悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~

あおき りゅうま

第58話 この夜を最後の夜にしようと思った。

 アンの父親が魔剣・バルムンクの元々の持ち主———?

 そんな事実は一切知らないし、そういう設定もなかったはずだ。開発者インタビューも一応俺は読んでいるが、そんな記載は一切ない。
 もしかして、没設定がこの世界では反映されているのか?
 ということは、この世界ではアンの父親が死んだ理由も、本当に何か死ななければいけない理由があって、シリウスは仕方がなくやったのか?
「そんなことはない———都合が良すぎる」
 俺は首を振り、『イタチの寄り合い所』の道を歩く。
 アンの姿はここにはない。
 彼女と話がしたかった。
 あの夜、別れたきり全く顔を合わせていない。同じ『スコルポス』の仲間、ゲハルさんから聞くところによると、ナイフは受け取ったが浮かない顔をしており、何か思い詰めている様子だったと聞く。
 無事であればそれでよく、彼女も仇である俺に助けられたとあっては屈辱だろうと、こちらから積極的に顔を見せようとはしなかった。
 だが———もしかしたらアンの父親が魔剣によって暴走し、それをシリウスが止めていたとしたら———?
 彼女に詳しい話を聞いて、その確証が得られたとしたら———?

「……未練だな」

 自嘲気味に笑い、扉を開ける。
 シリウス・オセロットは死ななければならない。
 そのスタンスは変わらないし、変えてはならない。
 甘えるんじゃあないと、俺は自分に言い聞かせて夕暮れのハルスベルクの街を歩いた。
 恐らく———これが最後になる。

 俺は———ロザリオとの決闘イベントで、死ぬつもりだ。

 ◆

 ロザリオとシリウスの決闘イベント———それは本来起こるべくして起きるものである。予想外のことではあったが、それが結果的に前倒しで発生してしまった。それを利用しない手はない。

 そのイベントを利用し、魔剣を奪い、ロザリオにも真の力に目覚めてもらう。
 元々、俺は巻で行おうとしていたのだ。
 なら、これをいい機会ととらえ、全てのイベントを一気に行おう。
 そのために越えなければいけないハードルは高い。
 魔剣を取り上げ、ロザリオの真の力で殺される。
 その魔剣を取り上げるという一点のみがなんともはや難しい。それをどうするか。
 俺は、一人自室にこもり頭を悩ませていた。

 コンコン……ッ、

 そんな時、扉が叩かれた。

「入れ」
「夜分に失礼いたしますお兄様。生徒会の運営報告書を持ってまいりました……」

 ルーナが入って来る。
 ルーナは先日のモンスターハント大会の運営において、非常に優秀な能力を発揮してくれたので、生徒会の書記のポジションに食い込ませた。元々、シリウスは生徒会長という立場であるが、「紺碧のロザリオ」のゲーム上では生徒会役員という人間がどういった人間がいるのか描かれていなかった。実際こっちの世界で会ってみると、まぁシリウスに媚びを売るしか能がなさそうな無能貴族ばかりだったので、全員を解雇し、空いた空席にルーナをいれた。
 現在聖ブライトナイツ生徒会というと、俺とルーナだけになっているが、ルーナの事務処理能力と鉄仮面をはめた古代兵ゴーレムの力で何とかうまくやれている。 

「ああ、ご苦労……」

 俺が死んだら、ルーナが一人だけになるのか。

「ルーナ」
「はい?」
「もしオレがいなくなったら、貴様が生徒会長だ。励めよ」
「……? どうして突然そのような?」

「明日———ロザリオと決闘を行う」

「はぁ……」

 ピンと来ていないように、ルーナは間抜けな返事を返した。

「そこでもしかしたら、オレは死ぬかもしれん」
「……はぁ……」

 と、まだピンと来ていないような気の抜けた返事。

オレが死ぬことに対して何とも思っていないのか?」

 何だかルーナの声色からそんな感情を感じた。

「いえ、決してそのようなことは……お兄様がどうしてそのようなご心配をなさっているのか、ルーナにはわかりかねまして……」

 そういうことか。
 ルーナは微塵も、俺がロザリオに負けるなどとは思っていないのだ。

「……多少弱気にもなろう。相手は魔剣なのだ。オレでも勝てるかどうかわからん」
「はぁ……それでも、お兄様は勝ちとってきたではないですか」
「……ん?」

 ルーナを見やる。
 彼女は俺を信じているとか、励ますだとかそういった意思は感じられない。ただ、さも当然のことを言うような感じで続ける。

「お兄様は敵がどんなものであろうと手段を選ばずに勝ち得てきたではないですか。ヘカテ様の時にしても、ダン様を殺してでもその手に収めようとしていました。ルーナは鬼畜外道と思われようが、相手を救おうとするお兄様のお心。昔は理解できずに恐怖しておりましたが、今は尊敬しております」 

 ……ん?
 胸に手を当てて俺に敬意を表すルーナだったが、何か変なことを言っていたような気がする。

「待て、ルーナ。ヘカテとダンとは何者な、の……だ……」

 そこまで言いかけて思い出した。前者の名前は知らないが、後者の名前は、ついさっき聞いた名前だった。
 ルーナは驚いたように目を見開き、

「お忘れなのですか? お兄様。ヘカテ・ビバレント様のことを———亡きお母上様の面影を持つお方の名前を———」

 そんな、衝撃的な情報を口走った。

「……ルーナ。貴様はビバレント家が、アン・ビバレントの両親が死んだ真相を知っているのか?」
「確かな真相というのはわかりかねますが……どうしてお兄様がダン・ビバレント様を殺すことになったのかは、お兄様の口から聞き及んでおります」

 そこから話されたルーナの知る、ビバレント家おとり潰しの話は、俺が知っているものとは全く異なる内容だった。

「お兄様とヘカテ・ビバレント様は———愛し合っておられました」


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