177.　前から後ろから

177.　前から後ろから



　無事に魚を釣って、夏帆と黒崎のところへ戻る。そこにはすでに夏帆が作った焼きそばがあった。

「お帰りなさい先輩！千春ちゃん！キャンプの定番の夏帆ちゃん特製焼きそばです！食べてください！」

「おおー美味しそう」

「焼きそばは……誰でも作れるし。」

　なぜかまた夏帆に突っかかる千春。昨日はあんなに仲良さそうにオレのこと責め立てたのに……女の子はわからん。

「ねぇ神原君。私もお肉と野菜を焼いたわよ。見て上手に焼けたわ！」

「……所々焦げているんだが？」

「これぞ豪快な男の料理って感じよね！」

「お前は女だろ」

　黒崎は自信満々な笑顔をオレに見せる。逆にそこまでドヤ顔できるところがすごいと思う。

「まぁとりあえず食べようぜ」

「はーい。じゃあいただきます！」

　そんな会話をしながらみんなでバーベキューを楽しんでいると、夏帆がオレを急に睨み付けてくる。

「ん？先輩……」

「なんだよ、何睨んでんだよ？」

「……千春ちゃんとくっつきましたね？なんか先輩の身体から若い雌の匂いがします！何したんですか！」

「別に何もしてないぞ！なぁ千春？」

「え？あー……」

　オレが千春に助けを求めると、今まであまり見たことのない悪い笑顔で顔を少し赤くしながら千春は言う。

「……抱き締めるように後ろから竿を引いてくれただけ。秋兄は悪くないよ。本当にそれだけ……だから。何もなかったし。」

「…………」

　千春！？その言い方は誤解を生むんだが……やばい！なんだこの空気！？めっちゃ気まずい！！早くなんとかしないと……。

「先輩！いい加減にしてください！千春ちゃんまで毒牙にかけましたね！？」

「違う！てかなんでそうなるんだよ！」

「だって今の発言は完全にアウトですよ！」

「はぁ！？どこがだよ！」

「千春ちゃんが抱きしめながら『後ろから』とか言ったじゃないですか！！私もされたことないのに！」

「普通に考えて『前から』とは言わないだろうが！変な風に解釈するなよ！」

「言い訳しないで下さい！この前は中学生だぞ？とか言ってたのに高校生になったらすぐそれですか！」

「あなたたち。変なこと言ってないで、ご飯冷めちゃうわよ？」

　そんなオレと夏帆のやり取りを楽しそうに見ている千春がいた。千春のやつ……この状況を楽しんでやがる。なんて奴だ。こうして楽しいバーベキュータイムを過ごしたオレたちは片付けをして帰路についたのだった。