第3次パワフル転生野球大戦ACE
079 大松君の相談
6月。梅雨の季節の中で珍しくよく晴れた日の放課後。
「野村君、ちょっといいかい?」
そろそろ部室に向かおうかと思ったところで、大松君に呼びとめられた。
「どうした?」
「いや、ちょっと相談があってサ」
小声で言いながら、彼はチラチラと4人組を見る。
うーむ。分かり易い。
間違いなく、相談の内容は彼女達に関することだろう。
「先に行ってるねー」
泉南さんがひらひら手を振って、他の3人と共に教室を出ていく。
大松君はそれを確認してから、俺達と向き直った。
「で、相談って?」
「ああ、ええと……同じ部活に入って早1ヶ月、何の進展もなく、どうすればいいのか分からなくてサ」
「いや、進展も何も。貴方、何のアプローチもしてないじゃない」
冷酷無比にバッサリと一刀両断する美海ちゃん。
だけど、まあ、それはそう。
彼女達がいるところでは借りてきた猫のようになる大松君。
この1ヶ月でやっていたことと言えば、同じ空間で彼女達を盗み見ることだけ。
そんなので進展するのなら、この世に片思いなんてものは存在しないだろう。
「折角顔を合わせてるんだから、声をかけなさいよ。下手すると、あの子達の中で印象に残ってないかもしれないわよ?」
「いやあ、それは、分かってはいるんだけどサ」
恥じ入るように頬をかく大松君。
「どうにも尻込みしちゃってサ」
それから軽く肩を竦めた彼に、美海ちゃんがイラっとしたのが分かる。
【以心伝心】はなくとも、彼女とも長いつき合いだ。
ちなみに、あーちゃんは当然のように無関心だ。
虚空を見詰めている。
昇二は自分にはどうしようもできないと主張するように黙したまま困った顔だ。
「はあ……もう諦めたら?」
美海ちゃん自身も諦めたように突き放す。
気持ちは分からなくもない。
「そう言わずに! そこを何とか!」
両手を合わせて拝みながら食い下がる大松君。
その積極性は俺達にではなく彼女達に向けるべきだ。
成否はともかくとして。
まあ、とは言え、だ。
アドバイスの1つや2つ、したところで別に減るものじゃないだろう。
正否はともかくとして。
「……まあ、根本的に大松君は自分に自信がないんだろう。だから、意中の相手を前にすると自分を出せなくなるんだ」
「自信がない? むしろ過信しかないように見えるけど」
美海ちゃんが辛辣で思わず苦笑する。
大松君が4人組の中の誰を好きなのかまでは知らないけど、誰であっても釣り合いが取れないと思っているのだろう。
まあ、実際そういう観点だと過信していると言えなくもない。
「うーん。自信だと語弊があるか。弱気が顔を出した時に拠り所になるような芯がないんだ。だから、いざと言う時に腰が引けてしまう」
何かこれって言う絶対的なものが自分の中にありさえすれば、誰の前であっても堂々としていられるはずだ。
逆に前世の俺なんかはそれこそ芯がなく、卑屈に惰性で生きているだけだった。
ハッキリ言って恋愛どころの話じゃなかった。
なので正直、前世の俺は彼に偉そうに言える立場じゃない。そう思う。
だが、だからこそ分かる部分もある。
「芯……」
「そう。芯」
「それは、どうすれば得られるんだい?」
「まあ、人によるだろうけど」
この野球に狂った世界ならば、当然最も分かり易いのは――。
「そりゃ、野球がうまくなれば芯になるんじゃないか?」
俺の言葉に微妙な顔になる大松君。
一般論ではあるけれど、無理難題は正答にはならない。
そう言いたげだ。
「この中学校に入学した子にそれは酷じゃない?」
合いの手を打つように美海ちゃんが問う。
別に大松君をフォローした訳ではなく、生徒全般の話だな。
「俺の見立てだと、大松君はうまくなる素質があると思うけどな」
「……小学校で何をしてもうまくならなかったのにか?」
普段とは違い、声色に苛立ちを滲ませる大松君。
多分に漏れず、という奴だ。
それこそ【成長タイプ:マニュアル】ならば彼に限ったことではない。
「それは単に、指導者との相性が悪かっただけだ」
指導者の指導が悪いとは言わない。
むしろ【成長タイプ:マニュアル】を教えるとか、罰ゲームに近い。
【マニュアル操作】がなければ、どんな名コーチでも成長させられないのだから。
しかし、【マニュアル操作】を持つ者が近くにいれば、全てがガラリと変わる。
「なあ、昇二」
「そうだね。僕達もリトルでは全く上達しなかったけど、秀治郎のおかげでうまくなって、兄さんなんか東京プレスギガンテスのジュニアユースチームに入ったし」
「ジュ、ジュニアユースに!? それは、本当なのか!?」
「本当のことだよ。瀬川正樹。聞いたことない?」
「聞いたこと、ある。同じ県、同じ学年のクラブ活動チームが全国優勝したって話の中で。原動力になった選手がそんな名前だったはず。……え? それが――?」
「僕の兄さんだよ」
「それを教えたのが、野村君……?」
「そういうこと」
昇二の迷いのない返答で、俺の言葉の真実味が増したのか大松君は縋るような視線を向けてくる。
彼もまたこの世界の住人。
可能であれば、野球で身を立てたいという気持ちはあったのだろう。
「じゃあ、俺の指導、受けてみるか?」
「ああ! 頼む!」
一定の信用は得られた様子。
これで僅かでも明確な成果が出れば、確かな信頼に変わるはずだ。
そして、行く行くは世界でも通用するぐらいに仕上げてみせよう。
「……ところで結局、誰が好きなんだ?」
「それは秘密サ!」
調子を取り戻した大松君。
そんな彼を見て、美海ちゃんがイラっとした顔になっていた。
「野村君、ちょっといいかい?」
そろそろ部室に向かおうかと思ったところで、大松君に呼びとめられた。
「どうした?」
「いや、ちょっと相談があってサ」
小声で言いながら、彼はチラチラと4人組を見る。
うーむ。分かり易い。
間違いなく、相談の内容は彼女達に関することだろう。
「先に行ってるねー」
泉南さんがひらひら手を振って、他の3人と共に教室を出ていく。
大松君はそれを確認してから、俺達と向き直った。
「で、相談って?」
「ああ、ええと……同じ部活に入って早1ヶ月、何の進展もなく、どうすればいいのか分からなくてサ」
「いや、進展も何も。貴方、何のアプローチもしてないじゃない」
冷酷無比にバッサリと一刀両断する美海ちゃん。
だけど、まあ、それはそう。
彼女達がいるところでは借りてきた猫のようになる大松君。
この1ヶ月でやっていたことと言えば、同じ空間で彼女達を盗み見ることだけ。
そんなので進展するのなら、この世に片思いなんてものは存在しないだろう。
「折角顔を合わせてるんだから、声をかけなさいよ。下手すると、あの子達の中で印象に残ってないかもしれないわよ?」
「いやあ、それは、分かってはいるんだけどサ」
恥じ入るように頬をかく大松君。
「どうにも尻込みしちゃってサ」
それから軽く肩を竦めた彼に、美海ちゃんがイラっとしたのが分かる。
【以心伝心】はなくとも、彼女とも長いつき合いだ。
ちなみに、あーちゃんは当然のように無関心だ。
虚空を見詰めている。
昇二は自分にはどうしようもできないと主張するように黙したまま困った顔だ。
「はあ……もう諦めたら?」
美海ちゃん自身も諦めたように突き放す。
気持ちは分からなくもない。
「そう言わずに! そこを何とか!」
両手を合わせて拝みながら食い下がる大松君。
その積極性は俺達にではなく彼女達に向けるべきだ。
成否はともかくとして。
まあ、とは言え、だ。
アドバイスの1つや2つ、したところで別に減るものじゃないだろう。
正否はともかくとして。
「……まあ、根本的に大松君は自分に自信がないんだろう。だから、意中の相手を前にすると自分を出せなくなるんだ」
「自信がない? むしろ過信しかないように見えるけど」
美海ちゃんが辛辣で思わず苦笑する。
大松君が4人組の中の誰を好きなのかまでは知らないけど、誰であっても釣り合いが取れないと思っているのだろう。
まあ、実際そういう観点だと過信していると言えなくもない。
「うーん。自信だと語弊があるか。弱気が顔を出した時に拠り所になるような芯がないんだ。だから、いざと言う時に腰が引けてしまう」
何かこれって言う絶対的なものが自分の中にありさえすれば、誰の前であっても堂々としていられるはずだ。
逆に前世の俺なんかはそれこそ芯がなく、卑屈に惰性で生きているだけだった。
ハッキリ言って恋愛どころの話じゃなかった。
なので正直、前世の俺は彼に偉そうに言える立場じゃない。そう思う。
だが、だからこそ分かる部分もある。
「芯……」
「そう。芯」
「それは、どうすれば得られるんだい?」
「まあ、人によるだろうけど」
この野球に狂った世界ならば、当然最も分かり易いのは――。
「そりゃ、野球がうまくなれば芯になるんじゃないか?」
俺の言葉に微妙な顔になる大松君。
一般論ではあるけれど、無理難題は正答にはならない。
そう言いたげだ。
「この中学校に入学した子にそれは酷じゃない?」
合いの手を打つように美海ちゃんが問う。
別に大松君をフォローした訳ではなく、生徒全般の話だな。
「俺の見立てだと、大松君はうまくなる素質があると思うけどな」
「……小学校で何をしてもうまくならなかったのにか?」
普段とは違い、声色に苛立ちを滲ませる大松君。
多分に漏れず、という奴だ。
それこそ【成長タイプ:マニュアル】ならば彼に限ったことではない。
「それは単に、指導者との相性が悪かっただけだ」
指導者の指導が悪いとは言わない。
むしろ【成長タイプ:マニュアル】を教えるとか、罰ゲームに近い。
【マニュアル操作】がなければ、どんな名コーチでも成長させられないのだから。
しかし、【マニュアル操作】を持つ者が近くにいれば、全てがガラリと変わる。
「なあ、昇二」
「そうだね。僕達もリトルでは全く上達しなかったけど、秀治郎のおかげでうまくなって、兄さんなんか東京プレスギガンテスのジュニアユースチームに入ったし」
「ジュ、ジュニアユースに!? それは、本当なのか!?」
「本当のことだよ。瀬川正樹。聞いたことない?」
「聞いたこと、ある。同じ県、同じ学年のクラブ活動チームが全国優勝したって話の中で。原動力になった選手がそんな名前だったはず。……え? それが――?」
「僕の兄さんだよ」
「それを教えたのが、野村君……?」
「そういうこと」
昇二の迷いのない返答で、俺の言葉の真実味が増したのか大松君は縋るような視線を向けてくる。
彼もまたこの世界の住人。
可能であれば、野球で身を立てたいという気持ちはあったのだろう。
「じゃあ、俺の指導、受けてみるか?」
「ああ! 頼む!」
一定の信用は得られた様子。
これで僅かでも明確な成果が出れば、確かな信頼に変わるはずだ。
そして、行く行くは世界でも通用するぐらいに仕上げてみせよう。
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