わたしの祈りは毒をも溶かす!

鼻血の親分

30話 また聞こえてます。特殊能力だなんて…⑪

 静かな夜を迎えた。少し肌寒い地下の監禁部屋で今日の嬉しかったこと楽しかったことを思い浮かべる。高揚した気分はまだ抜けないからきっとプラスの思考が働く筈だ。

 でも具体的に思い浮かばないよ。だって探検中に捕まってこのザマだもん。良いことなんて皆無だ。

 だったら先に兄上さまの思考へ入ろうと精神を整えることにした。だけど……

 あー、何かいつもと違うな。ふあふあした気分じゃ意識が飛んでいかないようーー。

 阿片吸った状態では飛べないことが分かった。これでは八方塞がりだ。兄上さまに直接お会いしたいけどそれも叶わない。思考にも入れない。つまり連絡が取れないのだ。

 ではキース先生はどうだろう。ダンスレッスンがある。いえ、今のわたしはレッスンなど受けさせて貰えないと思う。このまま伯爵邸に行くまで此処から出られないのだ。

 もはやどうしようもない……

 複雑な心境のまま何度も寝返りを打ち、ようやく明け方眠りについた。


 ***


「オリビア様、おはようございます。朝食です」

 くかー……

「あらま、まだお休みなの。まぁいっか。何もすることないもんね。あ、でもお昼過ぎには伯爵邸へ参りますからね」

 それから暫く時間が経過した。ゴソゴソと物音が聞こえてくる。ぱちりと目を覚ましたわたしは横に冷えた朝食が置かれていることに気がつく。もう朝ではないことが容易に想像できた。

「あー、寝坊だ」
「オリビア様、お食事は少しお待ちください。新しいものとお取り替えしますから」
「モッペル、わたし起きれなかった……」
「良いんです、たまには。今日は伯爵邸へ参りますよ」
「えっ? 今日なの?」
「はい、アタシもお供致します」

 此処から出られるのは嬉しい。けど、伯爵邸に行ったからって辛いことが待ち受けてる。途中で逃げる手を考えてみても何処へ行くのかアテもない。きっと失踪したと騒ぎになって捕まるのがオチだ。

 いや待てよ? 伯爵邸にはリュメル様が居る。彼に相談したらどうかな? あの御方なら何とかしてくれるかもしれない。そうだ、それしかないよ。今は声が聞こえるんだ。お話が出来る。置かれた状況の説明も上手く出来るわ!

 わたしは一縷いちるの望みを彼に託すことに決めた。

 そして……

 ゴトンゴトンと馬車を走らせる。

 阿片の影響が残っているから気分はふあふあだ。でも何だか楽しいよ。ひょっとして良いクスリかもしれないと思ってしまうくらい爽快だった。

「オリビア様、阿片はやり過ぎたら廃人になるから気をつけないとね」

 ウキウキした気分を見透かされたのか、モッペルから危険性を指摘された。

「……うん」
「元々は痛み止めのお薬で作られたもの。でも気持ちいいから健康なのにやっちゃうんだ。乱用すると幻覚見ておかしくなる。人格が破壊されるのさ。終いには食事も取れないくらい無気力になるのよ」

 まぁだから違法なんでしようね。

「奥方様は上手いことコントロールして配分するのさ。阿片中毒でも働けないと困るからねぇ」 
「モッペル、今なら辞められるよね?」
「そうね。でもまたイービルが強制的に吸わせるんじゃないの? ヤツは鬼だ。ろくでなしのね」
「イービルか……」

 妹はいつからあんな根性悪の娘になったのかな。全然気づかなかったよ。知らない方が幸せだったと思うけどもう遅い。何度も命を狙われた。兄上さまは大怪我してまだ寝たきりだ。

 わたしは決してイービルを許すことが出来ない。








コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品