第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

089 野球部改革⑤

「では、何度か素振りしてくれますか?」
「……ああ。分かった」

 現在バッターボックスに立っているのは2年生の先輩。
 名前は河山宗徳。
 身長が高い上に非常に筋肉質で、【体格補正】のマイナス値が最も小さい。
 反面、投手系の適正地が全てGなので野手以外の選択肢はない。
 俺の頭の中の構想的にはバッティングでチームの中核を担って貰いたい人物だ。

「ありがとうございます」

 マウンドから何度かのスイングを確認し、頷いてから再度口を開く。

「じゃあ、1、2の3でフルスイングして下さい」
「……了解した」
「では、1、2の3!」

 振りかぶって、ど真ん中から少し外角寄りにスローボールを放る。

――カキンッ!!

 真芯で捉えたホームラン性の当たり。
 鍛えた筋肉と矯正されたスイングによって引っ張られた打球は大飛球となり、球場だったら柵を超えるに十分な飛距離を叩き出した。

 勿論、俺が制球力でそう仕向けたからこその会心の当たりだ。
 これは明彦氏のクラブチーム、村山マダーレッドサフフラワーズとの練習で大法さんに対してやったのとほぼ同じ手口になる。
 違いと言えば、いくら恵まれた体格とは言っても社会人程のパワーはさすがにまだないので、そこそこ力強くスイングして貰う必要があったことぐらいか。

「……ボールというものは、こんなに飛ぶものなんだな」

 打った感触に感動したように目を細め、転がるボールの行方を追う河山先輩。

「皆さん、体は相当鍛え上げられてますからね。芯を食えば、そりゃ飛びます」

 とは言え、当然ながらバッティングというものはとまっているボールを打つ訳でもなければ、お膳立てされた打ち頃の球を打つ訳でもない。
 実戦では相手の存在があるし、抑えようと渾身のボールを投げ込んでくる。
 それ故に、バッターが100%の能力を発揮できる状況は限りなくゼロに近い。
 球威。タイミング。コース。変化。
 そういったものに対応することができる高い技術力を都度要求されるから、ホームランなんてそうそう生まれはしない。
 ……まあ、当たり前のことだ。

 しかし、今は「当たれば飛ぶ」を実感して貰いたい。
 その感触を。その快感を。
 それらの虜になってくれれば、こちらの思う壺だ。
 なんて、やっぱり悪役みたいだな。

 いずれにしても。
 最後は彼らの胸の内次第となる。
 強要はしないし、できもしない。

「皆さん、お疲れさまでした。1週間経ちましたが、いかがですか?」

 やがて最終日の練習も終わりの時が来る。
 そこで俺は確認のために、整列した彼らにそう尋ねた。

「練習ぐらいなら、これからもやってもいいかもな」
「……そうだな」

 上村先輩と河山先輩が口にしたのは前向きな答え。

「野球部として活動するのも悪くないかもしれない」
「内申点もやっぱり野球部が1番だろうしな」

 他の筋トレ研究部の部員達もまた肯定的だ。
 フリーバッティングでいい当たりを連発させたり。
 投球練習でいい直球を投げ込むことができたり。
 やはりステップアップを明確に実感できたおかげだろう。

「皆さん、ありがとうございます。まあ、正式な異動のタイミングは虻川先生と山中先生の間で決まると思いますが、今後ともよろしくお願いいたします」
「ああ。これからも頼む」
「はい!」

 可愛い後輩っぽく元気に答え、その日は解散。
 あーちゃんと一緒に帰宅の途につく前に、部室棟の一室で書類仕事をしていた虻川先生のところに行って一先ず結果を報告する。

「そうか。それなら補助金の要件は満たせそうだな。まあ、要件の詳細はまだ正式決定してはいないようだがな」
「けど、筋トレ研究部の方は大丈夫なんですか? 12人、一気に抜けても」
「問題ない。その分、諸々優遇される。部費の配分が多くされたりな」
「……それ、生徒に聞かせていい話なんです?」
「悪いが、お前を普通の生徒とは思えないからな」
「何ですか、それ」

 不満を装うが、心の奥で苦笑する。
 転生したとまでは分からないだろうが、何かしら違和感を抱いたようだ。
 ちょっと活発に動き過ぎたかもしれない。

「それに、別に吹聴したりはしないだろう?」
「いや、まあ、そりゃそうですけどね」

 特に追究するつもりはないから、そっちも追究してくるなって感じか。
 それは別に構わない。

「とにもかくにも、俺としては筋トレ研究部とは協調していきたいので、わだかまりが残らないようであればよかったです」
「筋トレ研究部と協調?」
「はい。あそこは筋トレに関するノウハウが蓄積されてるようですからね。その辺りは利用したいところです」

 餅は餅屋。
 本格的なフィジカルトレーニングは知見があるところに教えを請いたい。
【成長タイプ:マニュアル】なら【経験ポイント】の割り振りでどうとでもなるだろうが、それ以外の場合は適切なトレーニングが必要になるからな。
 筋トレ研究部は、間違いなく今後この学校の野球部にとって必要不可欠な存在になってくるはずだ。
 少なくとも俺はそう思っている。
 俺達がここを卒業した後なんかは特に。

「成程な」

 少し納得したように虻川先生が頷く。

「後、プロ野球個人成績同好会とアマチュア野球愛好会の協力も欲しいですね」
「……彼らに何をさせようとしているんだ?」

 一転して彼は不審そうに首を傾げた。
 俺としては、そこまで難しいことは考えていない。

「彼らの得意分野で野球部の役に立って貰う。それだけのことです。自発的に動いてくれるといいんですけど……」

 彼らの反応を思い返すと、そうもいかなさそうではある。
 過度な期待は厳禁だ。
 と言うか、とっとと指示した方が早いかもしれない。
 けれど、自分で答えを得て実行した方がモチベーションは段違いだろう。
 悩ましいところだ。

「……まあ、もう少し様子を見ましょう」

 補助金の要件次第では、彼らの重要度は天と地程に変わってくるだろうからな。

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