悪役貴族は殺されたい。~やりたい放題してるのに、なぜかみんなが慕ってくる~
第9話 悪役貴族は図書室に行きたい。
俺はシリウスとしての記憶がない。
だから、魔法をどうやったら発動させていいかわからない。
先日、アンと対峙したときは魔法を使うまでもない的なことを言ったが、実は全く使えないのだ。ただ、魔力を垂れ流して自分の身を守っていただけにすぎない。
モンスターハント大会ではそういうわけにはいかない。いざという時に傷をいやす治癒魔法や、解毒魔法を習得しておかねば。
図書室の扉は夕陽に照らされていた。
「図書室って閉館の時間が早いからな……急いで読まないと……」
少しだけ焦りながら扉に手をかけた。
「シリウス・オセロット!」
背中から声をかけられる。
またこのパターン……振り返りたくねぇ……。
女の子の声だった。
それも何度も聞いたアニメの声優さんのような綺麗な声。いや、この世界が元々ギャルゲーの『紺碧のロザリオ』の世界で彼ら一人一人に声優さんが声を当てているのだから、聞き覚えのある綺麗な声であるのは当然か。
「聞いているのか! おい、シリウス! ボクが呼んでいるんだぞ!」
辟易しながら振り返る。
そこにいたのは、アリシア・フォン・ドナ・スターダスト。
勝気な赤髪の、このガルデニア王国の第三王女。
「……何か? モンスターハント大会の事ですか? その件に関しては他の人間からいくらでも苦情をすでに貰っている上に、その運営のために我は忙しい。何か文句があってももう聞き飽きた故に聞くつもりもない……ではな!」
早口でまくしたてて、図書室の扉のノブを倒す。
「そんなことはどうでもいい! ボクが言いたいのはロザリオ・ゴードンの事だ!」
「———?」
ロザリオ?
一番最初の出会いのイベントを済ませた、この世界の主人公のことか?
「ロザリオ・ゴードン……ああ、確か平民の男ですか……それがどうかしたのですか?」
開きかけていた図書室の扉を閉じて、振り返る。
一応、覚えていないふりをしながら———。
確か、ゲームのシナリオ上ではあまりにも情けないロザリオにアリシアは、「剣の稽古をつけてやる!」 と言って剣を教える。だが実際は剣の腕では圧倒的にロザリオが強く、ロザリオに足りないのは自信だけだと気が付く。それからロザリオに自信をつけてもらうために常にアリシアは彼と行動を共にする。そういうシナリオだったはずだ。
確か今日はその初めての剣の稽古の日で、校舎裏でロザリオをアリシアは二人で木剣で打ち合ったはずだ。
もうそれを終えたのかな?
「今日も会ったのでしょう? 剣の稽古をするために」
「会った? 稽古? 何の話だ?」
頭に疑問符を浮かべているアリシア。
———あれ?
すっとぼけているのかな?
仮にも王女が平民の男と密会しているのだ。その事実に気が付いて一応黙っておいた方がいい、そう思っているのか?
だが、彼女は本当に俺が何を言っているかわからないと首を振り、ポケットに手を突っ込み、俺の顔面に何かを投げつけた。
「———とぼけてないで……ボクと決闘しろ!」
手袋だ。
アリシアは制服のポケットに入れていた白手袋を、バシッと俺の顔に叩きつけた。
「……え?」
思わず素の声が出てしまった。
ゲームと展開が全然違う……。
「ロザリオを虐めたのは君だそうじゃないか! ボクは情けない男も嫌いだが———弱いものを虐める奴はもっと嫌いなんだ! 君にいじめられたショックで彼は今日学園に来ていないんだぞ!」
「……え?」
学園にロザリオが来ていない?
てっきり、アリシアと一緒に行動していると思っていた。それも俺がいじめたって……。
「い、いえいえ、何か勘違いしておられるようですが……ロザリオを虐めたのは別の者で……」
「言い訳するな! 君がロザリオがいる場所に行くように言ったんじゃないか! そこに行ったらロザリオは悔しそうに泣いて、名前を名乗るだけで逃げるようにどこかに行ってしまったぞ!」
「え? 名乗っただけで逃げた? 話していないので?」
主人公とヒロインの重要な出会いのイベントだぞ?
「話してない。名前を聞いて、ロザリオが名乗った———それだけだ。彼と交わした言葉は。」
「……えぇ」
マジかよ……。
全然ロマンチックじゃない……出会いのイベントが成立してない。
恋愛ものはファーストコンタクトが一番大事だと言うのに……これじゃあアリシアルートに入れないぞ……。
「とぼけているのか、シリウス。それに、その時に見ていた人間から話を聞いたところによると、薔薇園を吹き飛ばして、怯えるロザリオを楽しそうに嘲り笑っていたそうじゃないか! 挙句の果てにそんな惨めな姿を女である僕に見せつけて! 悪趣味にもほどがあるぞ、シリウス!」
「……〝その時に見ていた人間〟というのは、デブとノッポですか?」
「ああ、名前は知らないが……下級貴族の生徒だった」
ティポとザップだ……。
あいつら……俺に罪を擦り付けやがった!
ふざけんなよ、おかげでルートが逸れてロザリオの覚醒イベントが遠ざかったじゃないか。
なんとか、フォローを入れておかなければいけないな……。
「ハァ……わかりました。ロザリオの件については誤解があるようですので、後日我の口から詳細に説明しましょう……ですが今は忙しく……もうすぐ日が落ちる。また日を改めて……」
「何を言っている? ここは聖ブライトナイツ騎士学園だぞ。決闘を申し込まれたら即座に受けなければならない。それが絶対のルールだろう」
「……え? 即座? 今すぐですか?」
「今すぐだ!」
「どんなに忙しくても?」
「名誉を重んじる騎士にとって決闘は何よりも優先される!」
ズイッと勝気な意思を宿した丸い目が、念を押すように近づく。
絶対に逃げるな———と、その瞳に書いてある。
「……えぇ」
めっちゃ嫌ぁ……すぐにでも図書室で魔法の勉強をしなきゃいけないのにぃ……。
だから、魔法をどうやったら発動させていいかわからない。
先日、アンと対峙したときは魔法を使うまでもない的なことを言ったが、実は全く使えないのだ。ただ、魔力を垂れ流して自分の身を守っていただけにすぎない。
モンスターハント大会ではそういうわけにはいかない。いざという時に傷をいやす治癒魔法や、解毒魔法を習得しておかねば。
図書室の扉は夕陽に照らされていた。
「図書室って閉館の時間が早いからな……急いで読まないと……」
少しだけ焦りながら扉に手をかけた。
「シリウス・オセロット!」
背中から声をかけられる。
またこのパターン……振り返りたくねぇ……。
女の子の声だった。
それも何度も聞いたアニメの声優さんのような綺麗な声。いや、この世界が元々ギャルゲーの『紺碧のロザリオ』の世界で彼ら一人一人に声優さんが声を当てているのだから、聞き覚えのある綺麗な声であるのは当然か。
「聞いているのか! おい、シリウス! ボクが呼んでいるんだぞ!」
辟易しながら振り返る。
そこにいたのは、アリシア・フォン・ドナ・スターダスト。
勝気な赤髪の、このガルデニア王国の第三王女。
「……何か? モンスターハント大会の事ですか? その件に関しては他の人間からいくらでも苦情をすでに貰っている上に、その運営のために我は忙しい。何か文句があってももう聞き飽きた故に聞くつもりもない……ではな!」
早口でまくしたてて、図書室の扉のノブを倒す。
「そんなことはどうでもいい! ボクが言いたいのはロザリオ・ゴードンの事だ!」
「———?」
ロザリオ?
一番最初の出会いのイベントを済ませた、この世界の主人公のことか?
「ロザリオ・ゴードン……ああ、確か平民の男ですか……それがどうかしたのですか?」
開きかけていた図書室の扉を閉じて、振り返る。
一応、覚えていないふりをしながら———。
確か、ゲームのシナリオ上ではあまりにも情けないロザリオにアリシアは、「剣の稽古をつけてやる!」 と言って剣を教える。だが実際は剣の腕では圧倒的にロザリオが強く、ロザリオに足りないのは自信だけだと気が付く。それからロザリオに自信をつけてもらうために常にアリシアは彼と行動を共にする。そういうシナリオだったはずだ。
確か今日はその初めての剣の稽古の日で、校舎裏でロザリオをアリシアは二人で木剣で打ち合ったはずだ。
もうそれを終えたのかな?
「今日も会ったのでしょう? 剣の稽古をするために」
「会った? 稽古? 何の話だ?」
頭に疑問符を浮かべているアリシア。
———あれ?
すっとぼけているのかな?
仮にも王女が平民の男と密会しているのだ。その事実に気が付いて一応黙っておいた方がいい、そう思っているのか?
だが、彼女は本当に俺が何を言っているかわからないと首を振り、ポケットに手を突っ込み、俺の顔面に何かを投げつけた。
「———とぼけてないで……ボクと決闘しろ!」
手袋だ。
アリシアは制服のポケットに入れていた白手袋を、バシッと俺の顔に叩きつけた。
「……え?」
思わず素の声が出てしまった。
ゲームと展開が全然違う……。
「ロザリオを虐めたのは君だそうじゃないか! ボクは情けない男も嫌いだが———弱いものを虐める奴はもっと嫌いなんだ! 君にいじめられたショックで彼は今日学園に来ていないんだぞ!」
「……え?」
学園にロザリオが来ていない?
てっきり、アリシアと一緒に行動していると思っていた。それも俺がいじめたって……。
「い、いえいえ、何か勘違いしておられるようですが……ロザリオを虐めたのは別の者で……」
「言い訳するな! 君がロザリオがいる場所に行くように言ったんじゃないか! そこに行ったらロザリオは悔しそうに泣いて、名前を名乗るだけで逃げるようにどこかに行ってしまったぞ!」
「え? 名乗っただけで逃げた? 話していないので?」
主人公とヒロインの重要な出会いのイベントだぞ?
「話してない。名前を聞いて、ロザリオが名乗った———それだけだ。彼と交わした言葉は。」
「……えぇ」
マジかよ……。
全然ロマンチックじゃない……出会いのイベントが成立してない。
恋愛ものはファーストコンタクトが一番大事だと言うのに……これじゃあアリシアルートに入れないぞ……。
「とぼけているのか、シリウス。それに、その時に見ていた人間から話を聞いたところによると、薔薇園を吹き飛ばして、怯えるロザリオを楽しそうに嘲り笑っていたそうじゃないか! 挙句の果てにそんな惨めな姿を女である僕に見せつけて! 悪趣味にもほどがあるぞ、シリウス!」
「……〝その時に見ていた人間〟というのは、デブとノッポですか?」
「ああ、名前は知らないが……下級貴族の生徒だった」
ティポとザップだ……。
あいつら……俺に罪を擦り付けやがった!
ふざけんなよ、おかげでルートが逸れてロザリオの覚醒イベントが遠ざかったじゃないか。
なんとか、フォローを入れておかなければいけないな……。
「ハァ……わかりました。ロザリオの件については誤解があるようですので、後日我の口から詳細に説明しましょう……ですが今は忙しく……もうすぐ日が落ちる。また日を改めて……」
「何を言っている? ここは聖ブライトナイツ騎士学園だぞ。決闘を申し込まれたら即座に受けなければならない。それが絶対のルールだろう」
「……え? 即座? 今すぐですか?」
「今すぐだ!」
「どんなに忙しくても?」
「名誉を重んじる騎士にとって決闘は何よりも優先される!」
ズイッと勝気な意思を宿した丸い目が、念を押すように近づく。
絶対に逃げるな———と、その瞳に書いてある。
「……えぇ」
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