61.　使命

61.　使命

　サーシャたちが村に入ると、そこには活気のある光景が広がっていた。木材を使った建物が並び、人々は笑顔で会話をしていたり、子供たちは元気にはしゃいでいたりと平和な村のように見えた。

「この村はのどかで良いところじゃのう」

「はい。とても居心地が良いです」

「ふわぁ～あ……眠くなってきますわね」

「リズさん……」

　サーシャはそのリズの大きなあくびを見て呆れている。こらこら。こんな外で堂々とあくびしないの。あなたお姫様でしょ？でも確かにこの雰囲気なら、のんびりしたくなる気持ちも分かる気がするけどさ。やっていい人と悪い人がいるのよ。

「とりあえず宿を探して、それからラオ=シンザのところに行こうかのう」

「はい。分かりました」

「賛成ですわ！」

　こうして3人は宿屋を探すのだった。そしてしばらく歩いていると……

「あれは何でしょうか？」

　サーシャは露店が並ぶ通りを見つけた。そこはアクセサリーを売っているようで、女性客が多く集まっていた。

「綺麗ですわ！私、見てきますわね！行きますわよサーシャ」

「あっリズさん！？引っ張らないで」

　リズはサーシャを引っ張って、アクセサリー屋に向かった。なんか……サーシャとリズって仲の良い姉妹みたいね。

「これはなかなか美しいのう」

「はい。本当に素敵です」

「女性はこういうものにやっぱり憧れますわよね！」

　そこには花をモチーフにしたネックレスやイヤリング、指輪などが並べられていた。どれも美しく、値段もそこまで高くないので、若い女性を中心に人気がありそうだった。

　サーシャは元貴族令嬢、リズは一国のお姫様。戦いに身を投じなければ、彼女たちもきっと今頃こういったものを身に着けて楽しんでいたことだろう。しかし、そんなことは叶わない夢物語だけどね。

「あっ。私この腕輪が欲しいです！」

　サーシャが手に取ったのは小さな紫色の花の飾りがついた銀色の腕輪だった。

「あら。意外と乙女チックなものを選ぶんですのね」

「えっ？」

　サーシャは自分の選んだものが意外だと言われ戸惑っていた。

「サーシャ。こういうのが好きなのかしら？」

　リズはサーシャが持っている腕輪を見ながら言うと、サーシャはすこし顔を赤らめながら話す。

「……このお花『アイリス』って言うんです。花言葉は『使命』。アイリス様と同じ名前だし、なんか今の私にピッタリかなと思って……」

「なるほどのう……いいんじゃないか？」

「はい。それに可愛いデザインなので……」

「サーシャに似合うと思いますわ」

　マーリンとリズにそう言われてサーシャは頬を赤くしながら微笑んだ。……私のことを思ってサーシャが選んでくれたと思うとなんか照れくさいわね。こっちまで恥ずかしくなってきたじゃないの……。

　サーシャはその腕輪を購入し、早速身に付けると、とても嬉しそうな表情を浮かべていた。その表情がまた可愛らしい。……あなた無自覚に男を惑わせる悪い女にはならないでよ？

「お嬢ちゃんたち！この辺じゃ見かけない顔だねぇ！旅の人かい？」

　すると、アクセサリー屋の店主が声をかけてきた。

「はい！私たちは『ミスリル』を加工してもらいたくてカドリー村に来たんです！」

「ならラオのじいさんか……たぶん会ってくれないと思うぜ？あの頑固ジジイだからな」

「確か変わり者と聞いてますわね」

「まぁ問題なかろう。行くぞサーシャ、リズ。ワシについてこい」

　マーリンはそのままスタスタと歩き始める。サーシャとリズは急いであとについていく。またマーリンの悪いクセが発動したみたいね……。本当に大丈夫なんでしょうねマーリン？