ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平

第33話 監視カメラの映像

 祖母の家の前、鉱山ダンジョン前の道路は、パトカーが何台も停車して赤色灯を回していた。
 午後五時を過ぎていたので辺りは暗く、パトカーの赤色灯の光が、不気味に祖母の家を照らしていた。

 祖母の家には、規制線――黄色いテープ――が張られていて、沢山の警察官が出入りしている。
 俺は家の前にいる警察官につかみかかる勢いで話しかけた。

「この家の者です! 何かあったんですか!?」

 青い顔をした沢本さんが俺に続く。

「オイ! 入れてくれ! 娘がいるんだよ!」

 警察官は、俺たち三人の身分証を確認して中に入れてくれた。

 急いで玄関から、祖母の家に上がる。
 キッチンにある食卓の椅子に祖母と優里亜ちゃんが座っていた。
 警察官とダンジョン省の片山さんも同席していて、事情聴取を受けているようだ。

「ばあちゃん!」
「優里亜!」

 俺と沢本さんが近づくと、祖母はホッとした顔を、優里亜ちゃんは笑顔を見せた。

「ばあちゃん! 大丈夫? 怪我をしていない?」

「ああ、カケルちゃん! 帰ってきて良かった! 怪我はないよ。優里亜ちゃんが助けてくれたからね」

「優里亜ちゃんが?」

 俺が優里亜ちゃんを見ると、優里亜ちゃんは最高のドヤ顔をした。

「そうだよ! 私がね! カケルのおばあちゃんを守ったんだよ!」

 俺はわけがわからず、片山さんの顔を見た。
 片山さんが、真剣な表情で事情を話し出した。

「二時間ほど前、若い男が訪ねてきたそうです。おばあ様がインターフォン越しに対応したのですが――」

 若い男は『シズカを出せ!』とインターフォン越しに散々怒鳴ったそうだ。
 祖母もヤバイと思って、『この家に、そんな人はいません』とインターフォン越しに返事をしたが、若い男は『ここにいることはわかっているんだ!』と怒鳴り続けたらしい。

 やがて若い男はしびれを切らし、家の敷地に入って玄関のドアを乱暴に叩いた。
 祖母はドアを開けずに『帰れ! 警察を呼ぶぞ!』と警告した。

 若い男はブチ切れ、玄関の隣にある部屋の窓ガラスを蹴破って、土足で祖母の家に入ってきた。
 祖母によると、若い男は二十代半ばで真面目そうな外見だったが、怒った顔は恐ろしかったらしい。

『シズカを出せ! かくまってるだろう!』

 若い男は祖母を殴ろうとした。
 そこへ、優里亜ちゃんが駆け込んできて、『シズカお姉ちゃんの部屋は二階だよ!』と若い男に教えた。

『シズカー! 見つけたぞー!』

 若い男が二階へ上がった隙に、優里亜ちゃんは祖母の手を引いて、非常用の避難部屋に逃げ込んだ。
 優里亜ちゃんは、避難部屋を内側からロックすると、非常事態を報せる緊急通報ボタンを押した。

 それから警察が駆けつけ、祖母と優里亜ちゃんは保護されたが、若い男は立ち去った後だった。
 話を聞き終えると、俺たちはしばらく無言だった。

「優里亜ね! ちゃんと覚えてたんだよ! 工事のおじちゃんが来て、説明したでしょ!」

 優里亜ちゃんが、エヘンと胸を張った。

 本当に、よく覚えていたな。
 避難部屋の工事が終った時に、工事業者さんが説明しただけなのに。
 それに、若い男が暴れている時に、機転を利かせて避難部屋に逃げ込むなんて、なかなか出来ないぞ。

 俺は優里亜ちゃんの頭を撫でながらお礼を伝えた。

「優里亜ちゃん、ありがとう! 優里亜ちゃんが、ばあちゃんを守ってくれたね! すごいね!」

「優里亜! 偉いぞ! さすが、私の娘!」

「そうでしょ! エヘン! エヘン!」

 優里亜ちゃんは、沢本さんに抱っこされ、俺に頭を撫でられてご機嫌だ。
 だが、問題は……若い男だ。

「それで、若い男ですが……」

 若い男について聞こうとしたが、優里亜ちゃんのいるところでする話ではなさそうだ。
 祖母に頼んで、優里亜ちゃんを居間に連れて行ってもらった。

 キッチンには、俺、沢本さん、御手洗さん、ダンジョン省の片山さん、事情聴取の警察官の五人になった。
 最初に口を開いたのは片山さんだ。

「私はダンジョン省で仕事をしていたのですが、緊急事態の通報を受けて急いで来たのです」

 土曜日も仕事だったのか!
 片山さんは、忙しいところを駆けつけてくれたみたいだ。

「片山さん。ありがとうございます! 祖母も心強かったと思います」

「あの……、それで……、警察の方と監視カメラの記録映像を確認しました。これです」

 片山さんが、ノートパソコンの画面をこちらに向けた。
 ノートパソコンの画面には、監視カメラの映像、祖母の家の前が映っている。

 道路に黒い車が止まった。
 車高の低いミニバンで、窓にはスモークがかかっている。
 夜番のガードマンさんから報告があった黒い車か?

 黒いミニバンから、若い男が降りてきた。
 映像を見る限り、若い男は小柄で髪の毛は黒、乱暴をしそうなタイプには見えない。
 声は録音されていないが、若い男の体が大きく揺れていて、インターフォンを手で乱暴に叩いている。
 道路沿いに取り付けてあるインターフォンに激しく怒鳴っている様子がうかがえる。

 鉱山ダンジョンの前で立っている年輩のガードマンさんが、若い男に何か声をかけたが、若い男はガードマンさんを突き飛ばして、祖母の家の敷地に入ってきた。

「監視カメラの映像は、ここまでです。それで、この男の身元ですが……」

 片山さんは非常に言いづらそうにしていて、チラリと警察官を見た。
 片山さんの視線を受け取った警察官は、表情を変えずに淡々と手にした手帳を読み上げた。

「この若い男ですが、若山拓也、二十六才と思われます。若山は、昨年、そちらにお座りの御手洗さんにストーカー行為を行い、警察から警告を受けています」

「なっ!?」

 俺は思わず声を上げてしまった。
 そんな話は聞いてないぞ!

 警察官は、冷静な声で話を続ける。

「御手洗さん。この監視カメラの映像をご覧になって、どうでしょう? この男は、若山で間違いないでしょうか?」

 全員の視線が御手洗さんに注がれた。

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