巻き込まれ召喚された聖女じゃない方は静かに森で暮らしたい

れおぽん

森で静かに暮らしたい

 私はラッキーアイテムに恋をしてしまった。

 正確には、森の精霊に、である。

 森の精霊であるからして、そやつは森に居るに違いない。

 だから、私は森に行きたかった。

「ダメよ、マリモ。危ないわ」

「そうです、マリモさま。森には魔獣が出ますから」

「オレが一緒に行ってあげようか?」

「ダメですよ、スノウさま。アナタでも一人では魔獣に敵いません」

「酷いなぁ、カーク神官。オレ、そこまで弱くないよ」

「いいえ、スノウさま。マリモさまにイイトコ見せたいのでしょうけど、危険な真似はおやめください」

「……」

 私の意見とは関係のない所で、森へ行くのは禁止されてしまった。

 土地勘のない異世界で勝手な行動をとるほど無謀ではない私は、王宮と神殿をブラブラしているだけの存在だ。

 そもそも、土地勘どころか生活のあらゆるものの勘所が分からないのだから仕方ない。

 私たちは高校の制服から全身を覆うワンピースのようなモノを着る生活になった。

 アリサは聖女らしく、真っ白なワンピースだ。

 神官たちが来ている服と似ているが、女性用だからか少し華やかなイメージ。

 私は一般女性なので、色々な柄やデザインのワンピースを着せられている。

 まさしく着せられている状態だ。

 着せ替え人形の如く、色々な服を着せられている。

 最初に着せられたドレスに、重い、と苦情を出したら軽いワンピースにしてくれた。

 お付きのメイドさんたちが、可愛い可愛いと褒めてくれるので嬉しい。

 だが、それはどうやら子供用のモノだったらしい。

 それを知って以降、可愛い可愛いと言われると複雑な気分になる。

 一応、お年頃の高2女子なので。

「今日のワンピースは黄色地に花柄の元気なデザインね。ソレも子供用かしら?」

「そうかもしれない。聞いてないから分からないけど。知りたかったらメイドちゃんたちに聞いて」

「ふふ。どっちでもいいわ。そのワンピース、似合ってるわよ」

「ありがとう。アリサも聖女の白いワンピース、似合っているよ」

「ふふっ。嬉しい。今日もマリモのために、頑張って浄化してくるわね」

「はいはい。気を付けて行ってらっしゃい、アリサ」

 アリサは張り切って聖女としてのお役目を果たしている。

 瘴気を払って貰えれば、私が森に行ける日も近くなる。

 ぜひ頑張って頂きたい。

『森に行く時には、私も一緒よ』

 ルンルンしながらアリサが言っていたような気もするが、気のせいだと思って忘れよう。

 あれから私の人気は、うなぎ登りである。

 神官であるカークや、聖者であるライからも結婚を申し込まれてしまった。

 一体何なんだアイツら。

「ご機嫌はいかがかな? 私のプリンセス」

「いつからお前のプリンセスになったんだっ。オレのだよ。ねぇ、マリモさま?」

「……」

 従弟同士で私を争う王太子殿下と護衛騎士。

 一体何なのコイツら。

 他にも、王族やら、貴族やら、騎士やら、商人やら。

 なんだか沢山の人たちに結婚を申し込まれたが知らん。

 なんなんだアイツら。

 結婚を申し込むより、元の世界に返すことを考えろよバカヤロウ。

 なんか疲れんな、この世界の人たち。

 この世界に染まったアリサも疲れるけどな。

『いいのよ、このまま私たち二人で暮らしましょう』

 とか、言ってたけど。

 女子高生二人暮らしは危ないだろう。

 魔物まで出るトコだぞ、ココ。

 そもそも、どうやって生活していくつもりなんだろう。

『いいわよ、そんなの。私が聖女として稼いでくるから』

 秒で馴染んだ聖女の立場で稼ぐ気満々のアリサ。

 うーん。仕事としては聖女はブラックなのかホワイトなのか。どっちだろう?

 報酬は……多分、良いとは思うけど。

 思うけどよ。聖女って、そもそも結婚相手として求められるんじゃないの?

 それこそ、王太子殿下であるアーサーとかに結婚申し込まれそうなんだけど。

 そう私が言ったら、昔はそうだったが今はない、と、説明された。

 なんでも、何代か前の聖女にセクハラで訴えられたとかで、王族と聖女の強制的な結婚は無くなったらしい。

 その代わり、聖女になった女性には、高い身分と報酬を与えることで立場を守れるようにしたとか。

 もちろん、後ろ盾は王族なんだけどね。

 神殿を後ろ盾にしちゃうと、無報酬でこき使うとか、危ないことになりかねないから、だってさ。

 神殿が勤め先で王族が身元保証人みたいな感じになるのかな。

 まぁ、お互いに見張り合う関係らしい。

 瘴気の浄化については順調に進んでいるようだ。

 王都から近い所の浄化は殆ど済んだから、これからは遠征も入ってくるらしい。

 一緒にご飯を食べられなくなるのは辛いけど、早く私が森の精霊に会いに行けるよう、アリサには浄化を頑張って頂きたい。

 森。

 森に行って、森の精霊と会って、いきなり恋に落ちちゃったらどうしよう?

 そしたら私、森に住むことになるのかなぁ。

 えー、住む所はどこ? ほら穴とか?

 森の精霊に関する本を色々と読んでみたけど、はっきりしたことは分からない。

 日本でいう所の神さまとか妖怪とか、そんな感じみたいなの。

 それだと実際しているかどうか、分からないよねぇ。

 目下の悩みはソレ。

 実在していない生き物には会えないからねぇ。うん。

「マリモさま、こんにちは」

「あっ、ライさま。こんにちは」

「私との結婚、考えて頂けましたか?」

「はははっ。まだ高校生ですから、結婚なんて無理です」

「ふふふ。この世界では16歳で成人ですから、結婚できますよ」

「うげっ」

「ふふふ。面白い顔」

「もうっ、ライさまってば。私のこと、からかって遊んでるでしょ?」

「ふふ。アナタをからかうのは面白いから」

「結婚のことも、からかってるんでしょ?」

「そっちは本気」

「うげっ」

「ふふふ。マリモさまの存在は、私たちの世界の癒しです」

「アリサには聖女の力。私には癒しの力?」

「そうです」

「そんな都合よく巻き込まれ召喚なんて出来るものかしら?」

「神のお導きですよ」

「……」

 この人、何の賢者なんだろう?

 私は世界で一番信用置けない疑わしいモノを見るような目つきで賢者ライを見つめた。


 それから半年ほど経った。

 私は結局、森で暮らせてはいない。

 そして、元の世界へ戻ることも出来てはいないのだ。

「マリモ―、行ってくるねー」

「はーい、いってらっしゃーい。アリサー、気を付けてねー」

 アリサは元気に聖女としてのお役目を果たしている。

 今日は遠征への出発日だ。

 近場の浄化は終わったので、今回は馬車で3日かかる村まで行くらしく移動だけでも大変な事になっている。

 瘴気の浄化もいずれは終わるだろうに、私たちの将来はあやふやだ。

 同級生たちは、大学受験にしろ、就職にしろ、忙しくしている頃だろう。

 高校二年生だった私たちも、向こうの世界にいれば三年生になっていたはず。

 私たちの未来は、どうなるのだろうか。

 このまま、この世界で暮らす?

 誰かこの世界の人と結婚して?

 半年過ぎた今でも、いま一つピンと来ない。

「マリモ。そろそろ色よい返事を聞きたいな」

 アーサー王子はそろそろと距離を詰めてきていて、現在、私は呼び捨てにされている。

 アリサに関しては、“さま” 付けは取れていない。

 このあからさまな距離詰めに、周囲は敏感に反応した。

「マリモ。良い返事をしたい相手はオレだよな?」

 従弟特権なのか、アーサーの次に呼び捨てしてきたのは騎士のスノウだ。

「私はどちらとも結婚するつもりはありません」

 ツーンとした澄ました顔をしてみたが、二人とも怯む様子はない。

 ぬしら、出来るな?

「いずれ結婚するなら、未来の王妃がいいだろう? マリモ」

 褐色の肌に金髪碧眼の王太子が笑顔で右側から迫る。

「いやいや。騎士の家庭を守る妻というのも、良い選択だと思うだろ? マリモ」

 褐色の肌に黒髪黒目の騎士が笑顔で左側から迫る。

「……」

 うーん。

 お二人が結婚相手としての優良物件なのは分かりますがね。

 私は森で静かに暮らしたいのです。

 できれば、森の精霊と一緒にね。

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