ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平

第17話 レベルアップの罠

 うちの鉱山ダンジョンを引き続き探索する。
 俺は腕に残った沢本さんの柔らかい感触を思い出さないように、緊張感を持って鉱山ダンジョンの坑道を進む。

 俺は健康な男子なのだ。
 雑念が入っては、色々と探索に支障が出る。
 俺は再び集中した。

「出たぞ!」

 今日、二匹目の魔物、スコップを持ったコボルドが現れた。

「俺が出る! 沢本さんは、トドメを!」

「任せろ!」

 俺はバールを両手で握って、先ほどの戦闘と同じように左前へ踏み出す。
 魔物コボルドは、先ほどの戦闘とまったく同じ動きをした。
 まるでトレースしているようだ。

 俺は落ち着いてコボルドの動きを見て、振り下ろされたスコップをバールで受け止めた。

「もーらいっ!」

 絶妙のタイミングで沢本さんが、細身の剣で突きを放つ。
 細身の剣がコボルドに深く突き刺さり、コボルドはうめき声とともに光の粒子になって消えた。
 光の粒子の一部は、パーティーメンバー全員に吸い込まれる。
 この体に吸い込まれる光の粒子は、経験値だといわれている。

 俺と御手洗さんの体が光った!

「うおっ!」

「ええっ!」

 光った瞬間、俺は平衡感覚を失った。
 頭がクラクラして、足腰に力が入らなくなった。

「おお! レベルアップしたな! おめでとう!」

 沢本さんが、大きな声で俺と御手洗さんを祝っているのが聞こえた。
 聞こえたけれど、どこか遠くで話しているように聞こえる。

 俺の頭は、熱が出た時のような、ボーッとした感じで、とても立っていられなかった。
 俺は、よろけてそのまま倒れてしまう。

「危ねえ! 二人ともレベルアップ酔いだな! そのまま、休んでろよ!」

 遠くで沢本さんの声が聞こえた。
 近くにいるはずなのに、遠く聞こえるということは、聴力もおかしいのだろう。

 俺の頭は少しずつ思考能力が戻ってきた。

 レベルアップ酔いとは、レベルアップ時に酔っ払ったのと似た状態になることだ。

 レベルアップ酔いが、なぜ起るのか諸説ある。

 ・レベルアップに伴って、体が再構成される。
 ・レベルアップによって、新たな力を得るから。新たな力に体が馴染もうとするから。
 ・レベルアップは、そもそも人間に備わっていない能力・現象なので、体が拒否反応を示すから。

 研究中で、はっきりしたことは、医者や学者でもわからないらしい。

 わかっていることは、レベルアップによって、各種能力が強化されること、新たなスキルを得られる場合があることだ。

(そうか、俺は強くなったのか……!)

 俺はクラクラしながらも、嬉しさをかみしめた。

 少し状態が良くなった気がする。
 レベルアップ酔いから、徐々に回復しているのだろう。
 俺は立ち上がろうとして、四つん這いの姿勢を取ろうとした。

(ん? 何だ? この感触は?)

 右手に何かを握っている。
 俺は右手で握っている物を確かめようと、手を握ったり開いたりしてみた。

(なんだ? これ? 柔らかいぞ。丁度、手に収まるな。んんん?)

 頭の中のモヤが晴れるように、意識がハッキリしてきた。
 レベルアップ酔いから回復したのだ。
 視界もクリアになって、俺はどういう状況なのか理解した。

 俺は御手洗さんの上に倒れてしまい、御手洗さんを押し倒す格好になっていた!
 そして、右手は御手洗さんの胸の上にのっていた。
 つまり、俺が握っていたのは……!

「あっ! ごめん! ごめんなさい!」

 俺は慌てて飛び起きた。
 御手洗さんは、顔を真っ赤にして俺をにらんでいる。

「いやっ! 今のは! ワザとじゃないです! 本当にクラッときて、倒れてしまったんですよ! すいません! すいません! すいません!」

 俺は必死に謝った。
 だって、御手洗さんの胸をもんでしまったのだから。

 沢本さんは、楽しそうにゲラゲラ笑っている。
 沢本さんは、状況を知っていたのに放置していたのだ。
 ヒドイ!

「いや~カケル! 積極的だな! どうだ? シズカの胸は、柔らかかったか?」

 沢本さんの冷やかしに、俺は固まる。
 よりにもよって、今、そんなことを聞くか!

「し、し、し、し、知らないよ!」

「えー、じゃあ、固かったのかよ~。シズカ~、カケルは、オマエの胸は固かったってよ! すげー、かわいそう!」

 俺は慌てて、沢本さんのコメントを否定する。

「そ、そうじゃない! 御手洗さんの胸は、凄く柔らかかったよ!」

 俺は沢本さんに右手を握ったり開いたりしてみせた。
 真っ赤な顔をした御手洗さんが近づいて、俺の頬をビンタした。

「バカッ! エッチ!」

「すいません。本当に、ごめんなさい」

 俺は平身低頭するしかなかった。
 レベルアップは、おめでたいハズなのに、なぜ、俺はひたすら謝罪を繰り返しているのだろうか?

 右手に残った感触を大切な思い出にしようと、俺は決めた。

「よし! じゃあ、進むぜ!」

 沢本さんが、前進しようと言う。
 俺はすかさず、その提案に乗る。

「ああ、レベルアップ酔いも収まったし! 行こうか? 御手洗さんは大丈夫?」

 しまった!
 声が裏返った!

「大丈夫ですけど!」

 御手洗さんの視線が厳しい!
 ツンとしていて、取り付く島もない。

 仕方がない。がんばって御手洗さんの信用を取り戻そう!

 俺たちは、鉱山ダンジョンの坑道で探索を再開した。

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