ねこまんま

空色フロンティア

ねこまんま

【浅草の裏路地】

「おい、チョビ助。」
 白昼裏通り。黒猫のゴロが、白猫のチョビ助に問いかけた。
「なんだ?ゴロ助」
 この二人はいつもこの浅草の何処かの路地裏で小話をしている。今日も例に漏れず、いつもの様に話しているのであった。
 今日はゴロが持って来た話の様だ。チョビ助はゴロの言葉に耳を傾ける。
「おい、知ってるか?少し小耳に挟んだだけの話なんだが、ニンゲンの料理に『ねこまんま』っていう奴があるらしんだ。」
 チョビ助は咄嗟に驚いた顔をした。
「えっ、ねこまんまって......」
 そのチョビ助の反応をみてゴロは少しニヤッと笑った。
「そう、俺自体はどんなものかも、まだ見た事は無いが恐らく、ネコをそのまんま使ったであろう料理。だから名前がねこまんまなんであろうと。」
 その言葉を聞き、チョビ助に戦慄が走る。
「ニャ!そりゃ恐ろしい話じゃ無いか。」
「だろだろ、俺も聴いた時はびっくりしたんにゃ。」
「えっ、それってさぁ、僕たちも対象なのかな?」
 チョビ助のその問い掛けに対し、ゴロはちょいと首を傾けた。
「.......さあな?」
 そしてそんな時、また別の野良猫が他所からやってきて、話に入って割り込んで来た。
 そのネコは茶色と白の模様の入ったネコ、タマだ。
「おお、君たち。久しぶりだね。なんの話をしてたんだい?」
「おお、タマ。今ちょうど『ねこまんま』の話をしていたんだけど......恐ろしいこと知っちゃって。」
「ええ?どんな事?」
 タマは少し余裕のある様な表情でいた。
「ニンゲンが僕たちネコを食べようと目論んでいるんだよ。」
 そう聞くと、タマは「やはりな」と言わんばかりにニヤリと笑って、頭を掻いた。
「.....二匹とも、正体見てみる?ねこまんまの真実。」
「!!」
「!!」
「ホ、ホンキなのかにゃわ?」
「まあ、まあいいから、いいから。ついてきな。」
 2人は何処か自信満々なタマにつれられ、とある民家に着いた。
 三匹は僅かな隙間を器用に通り、その家の庭にたどり着いた。
 そこには60ばかりなる夫婦が住んでいた。
 そこはタマが飼われている家であったのだ。
 そして、三匹は庭から耳を澄まして夫婦の会話を盗み聞きする。
「あー、すまんが腹が減ってしまった。」
「ええ、もうお昼ですもんねー。何か簡単なものをお作り致しましょうか?」
「じゃあ、ササっと食べられる『ねこまんま』を頂こうかな。」
「猫飯ですね。了解致しました。」
「ちゃんと鰹節もよろしくな。」
 そのやり取りをジーっと見つめる三匹の色違いネコ。
「ヒェッ、このままじゃ大変だ。何処かの猫が食べられちゃうよ。」
 ゴロはひとり、あわあわした様子で焦っている。まあ、無理もありません、この二匹は完全に勘違いしているのですから。
「まあ、黙って見とけって。もうすぐその正体がわかる筈だ。」
 妻が暫く経った頃、お米と味噌汁と鰹節をせっせっと持ってくる。
 そして、夫はご飯に味噌汁を掛けて鰹節をふりかけ、木の箸でそれを掻き込んだ。
「ふふふ、君たち驚いただろ。ねこまんまは料理名。ネコをそのまんま使った野蛮にゃ料理じゃ無いんだにゃ。」
 そうタマから聞くと二人はお互いを見つめ合い、暫くした時におもわず噴き出したのであった。


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