第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門

051 異世界公園事情

 中学校の入学式を明日に控えた春休み最後の日。

「おはよう、美海ちゃん」
「おはよう、秀治郎君。茜」

 家から少し離れたところにある公園に俺達は集合していた。
 ……ああ、いや。まだ揃っていない。
 1人足りない。

「遅れてごめん!」
「いや、時間ピッタリだよ。昇二」

 慌てて走ってきた彼に、手をひらひらさせて問題ないと伝える。
 1番早く来たのは委員長気質のある美海ちゃんだ。
 10分前には来ていた様子。
 俺とあーちゃんは5分前の到着。
 当然と言うべきか、鈴木家を経由して一緒に来た。
 毎度セットで現れる俺達に美海ちゃんが呆れ顔になるのもいつものことだ。

「さて、まずアップしようか」

 軽く伸びをしながら公園の空いている一区画に4人で向かう。
 ネットが重なっている部分を捲って中に入る。
 それから持ってきた野球道具を地面に置いて柔軟を始めた。

「にしても、いつ見ても不思議だな……」
「しゅー君、どうしたの?」

 俺の小さな呟きに反応するあーちゃん。
 住宅地の中に突然現れる緑色のネットで遮られた空間。
 奇妙な光景だが、それは前世を持つ転生者故の感覚だった。
 なので。

「いや、昔は一般公園で練習してたこともあるって信じられなくてさ」

 この世界の常識に沿った形で誤魔化しておく。

 前世で公園と聞いてイメージするものとは程遠い形の公園。
 遊具はなく、背の高いポールがいくつも立っていてネットが張られている。
 それによっていくつか区画が区切られており、それぞれにマウンドと左右のバッターボックス、ホームベースが設置されている。
 公園の中でも野球公園という名前で区分されているものだ。
 ちなみに、普通の遊具がある公園は一般公園と呼ばれている。
 この野球に狂った世界では、野球公園の方が一般公園より少し数が多いようだ。

 一般人でも使用できる屋内野球練習場も多数存在しているが、そちらは有料。
 野球公園は公営で使用料が無料なので、とても助かっている。
 ただし、その代わり設備は最低限だ。
 道具も持ち込みになる。

「そうよね。一般公園で野球するなんて危な過ぎるもの」

 俺の言葉に同意する美海ちゃん。
 前世と同じく、昔は公園で野球をするのは普通のことだった。
 しかし、これまた前世と同じく、次第に危険な行為と認識されるようになった。
 まあ、仕方のない流れではある。

 とは言え、ここは野球に狂った世界。
 子供が野球をしたいというのに、その機会を損失させるのは国益に反する。
 となった時、国はパワープレイに出た。
 だったら野球に特化した公園を作ればいいじゃない、と。
 そうしてできあがったのが野球公園。
 前世なら箱もの批判が出そうなぐらい乱立している。
 が、何せここは野球に狂った世界。
 税金の無駄遣いという批判もなくはないが、主流ではない。
 野球狂神の補正によって少数派として黙らされている。
 おかげで、俺達もこうして伸び伸びと練習できる訳だ。

「よし。じゃあ、バッティング練習からだ」

 俺がマウンドに上がり、キャッチャーはあーちゃん。
 美海ちゃんと昇二のどちらか一方が打席に立ち、もう1人は俺の後方で球拾い。

「ストレートからローテーションで行くぞ」

【経験ポイント】にものを言わせて習得した変化球も一通り投げていく。
 俺は【怪我しない】のおかげで、どれだけ投げても消耗しない。
 まあ、疲れはするけど、【Total Vitality】カンストは伊達じゃない。
 壊れることがないし、金のかからない高級バッティングマシンのようなものだ。
 これに関しては名門校以上の練習環境を提供できると自負している。

「秀治郎、シュートを中心に投げてくれる?」
「ああ、分かった」

 昇二のリクエスト通り、シュートを多投する。
 感覚に違和感があったのだろう。
 しかし、それも何度か投げるとステータスとスキルの補正がしっかり機能する。
 うまく腕を畳んで弾き返すことができるようになっていた。

 勿論、実際の打席では投げて欲しい球を投げてくれる訳じゃない。
 結果、感覚は微妙に狂っていき、それが蓄積されると打てなくなる。
 ただ、【成長タイプ:マニュアル】の場合、こうして同じ球を続けて投げてやれば補正が入って違和感は解消される。
 検証すればする程、【成長タイプ:マニュアル】はチートだな。
【生得スキル】【マニュアル操作】がなければデメリットしかないけど。

「次はノックだ」

 あーちゃんに球出しをして貰い、俺がノッカーを務める。
 今度は先に美海ちゃん。
 捕球できるギリギリに打球をコントロールし、彼女を左右に振る。
 人が咄嗟に動ける分+αぐらいの広さは各区画にあるので問題はない。

「……何か急にうまくなった気がするわ」
「前回の練習が身になったんだろう。学習しただけだと不十分で、その後グッスリ眠るとちゃんと定着するって聞くしな」

 まあ、【成長タイプ:マニュアル】には余り関係ない話だけど。
 実際は【経験ポイント】を割り振り、守備系のスキルを取得したのが理由だ。
 今のところ、ステータスをまだ上げていない。
 時間経過による減少分を補填するぐらいだ。
 本格的にステータスを上げるのは、多分高校3年生になってからだ。

「よし。今日の練習はこんなとこか」
「次は中学校のグラウンドかしらね」
「あそこの野球部でまともな練習できるのかなあ……」

 まだ不安そうな昇二。
 申し訳ないけど、スタンダードな練習は余りできないだろうと思う。
 だが、だからこそ俺達に必要な練習もできる。
 俺はそう考えている。

「まあ、俺を信じろ」
「はいはい」
「う……うん」

 ちょっと怪しげな返答だが、信頼してくれていることは分かっている。
 素直に答えるのが恥ずかしいお年頃なのだ。
 しかし、ステータスに表示される好感度は嘘をつかない。
 長期休みの間も俺の指示通りに怠けず運動し、【経験ポイント】を毎度しっかりと稼いできてくれているのも1つの証拠だ。
 そんな2人の気持ちを裏切らないようにしなければならない。

「しゅー君、一緒に頑張ろ?」

 知らず固く握っていた拳に触れて言うあーちゃんに頷き、少し力を抜く。
 ……よし。
 次のステージ。言うなれば、中学高等学校編。
 気合を入れていくとしよう。

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