第3次パワフル転生野球大戦ACE
045 一躍時の人
全国小学6年生硬式野球選手権大会が終わっても練習はある。
あくまでも学習指導要領に定められたクラブ活動の一環なのだから当然だ。
まあ、中学生で野球から離れるつもりの子はもう適当にしかやってないけどな。
で、U12ワールドカップも終わったある日の放課後のこと。
「こんにちは、瀬川正樹君」
練習中の俺達のところへ来客があった。
スーツを着た大人の男性。
隣にはすなお先生がいるので、とりあえず不審者ではなさそうだ。
「私は東京プレスギガンテスのジュニアユースチームの者です」
懐から名刺を取り出し、正樹に渡す男性。
チラッと盗み見る。
そこには東京プレスギガンテスジュニアユースチームスカウトと書かれていた。
「君をチームに迎え入れたくてね。まずは挨拶を。日を改めてご両親にも説明をしたいから、これを渡して貰えるかな」
男性は更にビジネスバックから封筒を取り出して差し出す。
案内の書類が入っているのだろう。
東京プレスギガンテスは公営の名門プロ野球チーム。
その傘下のユースチームの更に下部の組織。
ジュニアユースチームからのお誘いだ。
前世だとサッカーの方で一般的なシステムだが、この野球に狂った世界だと野球でも広く当たり前に採用されている。
「君には是非、特待生として私達のチームに入って欲しいんだ」
聞き耳を立てていた周りの子から「凄い!」という声が上がる。
正樹も満更でもないような顔。
嬉しさを隠し切れていない。
実際、男性が帰った後にはガッツポーズしていたぐらいだ。
まあ、正樹に誘いが来るのは当然の帰結だ。
少なくとも野球界において、正樹は一躍時の人となった。
全国小学6年生硬式野球選手権大会での活躍は勿論のこと。
U12ワールドカップでも14年振りの優勝に貢献。
神童として各所で話題になっている……らしい。
らしいと言うのは、休みの日に鈴木明彦氏からチラッと聞いただけだからだ。
まだ俺は個人用の情報端末を持っていないからな。
中学生になったら格安スマホを持たせてくれることになってるけど。
「実は、他にも色んなとこから誘われてるんだ。特待生で来てくれって」
照れたように、ちょっと自慢気に打ち明ける正樹。
しかし、これもまた当たり前のことだろう。
そうでなければ、さすがに野球関係者の頭を疑わざるを得ない。
正樹はシニアもジュニアユースも喉から手が出る程欲しい人材だ。
特待生+αで勧誘合戦をしても何らおかしくはない。
「そう言えば、秀治郎はどうなんだ?」
「ん? 俺?」
「そうそう。お前だってどっかから誘われてるんじゃないか?」
ちょっと試すような、どこかマウントを取るような目。
……ああ。
これは、調子に乗っちゃってるな。
とは言え、まだ12歳の子供であることを考えれば仕方がないことだと思う。
あれだけ不遇な目に遭っていたところから世代No.1ぐらいになったのだ。
むしろ冷静でいる方が子供らしくない。
「……いや、俺は精々入団テスト免除で入らないかって程度だよ」
正樹の質問に正直に答える。
実際、意識して彼の影に隠れるようにしてたからな。
特待生で来てくれって程の誘いは1つもなかった。
それでも一定の成績にはなってたので、名門シニアからいくつか誘いはあった。
まあ、全て断ったけど。
特待生以外では金銭的に無理だし、そもそも俺に入る意思は皆無だった。
個人のキャリアだけを考えるのであれば、選択肢としてはなしではない。
両親だって俺が本気で頼み込めば、お金を出してくれたかもしれない。
しかし、それなら最初から派手に活躍して特待生を狙えばよかった。
つまるところ、そのルートについては相当最初の方で頭の中から除外していた。
WBWでアメリカ代表を倒し、野球狂神に吠え面をかかせるために。
そして――。
「へえ。それで、どのチームに行くんだ?」
「ん? 俺はシニアにもジュニアユースにも行かないぞ?」
これもまた将来に向けた計画の一端だ。
「は? じゃあ、どうするんだよ」
「中高一貫の公立校を受験するんだ。そこで勉強しながら野球をやるさ」
その返答で、正樹は興醒めしたような顔になった。
拘っていた相手が取るに足らない小物だったことに気づいたとでも言うように。
「じゃあ、鈴木さんと浜中さんは?」
「わたしはしゅー君と一緒。聞くまでもない」
「まあ、私も同じね」
「……鈴木さんはともかく、浜中さんは何で?」
その道に進んでも夢は叶えられないだろうと暗に告げるように正樹は問う。
「別に、何でもいいでしょ? これからの世の中、学歴だって大事よ」
プイッと横を向く美海ちゃん。
正樹は納得がいっていない様子だったが、しばらくすると深く溜息をついた。
見損なったとでも言うように。
困った奴だ。
「正樹。もっと視野を広く持て。そんなだと、いつか足をすくわれるぞ?」
順当に、いい環境で野球をやっていくのは確かに正道。
9割9分9厘間違いじゃない。
けど、残りの1厘という例外に引っかき回されることがあるのも世の常だ。
イレギュラーにも程があるが、今回の俺達が正にそれだった。
「自分から落ちこぼれようとしてる奴の言うことなんて、もう聞く必要ないな」
「お前なあ……」
性格、悪くなってるぞ。
力を持てば人は変わるとよく言われる。
子供なら尚更のことだろう。
割とここが分水嶺かもしれない。
俺は教育者じゃないが、さすがに正樹にはガッツリ釘を刺しといた方がいいな。
「まあ、丁度いいか。だったら、勝負をしよう」
「勝負?」
「ああ。お互いに3打席勝負だ。お前が勝てば、これ以上は何も言わない。もしも俺が勝ったら、もう少し聞く耳を持て」
「……分かった」
頷かないと小言が続きそうだとでも思ったのだろう。
正樹は俺の提案を素直に受け入れてくれた。
さて、これが小学校最初で最後の真剣勝負になるな。
あくまでも学習指導要領に定められたクラブ活動の一環なのだから当然だ。
まあ、中学生で野球から離れるつもりの子はもう適当にしかやってないけどな。
で、U12ワールドカップも終わったある日の放課後のこと。
「こんにちは、瀬川正樹君」
練習中の俺達のところへ来客があった。
スーツを着た大人の男性。
隣にはすなお先生がいるので、とりあえず不審者ではなさそうだ。
「私は東京プレスギガンテスのジュニアユースチームの者です」
懐から名刺を取り出し、正樹に渡す男性。
チラッと盗み見る。
そこには東京プレスギガンテスジュニアユースチームスカウトと書かれていた。
「君をチームに迎え入れたくてね。まずは挨拶を。日を改めてご両親にも説明をしたいから、これを渡して貰えるかな」
男性は更にビジネスバックから封筒を取り出して差し出す。
案内の書類が入っているのだろう。
東京プレスギガンテスは公営の名門プロ野球チーム。
その傘下のユースチームの更に下部の組織。
ジュニアユースチームからのお誘いだ。
前世だとサッカーの方で一般的なシステムだが、この野球に狂った世界だと野球でも広く当たり前に採用されている。
「君には是非、特待生として私達のチームに入って欲しいんだ」
聞き耳を立てていた周りの子から「凄い!」という声が上がる。
正樹も満更でもないような顔。
嬉しさを隠し切れていない。
実際、男性が帰った後にはガッツポーズしていたぐらいだ。
まあ、正樹に誘いが来るのは当然の帰結だ。
少なくとも野球界において、正樹は一躍時の人となった。
全国小学6年生硬式野球選手権大会での活躍は勿論のこと。
U12ワールドカップでも14年振りの優勝に貢献。
神童として各所で話題になっている……らしい。
らしいと言うのは、休みの日に鈴木明彦氏からチラッと聞いただけだからだ。
まだ俺は個人用の情報端末を持っていないからな。
中学生になったら格安スマホを持たせてくれることになってるけど。
「実は、他にも色んなとこから誘われてるんだ。特待生で来てくれって」
照れたように、ちょっと自慢気に打ち明ける正樹。
しかし、これもまた当たり前のことだろう。
そうでなければ、さすがに野球関係者の頭を疑わざるを得ない。
正樹はシニアもジュニアユースも喉から手が出る程欲しい人材だ。
特待生+αで勧誘合戦をしても何らおかしくはない。
「そう言えば、秀治郎はどうなんだ?」
「ん? 俺?」
「そうそう。お前だってどっかから誘われてるんじゃないか?」
ちょっと試すような、どこかマウントを取るような目。
……ああ。
これは、調子に乗っちゃってるな。
とは言え、まだ12歳の子供であることを考えれば仕方がないことだと思う。
あれだけ不遇な目に遭っていたところから世代No.1ぐらいになったのだ。
むしろ冷静でいる方が子供らしくない。
「……いや、俺は精々入団テスト免除で入らないかって程度だよ」
正樹の質問に正直に答える。
実際、意識して彼の影に隠れるようにしてたからな。
特待生で来てくれって程の誘いは1つもなかった。
それでも一定の成績にはなってたので、名門シニアからいくつか誘いはあった。
まあ、全て断ったけど。
特待生以外では金銭的に無理だし、そもそも俺に入る意思は皆無だった。
個人のキャリアだけを考えるのであれば、選択肢としてはなしではない。
両親だって俺が本気で頼み込めば、お金を出してくれたかもしれない。
しかし、それなら最初から派手に活躍して特待生を狙えばよかった。
つまるところ、そのルートについては相当最初の方で頭の中から除外していた。
WBWでアメリカ代表を倒し、野球狂神に吠え面をかかせるために。
そして――。
「へえ。それで、どのチームに行くんだ?」
「ん? 俺はシニアにもジュニアユースにも行かないぞ?」
これもまた将来に向けた計画の一端だ。
「は? じゃあ、どうするんだよ」
「中高一貫の公立校を受験するんだ。そこで勉強しながら野球をやるさ」
その返答で、正樹は興醒めしたような顔になった。
拘っていた相手が取るに足らない小物だったことに気づいたとでも言うように。
「じゃあ、鈴木さんと浜中さんは?」
「わたしはしゅー君と一緒。聞くまでもない」
「まあ、私も同じね」
「……鈴木さんはともかく、浜中さんは何で?」
その道に進んでも夢は叶えられないだろうと暗に告げるように正樹は問う。
「別に、何でもいいでしょ? これからの世の中、学歴だって大事よ」
プイッと横を向く美海ちゃん。
正樹は納得がいっていない様子だったが、しばらくすると深く溜息をついた。
見損なったとでも言うように。
困った奴だ。
「正樹。もっと視野を広く持て。そんなだと、いつか足をすくわれるぞ?」
順当に、いい環境で野球をやっていくのは確かに正道。
9割9分9厘間違いじゃない。
けど、残りの1厘という例外に引っかき回されることがあるのも世の常だ。
イレギュラーにも程があるが、今回の俺達が正にそれだった。
「自分から落ちこぼれようとしてる奴の言うことなんて、もう聞く必要ないな」
「お前なあ……」
性格、悪くなってるぞ。
力を持てば人は変わるとよく言われる。
子供なら尚更のことだろう。
割とここが分水嶺かもしれない。
俺は教育者じゃないが、さすがに正樹にはガッツリ釘を刺しといた方がいいな。
「まあ、丁度いいか。だったら、勝負をしよう」
「勝負?」
「ああ。お互いに3打席勝負だ。お前が勝てば、これ以上は何も言わない。もしも俺が勝ったら、もう少し聞く耳を持て」
「……分かった」
頷かないと小言が続きそうだとでも思ったのだろう。
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