悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~

あおき りゅうま

第45話 おかしな方向へ行き始めた話

 やってしまったぁ~~~~~~~~~~~~~~~~………!

 ついノリと勢いに任せてミハエルをぶっ飛ばしてしまった自分の行動を後悔した。
 彼を倒すのはいい。「紺碧のロザリオ」のシナリオ上の展開ではロザリオにアリシアを取られたミハエルが学園を去り、どちらにしろプロテスルカ帝国が攻めてくる。だから、ミハエルは遅かれ早かれ倒される運命にあった。
 だが、倒す人間が違う。

「俺じゃあないだろぅ………!」

 俺の本来のモンスターハント大会でのシナリオはミハエルを倒すのはロザリオのはずだった。ロザリオにミハエルを倒させるためにこのモンスターハント大会を企画したのだ。
 当初の計画としてはこうだ。 

 1、ミハエルとロザリオ、アリシアを一緒の班にして、ミハエルとアリシアの仲を取り持つと言っておきながら、実質的にはロザリオとアリシアの仲を取り持つ。
 2、アリシアとロザリオにそれとなく試練を与えて、ロザリオもに創王気そうおうきに目覚めてもらい、パワーアップをしてもらう。
 3.嫉妬に狂ったミハエルがアリシアを奪おうとロザリオに勝負を挑み、見事にロザリオが勝つ。

 そういう……シナリオを考えていたのに……全部俺自身の手で台無しにしてしまった。

「あぁ~……もう正直にロザリオにネタバレしてやろうかなぁ……お前も王家の血を引いているんだぞって……でもそれはそれでルートがメチャクチャなことになりそうだし……」
「何をぶつくさ言ってるんだ、師匠?」

 頭を抱えている俺にアリシアがやって来る。

「ほら———」

 ドスッと俺の横に荷物を置く。
 それは、先ほどミハエルが小屋から投げ捨てた、解毒薬が入った荷物だった。

「———無理しすぎだよ。毒が体に回っているというのに……」

 苦笑して、荷物の中から解毒薬を取り出すアリシア。

「そんなものはいらん。もう俺の身体から毒など抜けておる、念の為にとっておけ」
「そんわけないだろ! 毒の牙で刺されたんだぞ! 強がりを言うなよ!」
「本当の本当だ! 本当にもう毒は抜けている! いいから取っておけ!」

 理屈はわからないが、俺の身体はもう回復しているのだ。一応毒蛇がいる湿地帯を抜けることになるのだから、解毒薬を俺に使うのは無駄だし勿体ない。

「意地っ張り!」
「フンッ……!」

 何故だか大丈夫だと言っても聞いてくれそうにないので、俺は説明せずに彼女の言う通り、鼻を鳴らして、意地で解毒薬を受け取らない振る舞いをした。

「まったく……」

 すると、何を思ったか、アリシアは俺の背中に手を当て、

「ちゅぷ……」

 傷口にキスをした。

 ………~~~~~~~ッッッ  
 
 ゾクゾクゾクッと背中に電流が走り、飛び上がりそうになったのを必死でこらえる。
 どんな時でも、シリウス・オセロットは動揺してはならない。

「……な、なにをしてる?」
「ぺっ! 解毒薬を飲まないんだろ? だったらせめて傷口から毒を吸いだそうと思ったんだよ———」

 俺の血を含んだ唾液を吐き出し、

「———解毒薬のない時の緊急措置はこうするんだろ? 人間の口の中は意外と頑丈で、唾液には解毒作用もあるって聞いたぞ?」

 口元をぬぐい毒をはらいながら、アリシアはまた「つぷ……」と俺の背中の傷口にキスをする。

「違うわ、たわけ! そんな民間療法まがいの知恵をどこで身に着けた。いいから離れろ」

 身震いをして、アリシアを遠ざけようとする。
 確かに、毒蛇に噛まれた場合は毒をすぐに吸い出すことが大事だと、昔見たテレビで言っていたが、その時は注射器のような専用のキットを使っていた。
 口でやるのは衛生的にどうかと思うが……。

「……じゃあ、君が正しい方法を知っているのかよ?」

 ……知らない。

「それに、君が解毒薬を飲んでたら済む話だったじゃないか」

 ……確かに。

「———だが、もうよい! 毒はすっかり抜けた。お前のおかげだ。助かった!」

 アリシアに止めさせるために、一応そう言っておく。

「本当か?」
「本当だ!」

 背中から聞こえるアリシアの声は疑わし気なものだったが、傷口から毒を吸いだす行為はやめてくれた。

 コツン……。

「ん?」

 その代わりとばかりに、背中に彼女は額を当てた。

「ありがとう……ボクを助けてくれて……」

 背中越しにアリシアの体温を感じる。
 暖かい。

「気にするな。オレはやりたいようにやっただけだ。それにオレのせいでガルデニアとプロテスルカは再び戦争状態になるな! フハハハハハ……ッ! 面白いことになりそうだ……!」

 悪ぶって高笑いをしてみる……が、

「気に病むな。君が殴ってなかったら、僕が殴ってた。ミハエルとは結局こうなる運命だったってことさ……」
「気に病んでなどいないが……」

 スッとアリシアの腕が俺の体の前に回され、ギュッと抱きしめられる。

「アリシア……何をやっている?」

 まるで、親愛の証しのように。
 彼女は強く俺の身体を抱きしめた。

「ちょっとくらいいだろ……怖かったんだから……」
「あ、あぁ……」

 嫌いな男に攫われかけたのだ。一難去って、冷静になって、恐怖が押し寄せてきているのだろう。
 シリウスとして好感度を稼いではいけないが、そんな彼女を振りほどくのは余りにもひどい。

「君が沼に沈められて上がってこなかった時、本当に怖かった……」

 俺の背中に顔をうずめながら彼女は話す。ブブブと喋るたびに背中が振動で揺れているのが伝わる。

「あ、あぁ……」

 助けが来ずにミハエルにされるがままになると思って……アリシアは怖かったのか……。

「君が沼から這い上がってミハエルをぶっ飛ばしてくれた時、本当にホッとした……」

 ミハエルという、脅威がなくなって安心したのか……。

「シリウス。君がいてくれたら安心する」
「あぁ……ん?」

 話がおかしな方向に行きそうになってないか?

「ずっと、傍にいてくれないか……?」
「いやそれは……!」

 とんでもないことを言いだした! 
 好感度が上がりすぎている。非道と思われても今すぐアリシアを振り解かなければ!
 全身に力を込めると……、

「わかってる……」

 アリシアが振り解かせまいと腕に込める力を込めた。

「わかってる……ボクは王女で、君はこの地方を治めている領主の息子。ずっと一緒にはいられないさ……だから、学生でいられる間、できるだけ……できるだけ……」

 泣きそうな声になっているアリシアを振り解けなかった。

 わかっている……か。

 なら、いいか……俺はいずれ近いうちに死ぬ。いつか別れが来ると言うことをわかってくれているのなら。

 何だか……ロザリオとアリシアをくっつけると言う目的から、致命的に外れてしまったような気がするけれども……。

 ◆

 一方その頃、湿地帯と森林部の境界線付近では———。

「やっぱりミルカリーダーの元に引き返した方がいいんじゃないでヤンスか?」
「あんな危険な場所の戻れって言うのかよ!」

 ティポとザップが言い争いをしていた。
 ミルカ班に所属している彼らであったが、古代遺跡にこだわるミルカに愛層が尽きて、別の班に合流しようと道を引き返していたのだ。
 歩きながら獣道を歩く。

「でも、このまま歩いていったとしても……! 俺ら地図もないでヤンスよティポ様!」
「うるせぇ! でも行くしかねぇだろう! あんな奴らについて行ったら死んじまうよ!」

 視界の悪い薄暗い森の中をずんずんと進んでいくティポだったが、

 ガラッ……!

「うお!」
「ティポ様 」

 危うく、崖から足を踏み外しかける。
 草木で足元が見えず、気が付いたら崖の一歩手前までティポたちは迷い込んでいた。

「行き止まりか……引き返そう……」
「ヤンスヤンス!」

 クルッと二人が方向転換をした時だった。

 来た道の先に———〝黒い影〟が立っていた。

「な、なんだぁ……?」

 魔物でも人でもない、〝黒い影〟としか言いようがない、異様な存在。
 そいつは手に持っている黒い棍棒を振り上げて———、

「———トツゼンデ、モウシワケナイ。ショウブシテ……モラオウ」

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