ひと夏を戯れたホテル

清水レモン

本当のこと?

「ところで本当のこと教えてくれる?」
「本当のことって?」
「本当のこと。そのまんまよ?」
「えっと、ですね? どの本当」
「う~ん!」
「うん?」
「ほわい! あなた、ここにいるのです?」
「ごめん。会いたくて来ちゃった」
「そういうのは、いいです。いいですから」
「いいのです?」
「いいのです! だから本当のことを!」
「ああ」
「さあ」
「ごめん。おれ予備校サボって逃げてきた」
「くあ!?」
「どうしよう。って、とまどってるところだよ」
「とまどうペリカンね」
「ペリカンじゃないけどペリカンいるんだっけ?」
「このあたりじゃいないけど、あっち。山の向こうのパラダイスにいるよ」
「そっか。見てみたいかも」
「本気じゃないのでしょ?」
「サボったのは本気です!」
「お父さんに殺されるよ?」
「むしろほめていただきた」
「ムリ! 絶対やばいパターンだわ」
「そこを、なんとか?」
「夏休みで夏休みだし夏休みだからグレちゃう子とか多いし」
「ぐれてるわけじゃないですよ?」
「親は勘違いする生き物なのよ!」
「それは、まあ。かも?」
「だとすると」
「だとすると?」
「私が危ない!」
「なぜ!」
「共犯者と思われちゃうじゃんよ!?」
「いや。あくまで、おれの独断と偏見で決行したのであ」
「んな話ちゃんと聞く親ですか? そゆ親なら家出しなかったんじゃなくて?」
「くっ」
「いちいち問題ありそうって感ずいてたけど、まさかこんな展開で来るとは」
「大丈夫です。安心してください」
「どこに安心できる要素がある?」
「巻き込みません、さやかさんを」
「もう巻き込まれてるっぽいよ?」
「このまま。すれ違えば問題なし」
「たまに、すごいこと言うよね?」
「気づかぬふりで、さささっとさ」
「あのう。まさかと思うけど?」
「うん?」
「逆の立場なら、どうします?」
「逆の立場。とは?」
「私が家出して、あきらくんが私を見つけて。ってなってたら」
「助けるよ」
「でしょ?」
「なにも迷うことなく」
「じゃあ私も。同じよ」
「ん?」
「まかせてよ? ちゃんと生活に困らないように手配したげる」
「ん? 生活?」
「家出で最大の難関は、生活できるかどうかにかかってます」
「壮大になってきた」
「こちらの本気を親に理解させるためには、まずは長期戦です」
「ふん?」
「大人はね、『どうせ、すぐに、ねをあげるさ』て思うのよ。
 ちがうんだってとこ。見せましょ!」
「よくわかんないけどそうだな。見せたろう!」
「よしっ。のったわ!」
「ありがとう! なんかチカラが湧いてきたぞ?」
「じゃあ、案内するわ。ついてきて」
「おう!?」
「あ。そうそう、行っておくけどね?」
「ふお?」
「ここの海は、あきらくんとこの海とちがくてね?」
「色すごいね。キレイだった」
「もう見てきたのね?」
「そりゃもうさ」
「さすが。でね? ただの潮風じゃないですから」
「特別なんだね?」
「砂まじりです。そんなふうに、くちポカーンあけてたら、ジャリジャリするよ」
「いたそう」
「口内炎なるから気をつけてね」
「どんな潮風だよ」
「ふつうよ。でも。ハンパないから」
「気をつけます」
「それじゃあ、まずは。お仕事からかしらね?」

さやかに連れられてきたのは、見るからに喫茶店な雰囲気のカフェでした。
どっからどう見ても、喫茶店。だよね?
「惜しい!」
「って、ちがうの?」
「常連さんにコーヒー出すけど基本は天然石の販売とアクセサリー教室よ」
「でも看板には、かふぇって」
「中古物件で買っただけだから。さ。入って」
「おう?」
「さ」
カラーン!
チーニ! チーニ!
金属系のチャイムっぽい音色けたたましく鳴り響いて、その残響いつまでも続く。
なかなかのスケール感だな。
と思った時には、もう。
「マスター。お連れしました、バイト希望者です未経験の高校生よ?」
「ほ?」
「自己紹介どぞ!」
「はじめまして、さやかさんには常日頃よりお世話になっております。
 わたくし、」
と名前をかたろうとした瞬間、さやかが小声でシャウトした、
「要するに、あきらさんです。こちらが。文通してる彼氏だよ」
「うお! いらっしゃい? いきなりだこと。あのガリベンくんかい?」
どういうふうに話が、いってるというのだろう。
「そおです。勉強しかしたことないっていうくらいのガリベン野郎の塾通いです」
「それなのに海に? 遊びに来たわけじゃない。のかな?」
「家出らしいよ!」
そこ、言っちゃう?
「家出かよ!」
「家出だよ!」
「ガリベンじゃなかったのかよ」
「勉強しすぎで逃げ出してきたみたいよ」
「そりゃあ大変だ?」
「まずは生活の基盤を整えないといけないでしょ?」
「うん。そうだな、じゃあさ。あきらくん。まずは研修からスタートでいこうか」
「よろしくお願いします」
「うん。研修だから時給う~ん、う~ん、う~ん?」
「パパじゃないわマスター、時給くらいピンはねしちゃっていいから見逃して!」
え?
「そうか。そうだな。メシは、うちで一緒に食べれば浮くし?」
「そうよ。それから部屋なんだけど、ひとへや。用立てても?」
「それか。それな。じゃあ、リゾートチームの分から、サクッと」
「いいの?」
「まだ契約してないし」
「よかった! ね!? あきらくん、ここで一緒に働こうよ」
「おう!」
おう!?
おれ、なに言ってるんだろう。
てか、この展開どういうことだろう。
いつのまにか、おれ家出してることになってるっぽいし。
どうしよう。
なんか、おおごとになってる気がしなくもない。
しなくもないし、するんだけど。
なあ?

「じゃあ、ここね。この部屋」
うわ。広い。
「ちょっと狭いかもだけど、がまんしてくれたら、うれしいかも?」
「いやいやいや。かなり広いんですけど? 相部屋とかかな」
「一人用のワンルームです。照明がディスコ風味なのは気にしないでね」
「すげえ。家賃いくらなのさ」
「住み込みで働くからただ同然てゆか貸し別荘物件あまり部屋なのよ」
「ありがとう。ございます?」
「ちなみにちゃんと紹介してないけど、あれさっきの、わたしのお父さんです」
「わかる」
「パパと呼んであげてね?」
「なぜ?」
「よろこびます」
「ほう」
「それと最初に断っとくとだけど。あきらくん私の彼氏ってことになってるんで」
「はい」
「はい? 素直なのですね?」
「そのつもりです」
「どのつもりの?」
「素直で彼氏で恋人です」
「フリでいいのよ? 話あわせてくれてさえいれば」
「フリでも本気でいきます」
「そゆこと言うと私まで本気にしちゃうんだからね!」
「望むところです。よろしくお願いします」
「うわあ。うわあ。うわあ?」
「どうかした?」
「あきらくん、地元にカノジョいるでしょ?」
「か?」
「例の、おさななじみちゃんよ」
「あ~?」
「これはこれは、なんというかトライアングルきちゃいましたわ」
「そういうの?」
「ま。覚悟を決めて戦いましょ!」
「戦わなくても?」
「ダメ。戦うの。そのための家出でしょ。忘れちゃったの?」
「忘れたもなにも、そんな最初から」
戦う気なんてなかったんですけどね。
いや。
戦う気なら、まんまんでした。
おれの無意識、深層心理、心の底の底の奥底のあたりに潜んでいる感情。
というより、策略のような、なにかか。
「さあて。落ち着いたら散歩しよっか?」
さやかは爽やかに髪を風に躍らせて言う。
夏服の胸が、ひたすら眩しい。
白いだけのワンピースと思っていたら、なにか模様が浮かんできた。

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