悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~

あおき りゅうま

第63話 試合開始ッ!

「おい……あれって……」
「いいのかよ……?」
「いやぁ……どう考えても、ダメだろ……」

 アリシアがリングに上がってから、観客のざわめきが止まない。その視線をアリシアは困ったような表情で受けているが、隣の俺は不敵な笑みを浮かべたまま、胸を張っている。
 ここで、俺が気弱な姿を見せてはしまらないから。

「アリシア王女が武器……? そんなこと認められると思っているんですか?」

 ロザリオが問う。
 だが、その当然の疑問を正面から受け止め、鼻で笑う。

「ハンッ……! この聖ブライトナイツが決めた決闘のルールには武器に関する規約は定められていない。所詮は学生同士の決闘だからな。細かい状況までは想定されていない、穴のあるルールよ。決闘のルールは貴様が述べたもの三つ。勝利条件と敗者は勝者の要求を受け入れる。それだけだ」

 決闘のルールを含む校則は学生手帳に書かれている。そこには全く決闘に関する武器を制約するルールはなかった。というのも、この騎士学園では鉄の剣が必ず支給され、剣を用いた戦闘術を主に教える学園だと言う面が大きい。ほとんどの生徒は剣術しかならわず、特別な才能を持っている人間は全く別の武器を使うが、それを使いこなせる人間は少なく、その使いこなせる人間というのはほとんどが特別な教育を受けている貴族だ。
 平民を虐げ、貴族を優遇するこの学園では、貴族が不利になるようなルール作りはしない。だから、武器に関する制約もあえて作っていなかったようだ。
 最も、もしもそんなルールがあったとしても、生徒会長であるオレであれば関係ない。立場を利用し書き換えることも可能だ。

「それでも……卑怯とは思わないんですか?」

 不愉快そうな目で、俺を睨みつけるロザリオ。

「そうだぞ~~~~  こんなの二対一じゃないか~~~~ 」

 ロザリオの言葉に同調するように、観客の一人が抗議の声を上げた。ざわざわと騒いでいて、よく小さなつぶやきの様なロザリオの声が耳に入ったなと思う。

「卑怯者~~~~~ 」
「王女は望んでこんなことやらされているのかぁ~~~~~ 」
「会長が脅して無理やりやらせてるんじゃないかぁ~~~~ 」

 ぶー、ぶーとブーイングがあちらこちらから上がる。

「……おい、師匠。これでいいんだよな?」

 アリシアが不安になったように、こそっと顔を近づけて俺に問いかける。

「かまわん。言わせたい奴には言わせておけ」
「……違う、そうじゃなくて……これがロザリオのためになるんだよな?」

 アリシアには、この決闘の目的を伝えている。 
 ロザリオの魔剣を取り上げるための決闘である———と。彼は強くなったが、魔剣の邪悪な意思によって力を暴走させている。それを何とかするために、俺を悪と見せかけ、ロザリオの魔剣を奪い、正常な思考に戻ってもらう。
 そのためには俺一人では無理だ———と、アリシアには伝えている。

「本当に、ロザリオの名誉を傷つけずに魔剣を奪うことが可能なんだろうな?」

 その〝何故一人では無理か〟という理由に関しては彼女に嘘を伝えている。

「ああ、これがいい。この状況がいい……!」

 大衆を見る。
 皆一様に俺を悪とみなしブーイングを行っている。

オレが一人でやってしまっては、ロザリオをけちょんけちょんにしてしまう。オレは手加減というものができんからな。そうなってしまっては、せっかく奮起して強くなったロザリオの心を折ることになりかねん。だから、一応の逃げ道を用意しておいたのだ。アリシア、貴様がいたから負けてしまったのだ———という逃げ道をな」
「それでロザリオの名誉が保たれて、邪悪な力から解放されると言うのなら……協力するけど……上手くいくものかなぁ……それに、やっぱり君がブーイングを受けているのは心地が悪いぞ」
「気にするな。弱者の声など、オレの鼓膜を震わせたとしても、心は全く持って動かすことはできん」
「まぁ……君が気にしていないのならいいけど……」

 アリシアが唇を尖らせてロザリオを見据える。
 ロザリオは変わらず怒りを込めた視線で俺を睨みつけ、

「アリシア王女を従わせるなんて……どんな手を使ったのですか?」
オレはシリウス・オセロットだぞ? 貴族の立場、生徒会長の立場、王女であろうと人一人従わせられないわけがないだろう」

 ロザリオに見せつけるように、右掌をかかげ、グッと握り、拳を作る。
 この手に掌握できないことなどない———そう、見せつけるように。

「この外道……」
「ハッ……何を今更! 先ほどから俺のことを〝卑怯〟だと〝外道〟だと言っているが———ロザリオ。それこそお前の望むところだろう?」
「———?」

 ロザリオの眉根が寄せられた。

オレという〝悪〟を倒してこその———〝正義〟だろう?」
「……アッハ☆」

 ロザリオは凄惨な笑みを浮かべた。
 何というか、喜んでいるような怒りが通り越したような……狂気が満ちてしまったようなそんな笑みだ。

「フッ……では、前振りはいい加減に終わりにして、そろそろ始めるとするか……」

 俺は手をかかげ、振り下ろす。
 決闘開始の合図———古代兵ゴーレムがそれを確認し、

 カァ———————ンッッッ 

 ゴングが鳴った。

「さて———ん?」

 その瞬間だった。
 ロザリオの魔剣が———抜かれた。
 俺と彼との距離はまだ離れているが、ロザリオは知覚できない速さで抜刀し———、
 影が———首筋まで迫った。

「———ッ!」

 慌てて後方に飛びのく。
 首筋にチリリと、痛みに似た、何か鋭いもので撫でられた感触が残っている。

 魔剣の影だ。

 ロザリオが抜いた魔剣・バルムンクから影がどこまでも伸び、何メートルもの距離がある俺との距離を一瞬で詰め、この首を落とそうと迫ったのだ。 
 影は鎌のような形状でかたまり、俺とロザリオの間に留まっている。ゆらゆらと俺をせせら笑うように左右に揺れている。
 影の鎌。その根元は地面に根づき、その大本の発生源である魔剣・バルムンクからダラダラと流れている影の川の延長線である。
 魔剣の切っ先からは絶え間なく、泥のような黒い影が流れ落ちている。
 ロザリオはにたりと笑い———、

「この程度では終わりませんよ」

 ロザリオは動かない。
 だが———影は動く。
 うにょうにょと大量の触手に形状を変化させ、地面から俺に向かって伸びていく。

「————ッ!」

 俺はバックステップで次々と迫る影の触手を躱していく。シリウスの持つ動体視力、身体能力があれば、四方八方、全方位から迫る攻撃も避けられぬことは———、

 ガラ……。

「む?」

 気が付けばリングの端にいた。
 追いやられたのだ。
 ならば前進するまでと影の触手の群れに突破口はないかと正面を向く———、
 地面から雑草のように無数に伸びゆく影の触手の、奥の奥———。
 使役するロザリオの口角が、ニタァ……と上がった。

「———足を止めましたね? 会長」

 その瞬間、背後に気配を感じ———、

 ザン———ッ 

 リング外に潜ませていた、ロザリオ操る影の鎌がシリウスの首筋を捕え———、一閃。
 シリウス・オセロットの首が宙に飛ぶ。

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