第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

075 指導的フリーバッティング

「あ、ああ」

 助言を申し出た俺に対し、大法さんは戸惑いながら頷く。
 まだ動揺の色が濃く、判断力が低下しているのだろう。
 疑問を抱かれる前に、このまま勢いで押し切ってしまおう。

「じゃあ、もう一度バッターボックスに立って貰えますか? 新垣さんも、キャッチャーをお願いします」
「わ、分かった」
「ああ……」

 半ば呆然としながら、それぞれ所定の場所につく2人。
 よしよし。
 ……っと、あーちゃんがさりげなくピッタリくっついたままだったな。
 申し訳ないけど今は離れていて貰わないと。

「あーちゃん、おじさんのとこに行ってて」
「ん」

 彼女が素直に明彦氏のところに戻るのを確認し、俺も再びマウンドに向かう。

「大法さん、目を瞑って何回かスイングして貰えますか?」
「こ、こうか?」

 視界を閉ざしたためか、フリーバッティングや1打席勝負の時よりもスイングに力強さはなくなった。
 しかし、それでもステータスの高さのおかげで結構鋭い振りにはなっていた。
 と言うか、さっきまでが明らかに力が入り過ぎてたんだけどな。
 ……うん。これだったら十分いけるだろう。

「はい。そのまま続けていて下さい」

 言いながら、新垣さんに合図を出して振りかぶる。
 繰り返されるスイングのタイミングをよく見極めて……。
 1、2の3!

――カァン!

「うおっ!?」

 急に腕に力が加わり、大法さんは驚いたように声を上げて目を見開いた。
 音と感触で自分がボールを打ったことは理解したのだろう。
 彼はキョロキョロと打球の行方を捜し始める。

「は、入った」
「入ったあ?」

 新垣さんの愕然とした声に、大法さんは彼を振り返る。

「レフトスタンドに……ホームランだ」
「はあっ!?」

 声を一層大きくしながら、レフトスタンドに顔を向ける大法さん。
 しかし、既にボールは観客席のどこかに転がって見えなくなってしまっていた。
 打球が大法さんの目に映ることはない。
 彼は信じられないといった表情で、他のチームメイトに視線で真否を尋ねた。

「本当です。綺麗なホームランでした」
「ほ、本当に……」

 尾高コーチにも言われ、確かめるように自分の手を見る。
 俺はステータスとスキルに裏打ちされた高いコントロールで、半速球をスイングのタイミングに合わせてバットの真芯目がけて正確に投げ込んだ。
 大法さんは目を瞑ったままボールの中心から少し下をうまいこと引っ張り気味に叩き、結果として完璧なホームランとなった。
 その感触はこれまでになくよいものだっただろう。

「大法さんはちょっと力み過ぎです」
「り、力み過ぎ?」
「はい。大法さんの場合は、それぐらい力を抜いていてもうまく当たればホームランになります。飛ばすことを意識し過ぎるから、空振りが多くなるんです」
「いや、でもな……」
「野球は打球速度や飛距離を競ってる訳じゃありません。フェンスギリギリで入っても、場外まで飛ばしても同じホームランです」

 勿論、フェンスギリギリだと外野手のファインプレイでホームランキャッチされてしまう可能性もなくはない。
 打球速度も速い方が相手の対応できる守備範囲も狭くなるし、打球判断の時間も短くなるからヒットになり易い。
 とは言え、それは全てボールにしっかり当てることができた上での話だ。
 大法さんの場合はそれ以前の問題。
 大前提として、まず当てなければならない。

 だが、逆に当たりさえすれば彼のパワーで打球速度も飛距離も十分出る。
 たとえミート重視の軽いスイングであってもだ。

「うーん……」

 これまで力を込めてスイングしてきた大法さんとしては、即座に納得できるような話ではないのだろう。
 しかし、論より証拠。
 実体験に勝る根拠はない。
 大法さんは先程のスイングを確認するように、バットをゆったりと振る。

「もう少しやってみますか?」
「い、いや……」
「ですか。では、もう少しアドバイスを。大法さんはバッティング練習でも力まないスイングを意識してミートを重視した方がいいと思います」

【成長タイプ:マニュアル】じゃないなら、上げたい能力に応じた練習が必要だ。
 気持ちよく打つだけだと、彼の能力値ではステータスの向上は見込めない。
 だったら、【Bat Control】を鍛えることに主眼を置いた方がいい。

「勿論、あくまでバッティング練習だけの話です。筋力トレーニングとかは疎かにしちゃ駄目ですよ?」
「あ、ああ。筋トレは趣味だからな。問題ない」

 畳みかけられて狼狽してか、余計な個人情報まで口走る大法さん。
 しかし、成程。
 その肉体は好きが高じた結果、という訳か。
 まあ、悪くないことだ。
 いや、むしろ素晴らしい。
【Swing Power】を維持したまま【Bat Control】を上げることができれば、鬼に金棒、弁慶に薙刀だ。

「あ、それと。2ストライクになると力みが酷かったので、可能な限りノーストライクか1ストライクの段階で打ちに行った方がいいですよ」
「そ、そうか?」

 僅か1打席でそこまで分析されたことに少し首を傾げる大法さんだが、薄々自覚していたのか考え込んでしまう。
 彼に余計な疑問を抱かれる前にさっさと次に進むとしよう。

「よければ、他の方も勝負してみませんか? もしかしたら助言できることがあるかもしれませんし」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品