ひと夏を戯れたホテル
プロローグ
「もう、なんか、いやだな」
声に出しこそしないが、叫んでいたよ。
電車の窓って、ぼやけた鏡。
いつもいつも歪んだ姿を写す。
でもそれ真実なんだよな?
おれは、おれのまま。だけど、歪んだり輪郭ハッキリだったり。
あいまいなピントの写真のほうが、自分らしい気がする。
家族や友だちは『それ、ピンボケだよ?』って言うけど。
美しいじゃないか!
ピントが合って、正解と言われる写真だって、それも素敵なんだろうけど。
おれは『こっちがいい』って、いつも感じてる。
自分らしさにこだわってるだけかもしれないけれど、『こっちが好き』って思う。
声に出さずに自己主張をしていたんだよ。
声に出ないままの主張を続けてるんだな。
じゃあ言葉にしたら?
声に出して言ったら?
なにかが変わる。
かもしれない。
し。
なにも変わらない。
こともありえる。
し。
どうなんだろうな。
とりあえず自問自答ばかりの毎日。
だった。
昨日までは。
けれども。
今日ついに動き始めた。
そんな気がする。
錯覚かな。でも。
そんな気がしてしまう。
だって。
もう、駅なら通過しちゃったし。
いつも降りている駅だよ。さっき、つい、さっき。
初めて見た。通過した駅のホームを窓から振り返って、曲線のカーブ越しに見えた。
あああ。
そんな感想。
通過しちゃった。
他人事みたいに。
ああ。
でも。おれが望んでいたのって、こういうことだったんじゃないのかなあ?
声に出すより先に、行動してしまいました。
言葉で伝えようとするのに疲れちゃった。
だって。少なくとも父と母は、おれの話を聞かない。
聞かなかったよ。
話しかけてみた、なんて、なまやさしいものじゃなかったわけだし。
訴えてみました。
『父上、お話があります』
そんな感じで。
でも、いざ話し始めたら涙あふれてきちゃって。
とめようとしたよ必死に涙よ止まれ止まれ止まれ、そう絶叫した。脳内で。
すると、
「なんだよ、なんだよ、なんだよ?
泣いてるやつなんかと話なんかできねえよなあ?
ちゃんと冷静になってから話せ。
今日は寝ろ。疲れてんだろ?」
って父に言われて試合終了で法廷閉幕。
冷静だよ?
涙が出ていても。
疲れてないし。
勝手に疲れたことにされるの不愉快だ。
その晩そのまま眠れずに布団の中でラジオを聴いていた。
あのとき聴いたのか、別の日だったのか、記憶ごっちゃだけどさ。
だけど。
「riverside hotel」
って曲、あれいいよね?
オメガトライブの曲だよ。
周囲で知ってるひとは少ないけど、おれは好き。
秋が終われば冬になる。
冬の次は春なんだろう?
おれは夏が好きだし、冬なんかいらない。って思っちゃう。
けど。
四季の変化が美しいのは認めてる。
冬を越えたからこそ春が暖かくて、熱い夏が訪れる。
そうだとするなら、冬は必要不可欠な要素だろうし。
つらいな。
つらいよ。
青春ていう言葉が好きだった、中学生の頃までは。
だけど冷静に考えて。
いまこれコノ状況って、春じゃなくて、むしろ冬。
青い? むしろ蒼いと言いたい。
蒼い冬と書いたら、なんて読めばいい?
そんな言い方なんて、ないか。ないな。ないよな?
名前のない状況にポツリ放り込まれているんだよ!
いつか、きっと。見てろよ。
そんな決意を日々あわあわと実行し、どんな言葉にも乗らない心を持てあます。
おれが感動する音楽は、そりゃあメロディとか演奏とか重視なのかもだけど。
歌詞だって好きだよ。
おれと全然ちがう世界が歌われている。それでも好き。
もしかしたら映画を観ている感覚に近くて、小説を読んでいるみたいな?
フィクションに触れているんだけれども、おれの感動はノンフィクション。
これも現実でいいじゃんか?
さらに次の駅か。
なんて読むんだ、この駅名。
ローマ字表記を読んでみた。
知らないし聞いたことないし、いつも駅の鉄道路線図は見ているのに。
切符売り場の路線図は実際の地図とは、そりゃまあちがうことは、ちがうけれど。
こんなに知らなくて、まったく読めなくて、なんか異邦人じゃん?
ただの旅人か。
いや。
旅人ですらない。
予備校を逃げた高校生さ。
だけど。
みんなが、みんな予備校に通っていると思うなよ?
夏休みを満喫して、なにが悪い。
みんなが、みんなアルバイトをするわけじゃない。
みんなが、みんな友だちと遊んでいるとは限らない。
おれは。
次の駅に着かない。
けっこう長い距離だ。
スピードも加速された。
どこまで運ばれるんだろう?
いや。
おれが勝手に乗っているだけか。
この電車は定刻通りに発車して到着して、いずれ引き返す。
乗ったままでいれば、いずれ戻れる。
戻れる?
車庫に入ってしまう可能性は。
あるよな?
まったく別の路線に入ってしまうことは。
そういえば鉄道の知識って、あんまりない。
子供の頃すごく電車に憧れた。好きだった。
中学受験のために塾に通っているとき、電車での通学が楽しくてしかたなかった。
ような気がする。
あの時あの頃おれは成績ちっともあがんなくて。
状況としては、いまとは比較にならないほど絶望的。だった、はず。
けれど記憶たどると輝いているみたいにキラキラしてるみたいな、変。
変だな。変だよ。変なのは、おれ自身かな。かも?
いよいよ次の春は、受験なんだと。
大学だよ。大学入試が待っています。
思い起こせば、中学受験のために塾に通い始めた小学校の四年生あのときすでに。
大学受験はスタートしていたんだろうなあ。
そうとは知らずに。
親は知っていた。かもしれない。けど、本当に本気で取り組んでいたか?
おれなんかよりも、よっぽど大人たちのほうが、適当いいかげん、ぐっだぐだ。
もう、そんなこと言わないけどさ。
面と向かって訴えたところで、内容なんて気にされないし。
なんで泣いてる。
男のクセに。
みっともない。
とか、なんとか?
おれの外見に対する要求ばっか。
あいつら、みんなバカばっか。
でも結局いちばんの、ばか。
それって、おれでしたね。
だってホラなにこの景色ちょっと、ちょっと、ちょっと?
見たこともない色なんですけど。
海だっていうのは、たしかに理解できるんだけれど?
どこ、ここ。
「ご乗車いただき、ありがとうございます。
次は終点、たぬきまちこうじ、こんぶせん乗り換えのかたは向かいのホーム。
なおこの列車は車両点検のため車庫に入ります、ご乗車になれません。
次は、たぬきまちこうじ、終点たぬきまちこうじ、
ご乗車いただき誠にあり」
車窓からホームが見えた。
ずいぶん大きくて立派な駅舎らしい建物チラリ見える。
レールは蛇行していて、右往左往している感じがした。
ぷしゃー。
しゅー。
ジュゴッ。
っ。
ドッドッドッドッ。
電車と駅のホームの間は、かなり広かった。
そのまま降りてしまえそうなくらい。
高さもある。ホームが低くて、えいやっと飛んだよ。
着地に成功!
今日ひとつの成功体験を積みました。
経験値アップだね!?
経験値だけで生きていけたら、いいんだけどな?
スキルも必要なんならMPも重要で結局なにもかも修得したもん勝ち。
かな?
よくわかんねえ!
それにしても、ほんとココどこ?
さっきまで見えていた海は、どこにも見当たらない。
けど潮の香り、するする。するよ、するね、するさ。
潮風だ!
まちがいない。
いま見えていないけれど、必ず海そこにあって、波ざばん。
だよな、だよね、ちがう?
いま見えている世界だけがすべてじゃないんだから、向こうに行きたい。
行って見たい。
そういえば、車掌さんて来なかったな?
ちっとも考えもしなかった。
乗り越し精算しなきゃだけど、なんか誰とも会っていない。
ひょっとして、これって、ひとり旅?
あはは。
だったらいいのにな?
折り返して帰るつもりだったけど、この電車は点検で車庫に入るっていうし。
どうせ乗り越しで運賃しっかり払わないとだし。
ならば!
降りてみよう。
か?
この駅。
どんな駅。
降りてみて、ぶらり。
そうだ。
もう一度あの海さっき見た海あの色を、見たいな。見たいし。見なきゃ!
声に出しこそしないが、叫んでいたよ。
電車の窓って、ぼやけた鏡。
いつもいつも歪んだ姿を写す。
でもそれ真実なんだよな?
おれは、おれのまま。だけど、歪んだり輪郭ハッキリだったり。
あいまいなピントの写真のほうが、自分らしい気がする。
家族や友だちは『それ、ピンボケだよ?』って言うけど。
美しいじゃないか!
ピントが合って、正解と言われる写真だって、それも素敵なんだろうけど。
おれは『こっちがいい』って、いつも感じてる。
自分らしさにこだわってるだけかもしれないけれど、『こっちが好き』って思う。
声に出さずに自己主張をしていたんだよ。
声に出ないままの主張を続けてるんだな。
じゃあ言葉にしたら?
声に出して言ったら?
なにかが変わる。
かもしれない。
し。
なにも変わらない。
こともありえる。
し。
どうなんだろうな。
とりあえず自問自答ばかりの毎日。
だった。
昨日までは。
けれども。
今日ついに動き始めた。
そんな気がする。
錯覚かな。でも。
そんな気がしてしまう。
だって。
もう、駅なら通過しちゃったし。
いつも降りている駅だよ。さっき、つい、さっき。
初めて見た。通過した駅のホームを窓から振り返って、曲線のカーブ越しに見えた。
あああ。
そんな感想。
通過しちゃった。
他人事みたいに。
ああ。
でも。おれが望んでいたのって、こういうことだったんじゃないのかなあ?
声に出すより先に、行動してしまいました。
言葉で伝えようとするのに疲れちゃった。
だって。少なくとも父と母は、おれの話を聞かない。
聞かなかったよ。
話しかけてみた、なんて、なまやさしいものじゃなかったわけだし。
訴えてみました。
『父上、お話があります』
そんな感じで。
でも、いざ話し始めたら涙あふれてきちゃって。
とめようとしたよ必死に涙よ止まれ止まれ止まれ、そう絶叫した。脳内で。
すると、
「なんだよ、なんだよ、なんだよ?
泣いてるやつなんかと話なんかできねえよなあ?
ちゃんと冷静になってから話せ。
今日は寝ろ。疲れてんだろ?」
って父に言われて試合終了で法廷閉幕。
冷静だよ?
涙が出ていても。
疲れてないし。
勝手に疲れたことにされるの不愉快だ。
その晩そのまま眠れずに布団の中でラジオを聴いていた。
あのとき聴いたのか、別の日だったのか、記憶ごっちゃだけどさ。
だけど。
「riverside hotel」
って曲、あれいいよね?
オメガトライブの曲だよ。
周囲で知ってるひとは少ないけど、おれは好き。
秋が終われば冬になる。
冬の次は春なんだろう?
おれは夏が好きだし、冬なんかいらない。って思っちゃう。
けど。
四季の変化が美しいのは認めてる。
冬を越えたからこそ春が暖かくて、熱い夏が訪れる。
そうだとするなら、冬は必要不可欠な要素だろうし。
つらいな。
つらいよ。
青春ていう言葉が好きだった、中学生の頃までは。
だけど冷静に考えて。
いまこれコノ状況って、春じゃなくて、むしろ冬。
青い? むしろ蒼いと言いたい。
蒼い冬と書いたら、なんて読めばいい?
そんな言い方なんて、ないか。ないな。ないよな?
名前のない状況にポツリ放り込まれているんだよ!
いつか、きっと。見てろよ。
そんな決意を日々あわあわと実行し、どんな言葉にも乗らない心を持てあます。
おれが感動する音楽は、そりゃあメロディとか演奏とか重視なのかもだけど。
歌詞だって好きだよ。
おれと全然ちがう世界が歌われている。それでも好き。
もしかしたら映画を観ている感覚に近くて、小説を読んでいるみたいな?
フィクションに触れているんだけれども、おれの感動はノンフィクション。
これも現実でいいじゃんか?
さらに次の駅か。
なんて読むんだ、この駅名。
ローマ字表記を読んでみた。
知らないし聞いたことないし、いつも駅の鉄道路線図は見ているのに。
切符売り場の路線図は実際の地図とは、そりゃまあちがうことは、ちがうけれど。
こんなに知らなくて、まったく読めなくて、なんか異邦人じゃん?
ただの旅人か。
いや。
旅人ですらない。
予備校を逃げた高校生さ。
だけど。
みんなが、みんな予備校に通っていると思うなよ?
夏休みを満喫して、なにが悪い。
みんなが、みんなアルバイトをするわけじゃない。
みんなが、みんな友だちと遊んでいるとは限らない。
おれは。
次の駅に着かない。
けっこう長い距離だ。
スピードも加速された。
どこまで運ばれるんだろう?
いや。
おれが勝手に乗っているだけか。
この電車は定刻通りに発車して到着して、いずれ引き返す。
乗ったままでいれば、いずれ戻れる。
戻れる?
車庫に入ってしまう可能性は。
あるよな?
まったく別の路線に入ってしまうことは。
そういえば鉄道の知識って、あんまりない。
子供の頃すごく電車に憧れた。好きだった。
中学受験のために塾に通っているとき、電車での通学が楽しくてしかたなかった。
ような気がする。
あの時あの頃おれは成績ちっともあがんなくて。
状況としては、いまとは比較にならないほど絶望的。だった、はず。
けれど記憶たどると輝いているみたいにキラキラしてるみたいな、変。
変だな。変だよ。変なのは、おれ自身かな。かも?
いよいよ次の春は、受験なんだと。
大学だよ。大学入試が待っています。
思い起こせば、中学受験のために塾に通い始めた小学校の四年生あのときすでに。
大学受験はスタートしていたんだろうなあ。
そうとは知らずに。
親は知っていた。かもしれない。けど、本当に本気で取り組んでいたか?
おれなんかよりも、よっぽど大人たちのほうが、適当いいかげん、ぐっだぐだ。
もう、そんなこと言わないけどさ。
面と向かって訴えたところで、内容なんて気にされないし。
なんで泣いてる。
男のクセに。
みっともない。
とか、なんとか?
おれの外見に対する要求ばっか。
あいつら、みんなバカばっか。
でも結局いちばんの、ばか。
それって、おれでしたね。
だってホラなにこの景色ちょっと、ちょっと、ちょっと?
見たこともない色なんですけど。
海だっていうのは、たしかに理解できるんだけれど?
どこ、ここ。
「ご乗車いただき、ありがとうございます。
次は終点、たぬきまちこうじ、こんぶせん乗り換えのかたは向かいのホーム。
なおこの列車は車両点検のため車庫に入ります、ご乗車になれません。
次は、たぬきまちこうじ、終点たぬきまちこうじ、
ご乗車いただき誠にあり」
車窓からホームが見えた。
ずいぶん大きくて立派な駅舎らしい建物チラリ見える。
レールは蛇行していて、右往左往している感じがした。
ぷしゃー。
しゅー。
ジュゴッ。
っ。
ドッドッドッドッ。
電車と駅のホームの間は、かなり広かった。
そのまま降りてしまえそうなくらい。
高さもある。ホームが低くて、えいやっと飛んだよ。
着地に成功!
今日ひとつの成功体験を積みました。
経験値アップだね!?
経験値だけで生きていけたら、いいんだけどな?
スキルも必要なんならMPも重要で結局なにもかも修得したもん勝ち。
かな?
よくわかんねえ!
それにしても、ほんとココどこ?
さっきまで見えていた海は、どこにも見当たらない。
けど潮の香り、するする。するよ、するね、するさ。
潮風だ!
まちがいない。
いま見えていないけれど、必ず海そこにあって、波ざばん。
だよな、だよね、ちがう?
いま見えている世界だけがすべてじゃないんだから、向こうに行きたい。
行って見たい。
そういえば、車掌さんて来なかったな?
ちっとも考えもしなかった。
乗り越し精算しなきゃだけど、なんか誰とも会っていない。
ひょっとして、これって、ひとり旅?
あはは。
だったらいいのにな?
折り返して帰るつもりだったけど、この電車は点検で車庫に入るっていうし。
どうせ乗り越しで運賃しっかり払わないとだし。
ならば!
降りてみよう。
か?
この駅。
どんな駅。
降りてみて、ぶらり。
そうだ。
もう一度あの海さっき見た海あの色を、見たいな。見たいし。見なきゃ!
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