第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

063 勧誘成功と失敗

 まずは本命。
【生得スキル】【天才】と【模倣】を持つ磐城巧君からだ。
 席は五十音順なので、廊下側の列にいる。
 学食派らしく昼休みに入るとすぐ食堂に行くが、もう戻ってきている。
 余り時間がかからないものを食べているようだ。
 今は席に座って参考書を読んでいる。
 ただ、ガチの勉強という訳ではなく、軽く目を通しているだけって感じだ。

「磐城君」

 呼びかけると、彼はやや不審そうに顔を上げる。
 何故話しかけられたのか分からず困惑しているようだ。

「ええと……」
「俺は野村。野村秀治郎」
「ああ。野村君。僕に何か用かい?」

 物腰は穏やかだ。
 切り替えたように愛想笑いの微笑みを浮かべている。
 だが、目の奥には空虚さが漂っていた。
 既に夢破れ、惰性で生きているかのような気配だ。

 ……これは、俺の予想が当たってるのかもな。
 まあ、今は話を進めよう。
 何の用かと言えば。

「部活の勧誘。幽霊部員でもいいから入って貰えないかと思って」
「僕がかい?」
「磐城君はまだ部活に入ってないだろ?」
「……まあね」

 彼は少し遅れて肯定し、それから少し考え込んだ。

「野村君はどこに入ったんだい?」
「プロ野球珍プレー愛好会」
「え」

 俺の答えに目をしばたかせる磐城君。
 頭の中になかった答えだったようだ。

「あ、ああ……あの、空中イレギュラーの動画で部活紹介してた」

 戸惑い気味の彼に「そうそう」と頷いて肯定する。
 しかし、よくすんなり空中イレギュラーなんて単語が出てきたな。
 この世界でも頻繁には耳にしない現象なのに。
 いや、今はそれはいいとして。

「大分緩々な部活だし、野球部の括りだから内申点も他の活動的で実績がある部活並。気晴らしにグラウンドで体も動かせる。どうかな?」
「内申点、か。それに……」
「それに?」
「……いや、何でもないよ。そうだね。悪くないかもしれない」

 誤魔化すように少し早口になった磐城君は、僅かに目を伏せて「正直、どこでもよかったからね」と呟くように続ける。

「じゃあ、放課後。顧問の先生のところに行こう」
「分かった」

 磐城君は穏やかに頷くと、再び参考書に視線を戻した。
 一旦、俺達も席に戻る。

「私達、いらなかったわね」
「すんなり行き過ぎてビックリした」

 恐らく、本当にどこでもよかったのだろう。
 あの穏やかさは、ある種の諦めによるものだ。
 中学1年生がそんな風になってしまうのは、間違いなく周りが悪い。
 本人のせいではない。
 大人が手を差し伸べるべき子供だ。
 前世の記憶を持つ者として、打算的に利用しようとしている身として、俺も一助とならなければならない。

 しかし、そうするのはもう少し親しくなって事情を聞き出してからだ。
 今はとりあえず仲間を1人確保できたことを喜んでおくに留めておこう。

「この調子で、次に行こうか」

 今度も4人で大松勝次君の席へと向かう。
 彼の席も廊下側。その1番後ろだ。
 こっちは弁当派で、食べ終わったらうつ伏せで寝た振りをしていることが多い。
 何故寝た振りだと分かるかと言えば、時折4人の女子を盗み見ているからだ。

「大松君」
「何だい、俺も勧誘かい?」

 声をかけるとすぐに顔を上げ、軽い調子で尋ねてくる。
 同じ列だけに、磐城君との会話に聞き耳を立てていたようだ。

 寝ていないことを自らバラしていくスタイル……。
 まあ、いいけど。

「ああ。大松君もプロ野球珍プレー愛好会に入らないか?」
「いや、悪いんだけどサ」

 色よい返事ではないのはともかく、返答の早さに驚く。
 たとえ断られるにしても、少しは考える素振りを見せると思ったのだが。

「もしかして、もうどこかに決めてるの?」

 面を食らって思わず言葉を詰まらせた俺の代わりに美海ちゃんが尋ねる。

「いや、まだ決めてない」
「だったら――」
「まだ決めないことを、決めてる」
「はあ?」

 意味が分からないとばかりに首を傾げる美海ちゃん。
 謎かけか?

「え……っと、どういうこと?」

 混乱したように昇二が問いかける。
 ファンキー過ぎて4人の内3人も困惑の渦に叩き込まれてしまった。
 あーちゃんは虚無顔だ。

「結局、どうしたいんだ?」
「簡単簡単。彼女が入る部活に……俺も入るのサ!」

 最初若干小声で言い、それから決め顔を作って告げる大松君。
 一瞬だけ視線が昇二の周りの席のあの4人に向いていた。
 ……つまり、彼女達が入る部活に入ろうとしているのか。
 これはまた、難儀な。

 彼を説得するには、あの子達を先に勧誘する必要がある訳か。
 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、みたいな。
 ゲームの仲間集めのフラグ立てじゃあるまいし、本当に突飛な奴だな。

「そ、そうか。……まあ、頑張ってくれ」
「おうとも」

 勧誘する空気でなくなってしまったので、この場は一先ず離れる。
 勿論、諦めた訳ではない。
 戦略的撤退だ。
 とにかく一旦、説得の仕方を考え直そう。

 とまあ、こんな感じで。
 今日の勧誘チャレンジは1勝1敗という結果に終わったのだった。

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