悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~

あおき りゅうま

第12話 裏社会

 聖ブライトナイツ学園は巨大都市ハルスベルクの中にある。
 多くの商店が軒を連ね、大陸中の商品と人が集まる商業都市。いろんな文化が交差するその都市には自由がある。どんな人種だろうが、どんな思想を持っていようが、実力と知恵があればこのハルスベルクでは財を築けるのだ。
 そういった自由なコミュニティでは大抵治安が悪化する。
 悪事をなして小銭を稼ぐ子悪党がどうしても存在してしまうし、そんな子悪党を束ねる者も当然存在する。

「こっちよ」

 アンに案内されて、大通りから外れた暗い小道を歩いていく。

「でもどうして、お前が私とボスとの関係を知っているの……?」

 ギロリとこちらを睨んでくるアン。

「フンッ、オセロット家だぞ。このテトラの領地のことを把握していないでどうする? 貴様が〝あの組織〟とつるみ、我が家のことを探っていることは知っている」
「何でもお見通しってわけね……! 気に食わない」

 心底憎々し気に奥歯を噛みしめるアン。
 アンは復讐者だ。
 学校で手に入らないような実践的なナイフや武器用の鎖を仕入れ、騎士らしからぬ忍びのような体術を習得している。
 それは今年聖ブライトナイツ学園に入学したばかりのただの少女であった騎士見習いではとても身につかない技術だ。

 支援者パトロンがいる。

 自由な街には暗部が存在するし、その暗部に頼らなければいけない人間もまた存在する。
 復讐を胸に誓うアンもまた、その頼らざるを得ない人間の一人なのだ。

「いずれオセロット家もおしまいよ。ボスたちはあなたの父親の弱みをいくつもにぎっている」
「物事をそう単純に考えるな。大きな組織というものは互いに弱みの一つや二つ握りあっているものだ。オセロット家を貶めたいならやればいい。だがその瞬間、〝あの組織〟も終わる。もう終わらせてもいいのなら、好きにすればいい」
「……何処までも気に食わない。着いたわ」

 大きな建物の裏口に辿り着く。

「ここの表はタルラント商会の出している『イタチの寄り合い所』という商店だったな」
「そんなの、知ってるでしょう?」

 タルラントはこのハルスベルクで最大規模を誇る商会で、『イタチの寄り合い所』はその組織が運営するこの街で一番の商店。品ぞろえが豊富でとりあえずここに来れば何でもそろう現代で言うところのデパートのような場所だ。
 その裏口の扉をアンは開けて中へ入っていく。
 薄暗い通路を二人で歩く。
 大規模な商店の通路だと言うのに、荷物が全く置かれていない薄暗い道だ。たいてい、こういう商店には倉庫に入りきれない荷物が通路に山積みにされているものだ。だが、ここにはそういうモノが一切ない。ということはそういう表に出すようなものは一切おいてはいけない通路だと言うことだ。
 そして、地味な、何も描かれていない扉を無造作にアンはノックする。

「オヤジ。いる?」

 中へ気軽な声掛けをする。

「アン……か? 入れ。よく来たな」

 中から老人の男の声が聞こえる。

「客人がいるけど、いい?」
「……客? 誰だ?」
「シリウス・オセロット」
「何だと? …………アッハッハッハッハ  面白い、入ってもらいなさい」

 爆笑の後、優しいおじいさんの声で中に入るように促される。
 クイっと中へ入るように首で扉を指され、俺は扉を開けた。

「失礼する。オレがシリウス・オセロットだ」

 シリウス・オセロットらしく、胸を張って堂々と中へと入る。
 壁に刀がかけられ、竜の頭のはく製がその隣に飾られている。まるでヤクザの組長のような部屋。
 その奥の机に、新聞に目を落とす老人がいた。

「よく来たな。オセロット家のお坊ちゃん。私がこのタルラント商会のオーナー、グレイヴ・タルラントだ……あぁ、いや、」

 グレイブ・タルラントは新聞から顔を上げて、穏やかな笑みを作った。
 その———右半分に大きな火傷の跡を作っている顔の皮膚を動かして。

「それとも———こう名乗った方がいいかな? 『スコルポス』の首領ドン———グレイヴ・タルラント、と」

 彼こそが、このハルスベルクの裏社会を支配しているマフィアのボスだ。

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