わたしの祈りは毒をも溶かす!

鼻血の親分

40話 わたしの祈りは毒をも溶かす!⑦

 表がどうも騒々しい。モッペルと一緒に窓から覗くと兵隊が一軒一軒建物に入っていく姿が見えた。

「ねぇオリビア様、こりゃ相当ヤバいよ?」
「う、うん」
「そのうちこの建屋も捜索されちゃうね。どこか隠れる場所ってあるのかしら?」

 予想以上の動きを見せる伯爵家に恐怖を感じる。そこへタイミングよく先生が現れた。

「オリビア、モッペル。このままだといずれ見つかってしまう。裏に馬車を回したから僕たちと一緒に出るんだ」
「先生はどこへ行こうとしてるの?」
「子爵邸だ。ゲーニウスと合流する」
「し、子爵家へ戻るって危険じゃないですか!?」
「既に王宮の軍隊が邸を取り囲んでいるだろう。ここよりよっぽど安全だよ」

 そうなんだ……もう戦いは始まってるのね。

 わたしどもは先生に連れられ、裏手へ回り路地を走って控えていた馬車に飛び乗った。

「よし、急いで出せ!」

 暴走気味の馬車を不審に思ったのか兵隊が両手を広げ『止まれ』と合図する。でも上手くかわして突っ走った。

「おい、怪しい馬車がいるぞー! 追えー!」

 後方より兵隊が追いかけて来たけど余裕で逃げ切り、子爵家の領地へ入った。ふと、窓から見える景色にわたしは愕然とした。軍隊が列を為しているのだ。ざっと千人はいると思われる。

「あれは我々の軍隊だ。味方だよ」

『ごくん』と喉が鳴った。

「これより子爵家へ突入する!」

 壊された門から馬車は庭園に入って行く。そして突入部隊とともに子爵邸へ踏み込んでいった。

 わたしは先生について行くしかない。兄上さまの待つ地下室へ向かってるのだろう。それにしても昼間のお屋敷はガランとしていた。誰も見当たらない。その理由が地下へ入って分かった。イービルと使用人、警護の者全てが縄で括られ監禁部屋で転がっていたのだ。その前には押収した阿片と共に兄上さまが立っている。

「ゲーニウス!」
「キース様、お待ちしてました。この通り阿片を押収しています」
「よし、ブツを押さえ占領するとこに成功したな」
「イービルや使用人らは如何しますか?」
「兵隊に見張らせて監禁しろ。お前は三宝の山を攻めるんだ。僕は伯爵邸を陥落させる」
「かしこまりました」

 楽団員の背後でびくびくしてるわたしに兄上さまが気づいた様だ。

「オリビア、大事ないか?」
「は、はい」
「お前はこの屋敷で休んでると良い。モッペル、世話を頼んだぞ」
「ええ、任せてください!」
「オリビア、必ず迎えに来るからーー」
「はい」

 そう言い残して兄上さまは先生と出て行かれた。

「お、お姉様……?」
「ん?」

 すっかり弱々しくなったイービルがわたしに何かを訴えようとしている。

 さて、我が妹をどうしてやろうか……















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