わたしの祈りは毒をも溶かす!

鼻血の親分

14話 ああっ、聞こえなくなってる!①

 馬車は倒れたままだ。その場から人が逃げて行く姿が見えたけど誰だか分からない。一方、モッペルは慌てて子爵邸へ走っていった。兄上さまを運ぶのに人手が足りないと思ったのでしょう。

 わたしは地面を這い、兄の様子を伺う。

 兄上さまっ!

「はぁはぁ、オリビア……いくらお前に魔力が掛かってるとはいえ、馬車に轢かれたら無傷では済まないだろう?」
「あ、あー、?」
「今は誰もいない。俺の前では喋ってもいいぞ」
「あ、兄上さま……どういうこと?」

 初めて人前で言葉を話した。

「聞こえる様になって知りえた情報を……キース様に……はぁはぁ」
「大丈夫ですか? もう喋らないで!」

 お屋敷から使用人が数名現れ、担架で兄上さまを運ぼうとする。その中にヘクセは居なかった。きっと犯人は彼女に違いない。馬を暴走させ、わたしを殺そうとしたのだ。

 やがて、慌てたお母様と落ち着いたイービルの姿も見えた。

 ーーゆ、許さないわ、イービル。もう我慢の限界よっ!

 わたしは後先が考えられないでいた。イービルへの憎しみが自制心を無くしたのだ。

「オリビア、何が起こったの!?」

 お母様は傷だらけで運ばれる兄を見て動揺している。紙を取り出し「書け」と訴えた。

 わたしはその紙を払い除ける。そしてもう一方の手を振りかぶった。

 バチーーンッ!

 おもむろに妹の頬を叩く。

「……なっ!? 何なの!?」
「いい加減にしなさいよ、イービル!」

 つい大声を張り上げてしまった。はっきりと口にしたのだ。お母様と妹は目をぱちくりとしながら固まってしまう。わたしが喋ったことが信じられないでいる様子だ。

「ア、アンタ……喋れるのか?」
「お姉様? 口が聞ける、話が出来る……いつから? いつからよ?」
「そこまでしてわたしに意地悪がした……あー、あー……」
「えっ!? 何だって……△□!◎$☆……」

 妹の声がザーーッという雑音に変化していく。途中から何を言ってるのかさっぱり分からない。音読不明になった。

 ああっ、聞こえなくなってる! 雑音だ。わたしが喋ったばっかりに魔力とやらが効を無くしたんだ。しまった、最悪の事態になる!

 お母様と妹は必死に何かを訴えていたけど、最早理解不能に陥ってる。多分、いつから耳が聞こえてたんだ? これまで騙していたのか? とでも言いたいのでしょうね。このままでは済まないと嫌な予感が走った。

 それよりもわたしを庇った兄上さまは大丈夫? それに魔力のこと、彼は知っていた。まさか、まさかアプレンって兄上さまなの!?

 そして知りえた情報をキース先生に伝えろってどう言う意味? キース先生って何者? そういえば伯爵邸で先生から筆談されたな。あぁ、気になることがたくさんあるよ!

 途方に暮れて立ちすくんでいたら、子爵邸で雇っている守衛がわたしの両腕を掴んできた。お母様がイービルと相談して捕まえることにしたのだと推測した。

 ちょっと、何処へ連れて行くの? 怖い、怖いよう!

 わたしはお屋敷の地下室へ連れて行かれ監禁されてしまった。

 





 

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