【大賢者の弟子?相棒?】世界の為に尽くした大賢者は転生したらただの『アイアンソード』で草生えたので、とりあえず貴族令嬢を最強にする事に決めました。

夕姫

53. 可能性

53. 可能性



 サーシャはそのあと武器屋で使いやすそうなレイピアをリズのために購入して、嬉しそうに廃屋に戻る。その足取りはすごく軽い。

「ねぇアイリス様?やっとアイリス様に会うことができる。私すごく楽しみ!」

 そんな事を呟いている。まぁ4年前に1度だけ夢の中で姿を見せたっきりだものね。マーリンの魔道具で私を具現化できるならそれはとても嬉しいことだけど、私が具現化したところでサーシャの役に立てるか心配なのよね……

 だって私はただの『アイアンソード』だし、魔力もないしね。それともう一つ。私は一体どの時の私として具現化されるのか?もし晩年の姿なら恥ずかしいし、更に役に立てるとも思えない。だからせめて若い姿で具現化されたい。

 そして廃屋に戻りマーリンには魔法具の素材と『ミスリル』、リズにはレイピアを渡す。するとサーシャはマーリンから驚きの言葉を聞かされる

「えぇ!?アイリス様が具現化できない!?」

「そうじゃ。『ミスリル』だけではまだ魔法具は作れん。それにこれだけ希少な鉱石を加工できる凄腕の鍛冶屋も必要じゃ。リズに渡す魔法具はワシでも作れるがの」

「そっそんな……アイリス様……ごめんなさい。」

 サーシャはとても申し訳なさそうな表情を浮かべ、ガックリと肩を落としている。サーシャが謝ることじゃないけどさ……私はそこまで気にしてないし。

「あら?凄腕の鍛冶屋なら私知っていますわよ?宿屋で働いていた時に、確か砂漠を越えた先の小さな村にいると聞いたことがありますわ」

「本当ですか!?」

 そのリズの言葉を聞いて、一気に表情が明るくなるサーシャ。本当に感情豊かな子ね。そんなサーシャにリズは微笑みながら続ける。

「名前は確か……『ラオ=シンザ』とか言ったかしら?なんでも凄く変わったお爺さんらしくて、その村の人以外にはほとんど会わないみたいですわよ?」

「偏屈な老人もいたもんじゃのう」

 マーリンも大概偏屈だけどね。とか言うと騒ぎそうだし黙っていることにする。

「とりあえず『ミスリル』の件は置いといて、まずはその魔法具ですよね。マーリン様お願いします」

「ふむ。任せておくがよい」

 マーリンはそう言ってサーシャの買った素材を手に取り、地面に杖で魔法陣を描き展開する。

「ではいくぞい……」

 マーリンの手から眩しい光が発せられ、徐々に魔法陣が光り輝く。しばらくしてその輝きは収まり、そこには1つの指輪が姿を現していた。その指輪は赤黒い宝石のようなものが中心に埋め込まれていて、綺麗な装飾が施されて不思議な魅力を感じる。

「完成じゃ。ほれリズよ。指にはめてみよ」

「ええ。わかりましたわ」

 リズはその指輪に手を伸ばす。そしてゆっくりと手に取り、右手の人差し指にはめた。

「これでいいのかしら?」

「ふむ。まず外せないかやって見よ」

 リズはそのまま力を入れてみるがビクともしない。まるで吸い付くようにフィットしている。それでも力を入れて外そうとするとリズの全身を魔力が駆け巡り痛みを誘発させる。

「痛い!ううっ……こっこれはなんですの!?」

 涙目になりながらマーリンに尋ねるリズ。マーリンは笑いながら答える。

「ほっほっほ。成功じゃな。言ったじゃろ?外せないとの。無理矢理外そうとしたり、お主が今の自分の魔力以上のものを出そうとすると同じ現象がおきるぞい。」

「そういうことは早く言いなさい!痛みを伴うなんて聞いてませんわよ!もう!」

 サーシャは苦笑しながらその様子を見ている。可哀想にリズ。

「ふぅ……それならそうと先に説明してくださればよろしかったのに」

「一度身を持って体験する方がわかりやすいと思っての。」

「性格悪いですわねマーリン様は……」

 まぁこれでリズの『紅蓮の仔』の問題は解決した。あとは現国王のアルガスをどうやって倒すかよね……そんなことを考えていると先ほど出会ったハリーの言葉を思い出す。

 国王の独裁と魔物の活発化の時期。やはりこれは魔族の仕業。六魔将かは分からないけど、魔族の関与があるのはほぼ間違いないわよね。だとしたら……

「あのリズさん。国王が独裁を始めたのは1ヵ月前でしたよね?」

「ええ。そうよ」

「魔物の活発化も1ヶ月前ですよね?」

「ええ。確かに1ヶ月くらい前だったと思いますわ。それがどうかしましたの?」

 やっぱりね。私は確信に近い予想をする。サーシャもマーリンも同じことを思ったのか真剣な表情を浮かべる。

「リズ。今すぐ城に向かうぞい」

「えっ?」

「おそらく国王は魔族と繋がっている可能性があります。いえ……ほぼ間違いなく繋がっています。」

「それはどういうことですの?」

 サーシャはリズにシャルドール防壁での出来事を話す。魔物の活発化には魔族の力が働いていること。そしてそれを主導しているのは六魔将である可能性が高いということ。

「まさか……そんなことが……」

「可能性の話です。ただ、今回の出来事を考えると辻妻が合いすぎているのもまた事実です。」

「ここで話していても埒があかんぞ。とりあえず急ぐのじゃ。手遅れになる前に、お主が後悔する前にの」

 リズはサーシャとマーリンの話を聞いて、少し考え込むような仕草を見せる。そして顔を上げて力強く答えた。

「分かりましたわ。行きましょう!この国を救うために!!サーシャ、マーリン様、力を貸してくださいまし!」

「もちろんです!」

「無論じゃ」

 3人は廃屋を出て、急ぎフランガラン王城へ向かう。最悪の状況にならないことを祈るだけ……そして私はできることをやるだけ。そう心に誓うのであった。

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