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第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

086 野球部改革②

 日付は変わり、また新しい1日が来る。
 我が校の野球部にとって新たな始まりとなるかもしれない日だ。
 とは言え、授業はそこにほとんど関係してこない。
 頭の中で今日の算段をしながら適当に聞き流し、放課後を待つ。

「起立。気をつけ。さようなら」
「さようなら」

 ホームルームの時間が終わってすぐ教室を出て、一旦皆と共に部室へと向かう。
 そこで少し待って虻川先生と合流し、それから俺は本日の目的地を目指した。
 行き先は筋トレ研究部の活動場所。体育館の3階だ。
 虻川先生の他に同行者はあーちゃんのみ。
 後は美海ちゃん主導で基礎的な練習をする予定だ。

「……むさ苦しい」

 体育館3階のコートに入り、部員達の様子を見たあーちゃんが小さく呟く。
 部室棟に寄ってからきたので、その間に既に活動が始まっていたようだ。
 中高合わせて総勢80人ぐらいが各々筋トレをしている。
 体育館が広いので人口密度は割と低めだが、視覚的な圧が中々に強い。
 あーちゃんはちょっとひるんでしまったようだ。
 いつの間にか俺に身を寄せて、制服の裾を掴んできていた。
 その手に軽く触れて宥めておく。

「山中先生、少しよろしいですか?」

 と、虻川先生が部員達を見守っているジャージ姿の男性教諭に声をかけた。
 山中先生と呼ばれた彼は、確か別学年の体育を担当している先生だったはずだ。
 しかし、丁寧な口調もできるんだな。虻川先生。
 いや、社会人なら当然だけど。

「虻川先生? どうかしましたか?」
「部活動中、申し訳ありません。少し相談したいことがありまして……」

 チラッとこちらを見る虻川先生。
 それを受けて、俺は一歩前に出て口を開いた。

「この度は、筋トレ研究部の部員の方にどうにか高校野球部として活動していただけないか、お願いに参りました」
「……君は?」
「プロ野球珍プレー愛好会改め中学野球部になる予定の野村です」
「現在、中学校側は彼を始めとしたプロ野球珍プレー愛好会の生徒が一般的な野球部として活動する方向で検討しています」

 俺の簡潔な自己紹介に続き、僅かに補足するように虻川先生が続く。

「ですが、プロ野球珍プレー愛好会には高校生がいないので助けを借りたく」
「……しかし、他にも同好会があったはずでは?」

 山中先生が首を傾げながら問う。
 まあ、当然の質問だな。

「はい。それはそうですが……」
「彼らは望み薄です。気質が完全に文化部系なので」

 虻川先生が少し言いにくそうだったので、代わりに答える。
 一応、フォローっぽい言葉もつけ加えながら。

 実際、嗜好の問題も多分に含まれているだろう。
 好きでもないものに無理矢理参加させられることは苦痛を伴うものだ。
 労苦の大きい活動であれば尚のこと。
 体育会系のノリについていくのは、インドア派には難易度が高過ぎる。

「まあ、もし協力を求められたら可能な限り対応するようにとの通達も出ていましたし、邪魔はしませんが……生徒の意思を尊重するようにはして下さい」
「それは勿論。続かなければ何の意味もありませんから」
「であれば、どうぞ。個々人と交渉して下さい」

 山中先生は筋トレ研究部の生徒が野球部に加わることはないと考えていそうだ。
 やはり、それだけ部員達の野球に対する苦手意識が強いのかもしれない。

「とりあえず、少し練習風景を見せて貰ってもいいですか?」
「ええ。構いませんよ」

 お言葉に甘えて、体育館の中をあーちゃんと共に動いて回る。
 勿論、活動の邪魔をしないように注意しながら。

「……結構、バランスよく鍛えてる人が多いんですね」
「ええ。ここはあくまでも筋トレ研究部であって、ボディービル部ではありませんからね。各スポーツに対応できるトレーニング方法も模索しています」

 後ろからついてきていた山中先生に話しかけると、彼は部の説明をしてくれた。
 筋肉には体の表層にあるアウターマッスルと奥にあるインナーマッスルがある。
 今生、あーちゃんのスマホで筋トレの動画を見せて貰って学んだことだ。

 ボディービルダーが中心的に鍛えるのはその内のアウターマッスルで、口さがない人は見せ筋などと揶揄したりもする。
 部活動紹介で魅せる筋肉と言っていたのは、正にこれのことだろう。
 とは言え、瞬発力に関わる速筋を多く含む傾向にあるため、当然のようにあらゆるスポーツ選手にとっても大事な筋肉だ。
 逆にインナーマッスルの方は遅筋を多く含むとされ、持久力に関わってくる。
 ただし、野球の場合はピッチャー以外持久力が必要な状況がほぼないので、速筋を中心的に鍛えるべきという論もあるようだ。

「あーちゃん、メモの用意をお願い」
「ん」

 体育館3階で行われている筋トレの隙間を縫ってコートを歩いていく。
 その中で十数人、見どころのあるステータスの生徒がいた。

「山中先生、あの人の名前は何ですか?」
「ああ。彼の名前は――」

 今後野球部として活動しても支障が出なさそうな人の名前を、逐一あーちゃんに記録して貰いながらリストを作成していく。
 一先ずはそこからだ。
 そして――。

「山中先生、ここに記載されている方を集めていただけますか?」

 まずは彼ら自身と交渉する必要がある。
 そのために、俺はリストを山中先生に手渡したのだった。

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