟のため〝人のため〟と対面を取り繕って覆い隠した。貴様が臆病で弱虫だからだ。自分が弱くて人から認めてもらえない人間だと思い込んでいるからだ———貴様に必要なのは〝勇気〟だ。正義などではなく、弱い自分を認めて、強い相手に立ち向かっていく勇気。それさえあれば、例え今は奪われる弱者であろうとも、いずれは皆から認められる勇者になろう」

 この言葉は……実は自分に向けて言っていた。
 あの時ああすればよかった。
 ここに来る前の人生で、何度もそう思ったことがある。夢だったり恋だったり、俺自身勇気がなくて諦めたことがたくさんあるのだ。

 だから、うじうじしているロザリオを見ると腹が立った。

 ちょっとの勇気を振り絞れば、主人公は何でも手に入るのに、できないと思い込んで何もしようとしない。
 その姿はただ、与えられるのを待っている巣の中の雛に見えた。
 そんなことだから、与えられた魔剣に依存してしまったのだ。
 それじゃあ———やっぱりダメなのだ。

「勇……者……」

 茫然とロザリオは呟いた。

「ああ、物語の主人公は常に〝正義の味方〟などではなく———〝勇者〟だろう?」
「…………ッ!」
「そして、勇者は慕われ、いずれ王になる。この国を作った王も、元々は勇者だったはずだ———貴様にはその力があるだろう?」

 俺がロザリオの剣を指さすと、ポウッと青いオーラが剣を纏う。
 彼の創王気そうおうきが発動したのだ。

「これは……?」
「その創王気そうおうきこそが勇者の力だ。それで貴様はこの世界を救うことができる。よこしまな力などに頼らずに、自分自身の力でなんとかしてみせろ」
「—————ッ!」

 ロザリオが目を見開いて俺を見る。
 わかって、くれたようだ。
 俺は微笑み、両手を広げる。

「———さぁ」

 ここまでで、俺の役割は———終わりだ。

「———オレを殺してみろ」

 このまま、創王気そうおうきの力で胸を貫かれ、俺は死ぬ……そして、俺の死をトリガーにロザリオは———創王気そうおうきを真の力に覚醒させる。

 そのイベントのために———この無防備な胸を貫けと、彼を見た。

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