悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~

あおき りゅうま

第48話 ビッチの意味

オレとルーナはここで離脱する。ロザリオ、アリシア、ヴェノム・ナーガは貴様たちだけで倒してみせろ」

 湿地帯を抜けて、古代遺跡までもう一歩という道中で、俺はそう切り出した。

「———え?」

 アリシアの顔から表情というものが消え失せる。愕然としたように。一方ロザリオは微笑を浮かべたまま表情を崩さない。

「先の『スコルポス』のとやり取りを見てしまっただろう……知っての通り、オレは実は大会運営としての仕事がある。それに、貴様たちもここまで来たら二人だけでも大丈夫だろう。そう判断し、オレは裏方に回らせてもらう」

 ヴェノム・ナーガは手負いだし、ロザリオは元々討伐ランクSのモンスター、サファイアドラゴンを倒したほどの実力の持ち主。ならもうここに俺がいてもいなくても大丈夫だろう。
 アリシアとロザリオ。二人きりにさせて特別な力———創王気そうおうきを身に着けてもらう。少なくともロザリオがそこまで習得してくれなければ、この大会を買いさした意味がない。

「そ、それは……ししょ~……!」 

 ロザリオと俺を交互に見ながら、俺にすがるように手を伸ばすアリシア。
 不安そうに眼をうるませていた。
 ウッ……。
 そんな目で見ないで欲しい。俺だって心苦しいのだ。だが、大会の開会式の時に、生徒たちを『黄昏の森』という名の千尋の谷に突き落とし、鍛え上げるうんぬんかんぬん言っておきながら、アリシアだけを特別扱いするわけにはいかない。

「甘えた声を出すな。鬱陶しい。貴様はオレがいないと何もできない小娘になり下がるつもりか? 貴様は強くなりたいのだろう?」

 心を鬼にしてアリシアを突き放す。

「……そう、だった。ボクは、一人の騎士として強くなるんだ……そして、自由に……違う、強い人間の隣に立つにふさわしい人間になるんだ」

 俺の言葉が効いたのか、アリシアは甘えた表情を消し、強い意志のこもった瞳で俺の目を見る。

「そのいきや良し。ではな———」
「あ———」

 アリシアはまだ何か言いたげだったが、俺は彼女に背を向け、歩き出す。

「あ、そうそう……」

 そしてわざとらしく、何かを思い出したようなそぶりをして、振り返り、

「アリシア王女、お前のその創王気そうおうきという力だが……案外誰でも使えるかもしれないぞ。試しにそこのロザリオ・ゴードンにでも教えてやればどうだ?」
創王気そうおうきが、ロザリオに……?」

 もう、なりふり構わず、ロザリオに創王気そうおうきを習得させるように具体的な道筋を提示する。
 アリシアはロザリオの顔を見やるが、ロザリオは心当たりがないと首をひねる。

「これから対峙するヴェノム・ナーガ。ロザリオも創王気そうおうきが使えればより楽になるかもしれんな! フハッハッハ……!」

 そう、高笑いして俺は立ち去ろうとした。

「わかったよ、師匠———、」

 俺の背中にアリシアが声をかける。

「———だけど、呼び方が違うぞ! ボクのことは王女じゃなくて、〝ビッチ〟と呼べって何度も言ってるだろ!」

 そう———笑顔で手を振りながら言ってきた。

「「「————ッ!」」」

 流石に、聞かれた。
 俺、ロザリオ、ルーナに衝撃が走る。

「またな! 師匠……ってアレ、どうした? 皆、固まって……」

 この場にいた自分以外の人間が気まずそうに顔を伏せていることに流石に気が付き、アリシアが頭の上に疑問符を浮かべる。

「……あの、王女様」
「ん? 何だロザリオ?」
「そのですね、あなたが今言った言葉は……」 

 ロザリオが親切心から耳打ちをしている。
 ここからでは、ロザリオが何を言っているのか想像するしかないが、アリシアのリアクションで容易にわかる。
 ニコニコとロザリオの言葉に耳を傾けていたアリシアだったが、次第にその顔が赤く染まっていき、

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ   」

 頭のてっぺんから湯気を吹きだして、恥ずかしさのあまり目を回してしまう。

「違……違……そんな意味じゃ……あだ名をつけてくれたんだと思って、ボクはっ……!」

 くらくらと頭を回すアリシア。
 遂に「ビッチ」の意味を知ってしまったか……タイミングはまぁ悪いが、ここに居るのがロザリオやルーナのような規律にうるさいタイプじゃない人間の前で助かった。これがミハエルのような他の王族の前で堂々と言っていたら、死刑を言い渡されるかもしれない……。
 まぁ別に、ミハエルをぶっ飛ばしたのだから、オレに怖いものなど何もなく、死刑を言い渡されたとしても覚悟を決めて国家に立ち向かっていけばいいだけの話なのだが。

「———そういう意味じゃない……! ボクは、ボクは……売女ビッチじゃなあああああああああああああああああああああああい!」

 森の中で、アリシアの叫びが木霊する。

 そんな中なぜか、ルーナが感服したように、

「お兄様……王女様に対してもそのような呼び方をするとは……流石でございます……」

 と、深々と俺に対して頭を下げていた。

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