悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~

あおき りゅうま

第57話 魔剣の情報

「———魔剣の弱点だと?」

 俺は、ロザリオとの決闘にあたりタルラント商会の裏手、『スコルポス』の事務所を訪れていた。

「ああ、ロザリオに魔剣バルムンクを渡したな?」
「ああ、渡した」

 椅子に深く腰を落とす『スコルポス』のボス、グレイヴ・タルラントは平然と答える。何か問題でもと言いたげな様子で。

「何故だ? 何故魔剣まで渡した? おかげでロザリオは暴走して強者を襲い始めた。これはお前のせいじゃないのか?」
「結構なことじゃあないか。その程度で潰される強者ならば、潰されても構わないだろう……それに随分と失礼じゃないか、シリウス・オセロット。お前はここにモンスターハント大会とやらの謝礼に来たのだろう?」
「……ああ、そちらに関しては礼を言う。アリシア王女にもタルラント商会の人間が大いに貢献してくれたと伝え、ガルデニア王家から商会へ謝礼金が支払われるという約束も取り付けた」
「結構」

 それだけ言うと、グレイブは新聞を広げ、俺から顔を隠した。

「金がウチに入ってくれれば。それでいい。儂の家族ファミリーがただ働きにならんのならそれでな」
「その家族を危険にさらすような真似を貴様はしたのだ」
「…………」
「ロザリオがこのまま魔剣の力により暴走すれば、強者であれば誰彼構わず襲うようになる。これは魔剣を渡した貴様の失態だ。落とし前はつけてもらうぞ」
「だから———魔剣の弱点を教えろっていうのか? 答えは一つだな———知らん」

 グレイヴは新聞を閉じると机に肘をついて、ぐいと首を俺に向けて近づけた。
 目が合う。 
 俺の心の奥底を探るような目だ。

「オセロット家のボン。お前は何か勘違いをしていないか? 儂は別に優しい人間などではない。利益があれば手を貸すし、ウチの家族に害を及ぼすと判断すればたやすく手を切る。ロザリオに魔剣を譲ったのはロザリオが使いこなせ、いずれ『スコルポス』の利益になると判断したからだ」
「ハッ……! 何を言うかと思えば、魔剣を渡したおかげでロザリオは飼い犬の手を噛む狂犬と化したではないか」

 雰囲気に飲まれぬよう強気な態度をとる。

「あの正義云々ってやつか? ああ、あれのせいで儂を〝悪〟だと認識すれば『スコルポス』に対して牙をむくかもな。だが、そうなる前にロザリオは倒すべき敵を倒してくれる。そうなってから切り捨てる方が、儂にとって利益になる」

 倒すべき———敵……か。
 このグレイヴは一見、好々爺であるような振る舞いをしておきながら、胸の内ではどす黒い野望を秘めている。アンの復讐に手を貸しているのも、そのためだ。『スコルポス』の仲間を家族だと愛する面と、自分の利益のためになら家族でもたやすく切り捨てる非情な面と両方を持ち合わせている。
 それも全て———彼の復讐のために。

「———最終的にロザリオを殺すつもりか?」
「最悪な状態になればな。だが、儂はまだ楽観視をしている。奴の正義というのはいうなれば〝弱者の恨み〟それだけの単純なものだ」
「〝弱者の恨み〟?」
「ああ……そもそも奴がああなったのは、お前らのせいだぞ。オセロット家のボン———」

 グレイヴが俺を指さす。

「———ロザリオはここに来て、「何もしないのに一方的に虐めてきた貴族たちに復讐をしたい」と常々恨みがましく言っていた。弱者であるがゆえに強者に一方的に嬲られた〝恨み〟。それを強者となり、弱者となったお前らに返してやりたい。ロザリオが考えているのはそれだけのことだ」
オレたちはそのしっぺ返しを食らっていると言う事か?」
「そういうことだ。だから、ロザリオがお前を狙ってきたのなら、受け入れろ。普通の人間はどうやっても魔剣には勝てん」

 再び、興味を失くしたとグレイヴは新聞を広げ、顔を隠した。

「だが———グレイヴ・タルラント、貴様は魔剣を〝奪った〟のだろう?」
「…………」

 沈黙が返ってきた。
 グレイヴは魔剣・バルムンクの元々の所持者であるが、それはグレイヴの手に渡る前にはどこにあったのか? いわくつきの剣がどうして裏社会のボスの手に渡っているのか?
 その答えは、「紺碧のロザリオ」のアンルートの中で、グレイヴ本人が言っていた。「復讐のためにこの魔剣を奪った」——と。彼は自らの目的、国への復讐のために魔剣を何者から奪っていた。
 手放したくない、前の持ち主から奪うことに成功したと言うことは、俺もロザリオの手から魔剣を奪うことができるはずなのである。
 だから、彼に魔剣の弱点を聞きに来たのだ。

「———よく知ってるな。どこから聞いた?」
「ハ……ッ! オセロット家を舐めるな。この地方の領主なのだ。調べられぬことはない」

 最近、知りようもない、転生前のゲーム知識をひけらかしてしまった場合はこうすれば大抵誤魔化せることを学んだ。

「そうか……だがちょっと話を盛っているな」
「盛ってる?」

 盛ったのは何を隠そうあんた自身なんだがと心の中で突っ込んだ。

「儂を奪ったのではない。盗んだのだ」
「盗んだ……?」

 そんな単純なことを———したのか。

「ハッ……なるほどな。コソコソと夜中に侵入し、くすねたというわけか」

 俺もそうするしかないようだ。

 要は魔剣、それが問題なのだ。ロザリオからそれを取り除くためには、奴が寝ている時に部屋に入って、バレずにとっていくしかない。
 見つかればシリウスとして情けない姿を晒すことになる。リスクはあるが、そうするほかに手はないだろう。
 そう思ったが、グレイヴは首を振った。

「やめておけ。あの魔剣には意思がある。どうして魔剣は感情を暴走すると言うデメリットがあると思う? 魔剣が感情を喰らうからだ。魔剣自身には意思があり、好みもある。ロザリオの感情はよほどおいしいと見える。そうなると魔剣はロザリオが眠っている間でも奴を守ろうとするだろう。あの〝影〟でな」
「勝手に動くと言うのか? 剣が?」
「ああ、敵とみなすと影が攻撃してくる。それと戦おうとしても無駄だろう。あの魔剣バルムンクの一番厄介なところだ。自己増殖———あの影は無限に増殖し、尽きることがない。魔剣が敵とみなせば、どんなにこっちがあの影を傷つけようと、影は損傷個所を補う。どんなにこっちが実力で上回っていようが、相手が決して死なないのなら、千日手になる。そして、影の物量で押し切られて必ずこっちが負ける。攻略法があるとすれば———、」
「では、どうやって貴様は魔剣を盗んだというのだ? 話を聞く限り、魔剣を使用者の手から奪うのは不可能ではないか」
「話を遮るな。だから、奪っていないと言っているだろう。儂は盗んだんだ。、元の所有者が死んだという情報を聞きつけ、奴の家族の手に渡る前にタルラント商会で押さえた。それだけだ」
「死んだ?」
「ああ———階段から落ちてあっさりと逝ってしまったそうだ。そこで本来の所有者がいなくなり、儂がその家から盗んだ。儂の手にあれがあったのは、ただそれだけの単純な理由だ」
「……なるほど」

 そういうことか……つまりは魔剣をどうしてもロザリオの手から取り除きたい場合は……、

「ロザリオを殺すしかない」

「そういうこったな。魔剣は現代では解明不能の謎の金属———黒鋼くろはがねでできていてそれはどんな魔法でも力でも破壊不可能だ。ボン、順番が逆なんだよ。魔剣をその手にしたければロザリオを殺すしかない———おりゃあ別に止めねぇよ。ロザリオがボンを殺そうとするのも、ボンがロザリオを殺す羽目になっても、お互い様だ。勝手に争ってくれ。儂ら『スコルポス』はそれ次第で動きを変えるだけだ。家族ファミリーがより良い方向に向かえるように」
「非情なのだな」
「お互い様だろう」

 パタンと新聞を閉じて、ジッとグレイヴが俺の目を見る。
 また———全てを見透かしたような目をして。

「……わかった。情報提供。感謝をする」

 俺は立ち上がり、部屋を後にしようとした。 
 グレイヴは「ああ、また来い。命があるうちにな」と言って新聞を広げ、

「ああ、そうそう———」

 とわざとらしく今、思い出したような声色で付け加える。

「———ちなみになんだが、さっき階段から落ちた前の持ち主のことなんだが、あれは本当に階段から落ちたのか?」
「……何を言っている?」

 いや———そんなこと言われても知らんが……。
 前の持ち主の事なんて、グレイヴしか知らないだろうに。
 意味が分からないと思っていたら、彼は少し愉快そうにこう言った。

「ああ、悪い悪い、言ってなかったな。前の持ち主の名前と、本来魔剣を所有していた家の名前———ビバレント家つーんだ……本来持っていた男の名前はダン。ダン・ビバレント———アンの父親だよ」

 彼の語る情報は、「紺碧のロザリオ」のゲームの中で一切語られたことのない情報だった。

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