悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~

あおき りゅうま

第24話 変わっちまったロザリオ

 本当に良かった。
 鬼畜外道のシリウス・オセロットとして転生したときは俺が一体何をしたと神様を呪ったものだが、なんやかんやよくわからないうちに上手くいきそうだ。

「景色が綺麗ですねぇ~」

 聖ブライトナイツ学園のバルコニーの手すりに寄りかかり、夕焼け空を眺めるロザリオ。

「そうだねぇ~」

 優しげな雰囲気でその言葉に応える。
 一年生の廊下でロザリオを呼び出したものの、あまりにも周りにいた生徒たちがギョッとするので場所をここ、アリシアと以前に決闘したバルコニーに変えた。

「それで、話って何です?」

 爽やかな笑みを浮かべて振り返るロザリオ。
 恋愛ドラマの主人公のような笑みだ。自分に自信が満ち溢れていると言うのが表情を見ればわかる。

「いやぁ~……ロザリオ君。一週間ぶりじゃないかぁ。その間、何をしていたか聞きたくてねぇ」
「あれ? その前に会長……ハハッ、随分雰囲気変わりましたね?」

 お前に言われたくないよ。

「何があったんです?」

 お前がな。

 一週間前のお前だったら絶対に〝微笑む〟なんて仕草しなかったぞ。常に何かに怯える小動物のような生き物だった彼に、一体何があったというのか……。

「いやぁ~、ちょっと思うところがあってキャラへんしようと思ってるんだよ。これからはみんなと上手くやろうと思っていてね。どうかな?」

 生前、会社でよく俺に奢ってくれたやさしい上司の真似をしているのだが。彼は出世とは程遠かったが、人がいいおかげで部下たちから非常に慕われていた。俺も今世ではそうなろうと口調をまねしてみた。

「ハハッ、似合ってませんね」

 …………ムカつくなコイツ。

 もういい、口調元に戻そ。シリウス・オセロットのものに。
 この世界でシリウス・オセロットとして一週間も生きてきたんだから、口調も慣れたものだ。

「———フンッ、黙れたわけが。ちょっと優しくしてやろうと思ったらつけあがりおって」
「ああ、それですよ! 会長はやっぱそれじゃないと☆」

 俺を指さし、ウインクをするロザリオ。

 …………やっぱムカつくなコイツ。

 無性むしょうにぶん殴りたくなってきた。
 なんだこいつのこのキャラ変……自分に自信を持っているというか、調子に乗っている。

「———それで? 貴様に何があった? 以前の貴様と比べると豹変とも呼べる変わりようではないか。それにバサラ・モンターノと共にサファイアドラゴンを倒した? 貴様に何があった? 創王気そうおうきにでも目覚めたのか?」
創王気そうおうき? 何です、それ?」

 キョトンとするロザリオ。

 あれ? 

 別にその力に目覚めたわけじゃないのか。

 アリシアと同様に王家の血を引く彼は、その力を扱うさいがある。アリシアとの出会いによりその力が目覚め始め、やがては真の王の力へと覚醒していく。
 それを勝手に習得して強くなったわけじゃあなかったのか……。

「〝俺〟が強くなったのは———会長のおかげですよ」
オレの?」

 コイツ、一人称が〝僕〟からゲーム中盤の〝俺〟の口調に変わってる。やっぱりそれなりにイベントをこなしているのか?

「以前にいじめっ子から助けてもらった時、「いじめられるのが嫌なら、貴様自身でなんとかしろ」って言ってくれましたよね? 俺の中でずっとその言葉が残っていて———」
「あぁ……」

 言ったっけ、そんなこと……言ったような気がする。

「———だから、自分自身で何とかしました。この学園だと強くなれないと思って街に出て、師事しじけて、『黄昏の森』で修業して……って、どうしました会長?」

 俺はロザリオの言葉を聞いているうちに全身の力が抜けていき、膝から崩れ落ちた。
 そして、ネット用語でいうところのorzの体勢になってしまう。

 俺のせいかぁぁぁぁ———————————————— 

 本来助けなくていいイベントに割って入って余計なことを言ってしまったせいで、ロザリオは自分で好き勝手にやりたい放題修行をして———べらぼうに強くなった。

 そして、結果としてヒロインと誰とも接点を持つことなく、親友ルートのフラグを立ててしまった……。
 なんということだ。

「おかげで自分にも自信を持てて、バサラ君と一緒にですけど、サファイアドラゴンなんて討伐Sランクの魔物も討伐できました。本当に———強くなれたのは会長のおかげなんです! ですので、感謝の言葉を述べさせてください、会長」

 力こぶを見せつけてニッと微笑むロザリオ。

「……いや、感謝の言葉など、いい。いらんわそんな言葉など……オレは大したことはしていない」

 本当に大したことはしていない———余計なことしか。

 でも———まぁ、いい。

 この世界に眠る『紺碧のロザリオ』のラスボスたちを倒す力自体には目覚めていない。だが、それと対峙できるほどには強くなっている。サファイアドラゴンを倒すことができるのだからそれだけの力はあるだろう。
 後は肝心の倒す力。真の王の力に目覚めてもらうだけだ。それならアリシアと少しやり取りしたらすぐに目覚めるだろう。何せ、ロザリオはゲームの序盤で創王気そうおうきを習得し、ミハエルを倒すという展開に、本来はなっていたのだから。

「時に———貴様に頼みがある」

 気をとりなおして立ち上がり、膝のほこりを払う。

「会長が、俺に——— 」

 キラキラした瞳で俺を見るロザリオ。まるで指事を待って尻尾をぶんぶんと振る子犬の様だ。

「———何でもします! 会長は俺の恩人ですから!」

「そ、そうか……」

 好感度高すぎてちょっと引く。

「ならば、ある強くなりたいと望む女性徒がいる。そいつに剣を教えるようにオレは頼まれているが、知っての通り、オレは多忙だ。ゆえに、貴様に稽古をつけてやって欲しい」
「は、はぁ……まぁいいですけど……」
「その女性徒は今、裏庭でオレを待っている。貴様にはそこに行ってオレの代わりにそいつに剣の稽古をつけてやって欲しい。できるな?」
「……うぅ~ん、まぁ、その程度の事なら。でも簡単すぎるな。もっとでかいのが良かったなぁ~、『黄昏の森』に入ってSランク魔物を全滅させて来い、とか」

 期待された依頼内容とは違ったようで、両手を頭の後ろで組んで空を仰ぐロザリオ。
 完全に調子に乗ってる。

「たわけ。焦らなくても『黄昏の森』には明日に入るだろうが。モンスターハント大会でな。Sランク魔物はそのイベントで使う大事な設備である。イベント前に駆逐されてたまるか」
「そうですね、わっかりました。じゃあ、明日の大会に向けて、その女性徒に怪我がないよう、指導してきます」

 ビシッと敬礼をするロザリオ。

 本当……変わっちまったな、お前……。

 ゲームの後半の性格とも違う。
 ゲーム本編で自分に自信を取り戻したロザリオは、実力に自信はつけたものの相変らず喋るのは苦手な、物静かで謙虚な男だった。こんなにチャラい感じじゃない……。

 ま、いっか。

 元気があるのはいいことだ。

「励めよ」
「はい! 会長!」 

 ロザリオを残し、俺はバルコニーを去る。
 ルートはメチャクチャになったが、結果オーライだ。
 これでロザリオとアリシアの仲を取り持つきっかけを作り、明日のモンスターハント大会で急接近させる。その準備が整えることができた。

 ———全てが順調。

 俺はただ、『紺碧のロザリオ』をプレイしたゲーム知識を使って、来るラスボスたちへ向けてちょちょいと調整をするだけでいい。

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